ダーザ・オーサムというショタキャラ21
「お姉様。テストの結果が貼りだされているそうですよ。見に行きましょう」
…別にいいんだけど。別にいいが、トリエットよ。お前、もう呼び名訂正する気もねぇな。
「…そうね。見に行きましょうか」
トリエットに手を引かれるままに、私はテスト結果が張り出されているフロアへと足を運ぶ。
…平常心、平常心。
自然と早くなる鼓動を、無理矢理抑え込んだ。
--あれからあっという間にテスト週間が訪れた。
元々の土台がハイスペックとはいえ、私は天才型というよりも寧ろ、秀才型。
勉強を全くしないで、テストの上位余裕というわけでもないので、取りあえず他の事は脇目も振らずに、勉強に打ち込んだ。
ボレア家として、恥ずかしくない成績をとらなければ。
そんな強迫観念は、もはや当たり前のものとして私の胸の内に存在する。そんな自分の矜持を、何があっても裏切るわけにはいかない。
ダーザのことも、デイビットのことも忘れて、ひたすら教科書とノートに睨めっこする日々。私の場合、必死に頑張っている姿を表に出すわけにはいかないので、学園内ではろくに勉強に打ち込めない分、家で人の倍勉強しなければならない。
テスト?何それ。余裕ですわ。…そんな風に優雅にすましているかのように見えて、その実、密かに勉強に打ち込む私は、まるで颯爽と水面を流れる裏で、水中では必死に足を動かしている白鳥のようだろう。真実を知れば人は滑稽だと笑うかもしれないが、それでも今さらこの姿勢は崩せない。
いいんだ…誰にもばらしはしないから。
誰かにとっては、くだらない無意味なプライドでも、私にとってそれは、私が私で--ルクレア・ボレアである為のプライドだ。
絶対に、譲れない。
プライドに見合った結果を、ボレア家に相応しい成績を、なんとしてでも修めて見せる。
結果が伴わないプライドなど、惨めで愚かしいだけだから。
内側に燻る闘志を、そして望みの結果を出せているのかという不安を押し隠しながら、私はフロアの人ごみの中に身を投じる。
口元には微笑。
僅かに顰めた眉は、密集した人間の鬱陶しさ故に。
歩く姿は、流れるように、貴族らしい気品を讃えて。
…よし、大丈夫。
ちゃんと、ルクレア・ボレアを、私は演じている。
どんな結果が出ていようと、みっともなく動揺なんか、しない。
「…人が多くて見にくいですね」
背の低いトリエットは、必死の爪先立ちをして、前方の人垣を越えて、テストの結果を見ようとする。
「…あ!!ありました。お姉様の名前、ありました…!!」
私が見つける前に、私の名前を見つけたらしいトリエットは、顔に喜悦の笑みを浮かべてぴょんぴょんと飛び跳ねる。
実に愛らしい姿だが、残念ながらトリエット愛でている余裕など、今の私にはない。
乾いた唇をこっそり舐めあげて、尋ねた。
「…そう。何位だったかしら?」
「5位です!!さすがお姉様!!素晴らしい成績です!!」
トリエットの言葉に、密かに胸を撫で下ろす。
全学年で5位…。悪くない。いや、寧ろ今までよりもいい成績だ。
…よかったぁぁーーー!!
思わず安堵のため息が漏れ、全身が弛緩するのがわかった。緊張で凝り固まった体が、ほぐれていく。
今回もまた、ボレア家の面目を保てた。
これで、次のテストまで暫く思い悩まないですむ…。あぁ、良かった。
「トリエットは…21位。今までより、ずっと上位に入ってますわね。--頑張ったわね」
「ふふふ。お姉様にそう言ってもらえると嬉しいです」
自身の成績が分かって、ようやく、他人の成績を見る余裕が出来た。
トリエットは21位。今まで50位台前後だったトリエットにしては、かなりの高成績だ。
さぞや頑張って勉強したのだろうと、労いの言葉を掛けると、トリエットはひどく嬉しそうに頬を紅潮させて微笑んだ。
「…」
「?どうしました?お姉様」
「…いえ、何でもないわ」
…あかん。
あんまりトリエットが可愛いから、思わず精霊達のように、ほっぺちゅーしそうになってしまった。
落ち着け…んなのルクレアのキャラじゃないぞ…ちゃんとかっこいいルクレアを演じ切るんだ。私。びーくーる…。
…さて、落ち着いたところで。
他人のテスト結果と言えば、もう一人気になる人がいるわけで。
私は再び、貼りだしているテスト結果に視線を走らせる。
「…マシェルの結果は…」
「6位だな」
すぐ後ろから聞こえてきた声に、びくぅっ、と全身が跳ねた。
「お前とは5点差か…残念だ。今度こそ、お前に勝てたと思ったのに」
振り向いた先で、小さく苦笑いを浮かべるマシェル。
--ちょ、おま、いつからそこにいたんだよ…!!