ダーザ・オーサムというショタキャラ10
さて、こういう場合、どう誤魔化すのが、最善か。
慌てて取り繕ったり、突然全然関係ないことを話題にしたりするのは愚策だ。
不自然過ぎて、相手にこちらの動揺がばれる。そして動揺は、知られたくない弱みを晒してしまったことを、悟らせてしまう。
かといって黙っているのなんて、もっての他だ。テンパり過ぎて何も言えなくなってしまっているのか…?そんなに隠したい秘密なのか?と相手の好奇を一層煽ってしまうことになる。
ならば、どうすればいいか。
「――みっともない所を晒してしまって、恥ずかしいですわ」
真っ直ぐにダーザを見据えて悠然と微笑むと、僅かな羞恥も表に出すことがないまま、小首を小さく傾げて見せる。
「どうも私は精霊のこととなると、平静でいられなくて。精霊使い失格ですわね。…でも、どうしても可愛くて、ついつい甘やかしてしまって」
下手に事実を隠そうとするから、つつかれるのだ。
起こった事実は、変えられない。
ならば、堂々と肯定すればいい。
人は、他人の隠し事には興味を持つが、開示された情報は、えてして自分が興味をある情報以外には価値を感じないものだ。そして興味がない情報は、積極的に覚えていようとはしない。
弱みは、それを相手に悟られなければ、弱みにはならない。ようは素の姿を晒したことを、弱みを見せたとダーザに想わせなければいいのだ。
ついつい精霊を甘やかしてしまって…でも、それがなんですの?何か文句がありまして?
舐められている?…いいえ、それだけ懐かれている証ですわ。
これが私の精霊の接し方なの。誰が何と言おうと、私はこの姿勢を貫きますわ。
えぇ。人に言い触らしたいなら、言っても構いませんわ。だって私はなにも悪いことなんて、していませんもの。
…この、スタンス。
堂々としていればいいのだ。ボレア家らしく。自らの行動を、自分で肯定すればいいのだ。
それが一番の、誤魔化す方法だ。
ダーザは私の言葉に、ぱちくり瞬きをしていたが、暫くすると口元に手を当てて何かを思案し始めた。
「…そうか…これが、意外性…」
「…?何か、おっしゃりました?」
何かつぶやいていたが、残念ながら小声で聞き取れんかった。…耳はそんなに悪くない筈なんだけどな。
「いいえ、こちらの話です」
私の言葉に、ダーザは微笑みながら、首を横に振った。
「それよりも…土属性の人型精霊と契約されているなんて、すごいですね。僕、こんな高位の精霊と契約している方と初めて会いました」
話題を変えるように告げられたダーザの言葉に、今度は私が驚かされる。
「…貴方、私の事、もしかしてご存じない…?」
私こと、ルクレア・ボレアは、自分で言うのもあれだが、有名人だ。ボレア家直系のカリスマ令嬢だ。
以前、オージンも言っていたが、学園で私の名前を知らないものは、まずいないだろう。そして私の名前がささやかれる時は、大抵セットで人型精霊4体と契約していることも話題になる。最早、枕詞と言っていいくらいに。
だから、学園の大抵の生徒は人型精霊と聞けば、まず私を思い出す筈だ。…けして自意識過剰ではなく。
それなのに、ダーザは私が誰か、全くピンと来ていない模様…地味にショックだな。こういうの。
「っ有名な方だったのですね…!?…申し訳ありません。僕はどうも、噂だとか人の名だとか、そう言ったことに疎いみたいで…!!」
私の言葉に、わたわたと慌てふためきながら頭を下げる、ダーザ。
…うん。いや、いーけどねー。絶対に知られていると思っていた分、恥ずかしいけど別に、ダーザが悪いわけじゃないから謝らなくていーですけどねー。噂とか以前に、既に学園では一般常識じゃね?と思わなくもないけど、うん。別にいーですよ?
「お気になさらないで。私だけが一方的に名を存じているという事態なんて、滅多にない分逆に新鮮ですわ…私の名前は、ルクレア・ボレア。以後お見知りおきくださいませ。ダーザ・オーサム様?」
ちくりと嫌味を混ぜつつ名乗ってやると、ダーザの表情がぴしりと固まった。
「…ルクレア・ボレア…貴女が…」
…ほう。流石に名前は知っていたか。そうだろう。そうだろう。私は有名だからな!!
名前を知っていたことに免じて、顔までは知らなかった無知さは責めないでおいてやろう。ふふん。
私の中のテンションが上がっていくのと反比例して、何故かダーザの表情は険しくなっていった。
ダーザは、少女の様な童顔に鋭い表情を纏って、私を睨み付けた。
「ルクレア・ボレア嬢…っ!!僕は、貴女には絶対負けません…っ!!」
…ほわい?
何故ここで、突然の宣戦布告?