逆ハーエンド、無理そうです
「……あぁ…あん時の奴らか…」
「誰か記憶が一致したんですね、ご主人様!!何なさったのか、はよ、はよ教えてくださいっ!!」
返答次第では、今後の対応が随分変わってくる。
思わず私は、伸し掛からんばかりの勢いでディビットに詰め寄った。
「…ぶふっ」
…ら、顔面を思い切り手のひらで鷲掴みされて、押しやられた。
「近ぇ。暑苦しい顔寄せんじゃねェ」
暑苦し…愛くるしいの間違いだろうがぁぁっ!!こんな迫力美人捕まえて、てめぇ、この野郎!!逆に感謝してほしいくらいだわっ!!
「…もうひわへ、あひまへん…ほふふんはは」
あぁ、それなのに悲しき虜囚の身。こんな理不尽な場面でも謝罪の言葉を述べねばならないとは…なんて私は可哀想なのだ。薄幸の美少女なのだ。
…ぜってぇ、こいつ審美眼狂ってるって。ルクレアの顔に、こんな無体働けるなんて。自分の美少女顔を信じたくないあまり、美の基準まで狂ってしまったに違いない。うん、きっとそうだ。
「…あのなよっちぃガキンチョと、目つき悪ぃ馬鹿と、うざってぇ感じがする木偶の坊だろう。別に大したことしちゃいねぇよ」
…ほら、美形揃いの攻略対象達にも、こんな評価だ。ぜってぇ、眼ぇおかしいって。
私は解放された自身の顔面を、そっと撫でながら(痕ついてたら大変だ。今のうち伸ばしておかにゃ)じと目でディビットを睨む。
「ご主人様が言う、そのガキンチョと馬鹿の件ですが…私が燃やした教科書や、汚した制服は、その時どうされました?」
ダーザ・オーサムと、ルカ・ポアネスのルートは、私ことルクレアが行った苛めを、二人がフォローすることから始まる。
ダーザは、自分の持っている教科書を、ルカは自身の制服の上着を、エンジェに貸し与えるのだ。
その時の借り方次第で、好感度は変動するのだが、どうやったら-30と-20なんていう好感度になるんだ。本当。
「教科書に制服?んなの、そいつらから貰った」
「だから、どういう方法で…」
質問しかけてから、違和感に気づく。
……ん?
「借りた」ではなく、「貰った」?
「教科書燃えちまって困ってたら、丁度同じ教科書持っているガキが近づいてきたから『お金持ちなら教科書くらいいくらでも買えるわよね?目の前で教科書燃やされた、かわいそうな庶民の女の子をまさかそのまま放っておくわけないわよね?そんな男最低だと思うわよね?まさか、君、そんなことしないわよね?え、やだ、くれるの?アリガトー。なんか、強請っちゃったみたいで悪いわね。君は紳士だわ』…って捲し立てて、そのまま教科書貰って帰ったな」
「………」
「馬鹿に関しては、気配ねぇまま、いつの間にかすぐ真後ろ突っ立ってたから、思わず振り向き際に蹴っ飛ばしちまってよ。当たり所が悪かったのか、あっさり失神しやがったんだ。でけぇ図体のわりに情けねぇよなぁ。…まぁ、せっかくだし、ドロドロの制服のまんま帰るのも気持ち悪ぃから、ついでに制服拝借したんだよ…上下セットで」
…悪魔様。
それ、貰ったんやない。
奪ったっちゅーんだ。
…てか、ダーザはともかく、ルカに関しては完全にそれ追剥だろう!!ついでだからって、罪もない生徒ひん剥いて放置とかどんだけっ!?てか、良く好感度-20で済んだなっ、オイ!!
「…あの、制服脱がされたその後ルカ・ポアネスは一体どうやって帰ったのでしょうか?」
「さぁ?俺が知るかよ。そのままパンツ姿で帰ったんじゃねぇの?」
「…あの、ただ真後ろにいただけで、蹴り飛ばされて失神させられた挙句、制服剥かれて放置とかって、酷過ぎるのでは…」
しかも、私のゲームの記憶が正しいのなら、その時ルカは純粋な親切心から、ディビットに制服の上着を貸そうとしていたのだ。しかし、そのツンデレ気質が故に、なんて声を掛けていいのか思いつかず、黙り込んでいただけなのだ。ディビットが正しい対応をすれば、ルカは僅かに頬を染めながら「…やる」とぶっきらぼうに言って、ディビットに上着を投げかけ、そのまま颯爽と走り去っていったはずなのだ。
…しかし、その親切心の結果がこれ。可哀想すぎる…。
しかし、ディビットは私の言葉を、あっさりと鼻で笑い飛ばした。
「俺の後ろに立ったのが悪ぃ」
てめぇはどこの、不吉な数字を冠した太眉強面スナイパーですか…っ!?
…てか悪魔様。肉弾戦では敵なしのルカを、一発KOするだけの脚力持っているって、貴方の戦闘能力、一体いくつなんですか…?考えるだに、恐ろしいんですが…。