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オージン・メトオグという王子4

 どうだ。前世でノーベル平和賞をとったかの方の名セリフを応用した、私の言葉は。

 いかにもそれっぽく聞こえるだろう。…実際の私の現状からすると大嘘だけどな!!


「…好意と、憎悪は表裏一体…」


 案の定、マシェルには効果抜群だったらしい。

 目を見開いて、私の言葉を噛みしめている。…あらまー。なかなか嬉しい反応。

 複雑そうに見えて、実は結構単純だよね、このマジメガネ。扱いやすくて、実に結構。


「…じゃあ…ありえるのか…?…」


「…?」


 眉間に皺を寄せたマシェルが、思わずと言ったようにつぶやいた。



「…私を嫌いな貴様が、ある日突然、私を好きになることも、あり得るというのか…?」



 ………。



 え、



 ちょ、



 おま、



「――それは、どういう意味ですの?」


 不意に降りかかった爆弾発言に、内心では盛大に混乱しながらも、あくまで平静を装って聞き返す。落ち着いた、静かな声で。引きつった笑みを誤魔化しながら、横目でマシェルを見やる。あくまでからかうように。余裕に満ちているかのように。

 …ぶっちゃけ、語尾がちょっと震えているし、だらだら冷たい汗が流れて来ているだが、気付かれてはいないだろうか。気付かれてはいないと思いたい。ルクレア・ボレアが実は恋愛慣れしてない生娘だなんて噂でも流れたら不本意だ。…いや、純潔を重んじる貴族の一因として婚姻前は生娘だと思われないと困るんだけどさ。なんてか、キャラ違うじゃない。そういうの。


 そんな私が必死に絞り出した言葉を耳にした瞬間。

 どうやら自分が心の声が漏れていたことに気づいていなかったらしいマシェルは。


「――…っっっ!!!!!」


 先日の下着透け事件の時以上に。人間どうやったらここまで顔の色を変えられるんだと不安になるくらいに。

 まるで真っ赤なペンキがをぶっかけられたがごとく、真っ赤に、真っ赤に、顔面を紅潮させた。


「…ざ…」


「…ざ?」


「ざ、戯言だっ!!忘れろっ!!」


 そう言い捨てるなり、驚くほどの速さで走り去るマシェル。…うむ、どこまでもデジャブだ。この展開。


「…おかしな方」


 そんなマシェルの背中を見つめながら、嘆息して肩を竦めて見せるが、内心の動揺は収まらない。

 乙女ゲーム、否、少女向け媒体でおなじみの鈍感ヒロインならこれで収まるかもしれないが、なんせ私は前世さんざんそう言った媒体を読み漁った身だ。んな鈍感っぷり発揮できるわけがない。前世の世界なら、それでも考え過ぎだと、自分の都合の良い妄想に過ぎないと脳内処理したかもしれないが、残念ながらここは乙女ゲームの世界だ。お約束の反応が、予想の斜め上を行くものであるわけがない。



 …どう考えてもフラグ立ってますよね!!分かります!!


 やべぇ、完全にマシェルルート入っちまっている…しかも、ゲームとか違う展開で。

 ゲームではクーデレて感じで、クールだけど実は優しくて面倒見が良いマシェルの本性を、徐々に距離を詰めていくにつれて気が付いていく感じなんだが、そもそも私の前のマシェルは常に、クール?何それ?ってな感じだからな…常に情緒不安定で切れてる。そこからして、まず違うし。エンジェの第二イベントは、先日不可抗力とはいえ下着を見てしまったことに対する謝罪と、苛めの首謀者である私ことルクレア・ボレアを懲らしめてやったという報告から始まり、その後些細な世間話から距離を縮めるイベントなんだが…完全に面影がない。どうしてこうなった。


 ゲームから外れた以上、どうやったら、フラグが折れんのか、ディビットにルートを変更で出来るのか、さっぱり分からない。…実に困った。


「さて、どうしたもんか…あでででででででっ!!」


 腕組みをしながら途方に暮れていた私は、頭に走る激痛に悲鳴をあげる。

 指がっ、誰かの指先が、頭皮に食いこんどるっ!!


「…主人を使っておきながら、その傍らで男に発情しているとは、随分な雌駄犬だなァ?オイ」


 振り返ると、いつの間にか戻ってきていたディビットが、いい笑顔で私の頭を鷲掴みにしておりマシタ。

 痛い痛い痛いっ、ちょ、マジで頭皮裂けちゃうからっ!!裂けて血ぃ出ちゃうからっ!!


 お願いですからやーめーて下さーいっっっ!!!!!!

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