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ダーザ・オーサムというショタキャラ7

「えぇ、そうです。たくさんの殿方に愛の言葉を告げられる女は、傍から見たら非常に魅力的な人物のように見えるでしょう。でもそれは裏を返せば侮られているだけです。この女なら、自分でも御せるかもしれないと軽んじられているだけ。愛を告げられて動揺を露わにしていると、お姉様までそんな存在に成り下がってしまいます」


「……」


「今のお姉様を見たら、野心がある人物は『なんだ、ボレア家令嬢は、こんなにも恋愛ごとに慣れていないのか』『ならば、色事で迫れば、簡単にボレア家を掌握することができるのだな』と、そう思います。お姉さまの隙を見つけた殿方は、猛獣のようにお姉様に群がり、我先にと愛を告げようとするでしょう。しかし、それじゃあ、いけません。それは、結局は、ボレア家の直系であるお姉様を侮ることで、ひいてはボレア家自体を侮ることになります…違いますか?」


 告げられた、トリエットの言葉に、かちりと自分の中のスイッチが鳴るのが分かった。

 さっきまで火照ったように熱かった全身が、瞬時に熱を失って冷めていく。


 私は、マシェルの行動で動揺して、素を露わにした自分を、ボレア家にあるまじきと叱咤していた。

 叱咤しながらも、それは私にとって小さな失敗であり、さして重要な出来事だとは考えていなかった。

 だがトリエットに諭されて、ようやく、自身の行動の愚かさを実感した。

 そうだ。あの場に居合わせた者が、私の醜態を見て、ボレア家がその程度だと思ってしまったなら、どうする?

 あの程度の言葉で、心を揺さぶられる娘を排出する程度の家だと、そう思ってしまったら?

 そして、その後、ボレア家を舐めたような行動をとったら?


 頭の奥に、氷の塊が押し込まれたかのような衝撃が走った。


 そんなの、許せるはずが、ない。


「――お姉様。お姉様は、高嶺の存在であるべきです」


 トリエットは慈愛に満ちた笑みを浮かべながら、優しく私を諭す。


「簡単には手に届かない、手を伸ばせば怪我をするかもしれない。そんな存在であることこそ、ボレア家直系であるお姉様には相応しい。…だから、駄目です。そんな風に想いを寄せられたくらいで、心を乱してはいけません。そんな男を、鼻で笑ってやるくらいでなくては」


 トリエットの言葉は、まるで洗脳のように、私の胸の奥へ沁みていく。

 …そうだ。私はルクレア・ボレア。

 孤高の、気高い、悪役令嬢。

 マジメガネに想いを寄せられたくらいじゃ、動じたりなんかしない。

 そんなのは、ルクレア・ボレアに相応しくない。ボレア家の名を負うものに、相応しくない。


 そう思った瞬間、先程までの葛藤が、胸の奥から嘘のように消え去るのが分かった。

 頭の中をぐるぐる回っていたマジメガネが、心底どうでもよくなる。

 あんな男に惑わされてはいけない。


「――ありがとう。トリエット」


 心からの感謝の笑みを、トリエットに向ける。


「貴女のお蔭で、悩みが解決したわ」


 私は、ルクレア・ボレア。

 些細な恋愛事で、心を悩ませたりなぞしない。

 だって私は、ボレア家直系だから。

 なんだか酷く清々しい気分だった。


「…あぁ、お姉様。ほんとバカワイイ。単純。このギャップが、たまらん…大好き」


「?トリエット、何か言ったかしら?」


 トリエットが小声で何か言っていたが、残念ながら聞こえなかった。

 …なんか砂糖菓子ちゃんらしくないワードが聞こえたような気がしなくもないが…


「…いえ、何でもありません」


 向けられるガチ天使な笑顔に、どうでもよくなる。

 こんな天使がバカとか悪口っぽいこと言う筈がないね!!うん!!きっと気のせいだ!!


「ふふふ…お姉様は、在学中は男なんて必要ないですよ。どうせ、卒業したら嫌でも縁談なんて舞い込むのですもの。わざわざ今のうちから、結婚相手を探す必要なんてありません。愛を告げる言葉なんて、無視すればいいのです。今は女同士の友情を育みましょう」


 そう言って、私の手を両手で握り締めるトリエット。

 向けられる視線が、なんか、やけに熱い。


「女同士で。私とお姉様の、二人だけで、密接な関係を築きましょう…ふふふふふふ…男なんて、必要ないです」


 …なんか背筋に冷たいものが走ったのも、きっと気のせいだと信じたい。


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