そして悪魔は恋を識る13
だけどルクレアは促されるままに足を動かしながらも、そのまま黙って立ち去ろうとはしなかった。
「――明日の、放課後!!ここで、さっきの話の続きを、しよう!!」
そう叫んだルクレアは、優男の方を振り返って笑った。
「マシェルの言いたいこと、全部聞くよ!!話せることは、全部話す!!だから、明日放課後ここに来て!!」
高揚した気分が、まるで冷や水をかぶせられたように、冷めていく。
何を話すっていうんだ。話すことなんて何もねぇだろう。
さっきのアレで十分だろうが。
「――ああ、必ず」
足の歩みは止めていないので距離は広がっていたのに、それでも投げ掛けられた優男の声ははっきりと俺の耳にも届いた。
「必ず、明日ここに来る。――約束だ」
明日、ここでルクレアはこの優男と二人で会う。
そう考えたら胸の奥がどうしようもなくざわついて、気が付けばルクレアの手を握っていない方の掌に、握った爪が食い込み、血が滲んでいた。
ムカつく。
どうしようもなく、ムカつく。
俺がいねぇとこで、何勝手な行動しようとしてんだよ…!!
「……ねえ、デイビット。何で私まで鬼ごっこに参加しているの。なんかこれ、意味あんの?」
二人でアルクから身を顰めている最中に、不意にルクレアから聞かれた。
…何を言ってんだよ、こいつ。今さら
「…ああ?そんなの決まって…――っ!?」
そんなの、お前が俺のもんだからに決まっている。
そう言いかけて、傍と気が付く。
…ルクレアが俺のもんだからって、それってこいつを鬼ごっこに参加させる理由にはならなくねぇか?
アルクに勝負を持ちかけたのは、俺で。絶対俺が勝つから下手な心配すんじゃねぇと、俺は元々ルクレアに言い聞かせてたわけで。
そもそも俺はアルクがルクレアにドエムを発揮されるのが不愉快で、ルクレアにはあまりアルクに接触してほしくなかったわけで。
それなのに、なぜ俺は今、当然のようにルクレアを鬼ごっこに参加させている?
何故、当然のごとく手を掴んで走っている?
ぶわりと顔が紅潮するのを感じた。込み上げてくるうめき声を漏らすように、口に手を当てる。
気付いてしまった。
「…びっくりした。アルクに見つかったのかと思った。どーしたのよ、急に」
「………」
ただルクレアを優男から連れ出したい一心で、ちゃんとした理由など何一つないまま本能的に動いてしまっていたことに、気が付いてしまった。
「…デイビット?デイビットさん?どうしたの?具合、悪いの?」
「…うっせぇ。ドエム野郎に見つかるだろうが。黙ってろ」
糞っ…言える筈がねぇだろ。何も考えて無かったなんて、んなこと。
「――んなもん、いざという時に盾にする為に決まっているだろう。それ以外にお前に何の使い道があるんだ?ん?」
高慢に鼻で笑ってみせてながら、何とかそれらしい言葉でその場を取り繕う。
「――まあそれならそれでいいけど、あんまり私が表だって介入したら勝負としてはあんまり良くないんじゃない?一応さ、一対一の男同士の対決なんだし。…まあ、アルクはデイビット女だと思っているけど」
返された反論に一瞬ぎくりとするも、演技になれた俺の脳みそと口は、瞬時に正しいであろう回答を作り出した。
「一言余計だ、馬鹿…まあ、お前を盾にすんのはあくまで最終手段だな。男同士の勝負だとかはどうでもいいが、極力俺一人の力で逃げ切ったと思わせといた方が、後が楽だからな。第三者の手が介入したから、やり直しだとか言われたら面倒だ。出来るだけ、アルクにみつからねぇようにしろよ」
「…はあーい」
…誤魔化せたよな。うん。返事がわざとらしいが、こいつアホだから、多分、誤魔化せただろ。
ルクレアに聞こえないように、小さく安堵の溜め息を吐いた。
校舎に逃げ込みたいから、アルクの気を逸らせと言ったら、ルクレアは風精霊を呼び出して風魔法を使わせた。
「っ!!!???な、何だ!!ぶおっふ!!」
「――取りあえず、あの攻撃の威力考えると、暫くはあのドエム野郎動けなさそうだな…」
眠気のせいか、攪乱というには威力が強くて、ドエム野郎は吹っ飛んで行ったが、まあ及第点だな。
「良くやった。風精霊。もう帰っていいぞ…行くぞ、ルクレア」
しかし、せっかく俺がじきじきに労ってやったと言うのに、糞チビガキの生意気な態度は相変わらずだった。
「…チョット、アンタニソンナ事言ワレル、筋合イナインダケド」
「…ほう」




