オージン・メトオグという王子15
「…やっぱり、効かないか」
オージンが、残念そうに肩を竦める……何を企んでやがったんだ、こいつ。
「あれ、ルクレア嬢、知らない?王族はね、ほんの少しだけだけど、淫魔族同様に【魅了】の魔法が使えるんだ。まあ、好感を持たれている相手の気持ちを少々増幅するくらいの効果なんだけど……残念だな。先程の件で嫌われた分以上に取り返せたと思えたのに」
……ブルータス、お前もか!!お前も、あの悪魔の同類か!!
もしかして王族も、悪魔様同様に(勝手に確定)サキュバス・インキュバス混じりの血筋?王族の主要血筋乗っ取るとかどんだけ最凶な淫魔だよ、先祖。
……てか淫魔混じりに支配されてる国って……。いや、考えないようにしよう。
「……変な誤解してないかな、ルクレア嬢?言っておくけど、【魅了】の力は、天使から与えられた光魔法の加護の一つだからね。より良い統治が出来るようにという。だから、増幅させるのは、あくまで『好感』性的欲求を煽る効果は全くないんだ」
「……もちろん、そうだと思っていましたわ」
なんでぇ。つまらん。
しかし、先程のオージンの行動が【魅了】だとすると、改めて悪魔様の【魅了】の力の強さを感じざるえない。口づけ一つで完全に腰砕けだったもんな。やっぱり人間じゃねーわ、あれ。
「君には、回りくどい小細工をいくらしても無駄だね…ねぇ、ルクレア嬢。ならば、王家の私から、大貴族である貴女に対するの依頼という形で受け取ってもらえないだろうか」
「…依頼?」
「そう。高位身分の物同士の、純粋な取引さ」
そう言って、オージンは咳払いをひとつして、ひとさし指を立てた。
「君は今、私の一番のウィークポイントを知った。他の誰も知らない、知られたら困る情報を、唯一君だけが握っている。この情報だけで、君は私に対して優位に立っている…違うかい?」
ふむ。まぁそうだな。つってもバラされんでも元々知ってた情報だから、別にそのことで感じ入ったりはせんけど。言ってることは分かる。
「そして、君が私に協力すれば、私と君の間に一層強い共犯関係が成立する。君が優位の、共犯関係が。そうなったら、私は、私が彼女との身分差という障害を押し除ける基盤が出来るまでは、君に逆らえない立場になるだろう。君の発言が、私を動かすようになる。ボレア家が、王族の一部を直接的に動かせるんだ。たかだかプライベートの絆ごときで。…悪くない状態だと思わないか」
「…私はさして家の拡大を望んではいないのだけれど」
「そう、君が望むのは、安定」
私の言葉にオージンは目を細めて頷いた。
「そして、安定を保つことに、私は…次期王とされる皇太子というコネクションは、とても役に立つ。…脅威は、王族からだけではなく、あちこちからいくらでも振ってくるものさ。そして火避けは多いに越したことはない」
オージンが言っていることは、基本的に私を怒らせた発言と同じだ。しかし、そこにおける観点が違う。
「従わなければ潰す」ではなく、「協力してくれれば、役に立つ」
意味は同じだが、自尊心への刺激は180°異なる。
上手い言い方だ。
思わず気持ちがぐらついた。
「なに、大したことはしなくていいんだ、ルクレア嬢。君は、私と偽…私が偽物だと思っている彼女とこっそり会える場を設けてくれればいいだけさ」
「…そんなこと、自分で呼び出しなさったらいいのではなくて」
「私の弱点を、僅かでも周囲に気づかせるような可能性があることをしたくないんだ…それに私にはファンクラブのようなものが存在してね。私が特定の女性と仲良くすることを良しとせず、そう言った女性を排除しようと過激な暴走にでることがある…あれだけそっくりなんだ。彼女は、彼女自身ではなくても、彼女の家族なのはまちがいないだろう…私は彼女の家族を傷つけたくない」
「……橋渡しになった私は、どうやっても殿下と話しているところが見られる可能性があると思うのですが。私に対する配慮はしていただけませんの?」
「君に逆らえる気概を持った子は、私のファンクラブにはいないよ」
思わず口端が引きつる。こんにゃろう。無責任なこと言いやがって。身分差もわからぬくらい恋にのぼせ上がる馬鹿が出たらどうする。こっちは全力で排除するしか方法が…あれ、うん、まったく問題ないな、これ。
さてさてどうするか。
どうせ、オージンはもう取り返しがつかないくらい偽物確信されてるし、本物のエンジェちゃんにべた惚れしちゃってるようだし。
…正直、ディビットと会わせたところで、今とそう状況変わらない気がする。
てか、この王子色々めんどいよ。いい加減疲れて来た。この腹の探り合い。腹黒ってやーねー。
そもそもばれたの悪魔様のせいだから、この対処も悪魔様がするのが筋だよな…
「――貸し、一つですわ。殿下」
…よっしゃ、悪魔様に丸投げしてまえー。