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そして悪魔は恋を識る10

 湧き上がる胸の内の、愛おしさのわけを俺は知らない。

 それが、もしルクレアがクレアだった時の憎しみを上回る強さを持っているかさえ、分からねぇ。


 わからねぇけど、どうでもいいと思う自分もいた。


「覚えているに決まってんだろう――だって、そいつの娘こそ、俺を弄んだ張本人なんだからな」


 ある日ルクレアの問いかけに答えるように、俺はクレアの話をルクレアに打ち明けた。

 カマ掛け半分で、ルクレアの反応を確かめたいが故の言葉だったが、話しているうちに簡単に滾る胸の内に、未だ俺はちゃんとクレアへの憎悪に捉われていることを再確認する。


 クレアの話題を出した瞬間のルクレアの反応は――非常に挙動不審で正直言って怪しかった。


「……何だよ、急に頭抱えだして」


「……いや、デイビットの話聞いたら昔のトラウマが甦ってきて…」


 これは、クレアがルクレアだという証明だろうか?…いや、これだけじゃ判断はできねぇ。


「――意外だな」


「……なにが?」


 判断は出来ない…だけど、ルクレアがクレアじゃない方が、ムカつくかもしれない。


「お前に、俺の話を聞いて蘇る様なトラウマがあるなんて、意外だな。絶対まともな恋愛なんかしたことねぇと思ってた」


 だって、それはルクレアが俺の知らない誰かに恋をした証明なのだから。


「――あら、私だって、17年も生きているんですもの。そりゃあ、傷ついて枕を濡らすような恋の一つや二つ…」


 返されたルクレアの反応が、あからさまに嘘くさくてホッとする。

 そう、だよな…!!こいつに碌な恋愛経験なんかあるはずねぇよな…!!


「いきなり対外用口調に切り替わっている時点で、信用できねぇ台詞だな。やっぱりお前、まともに恋愛したことねぇだろう」


 俺の言葉にルクレアは拗ねるように唇を尖らせた。


「まともな恋愛してなくても、トラウマの一つや二つあってもいいでしょ!!トラウマなんだから!!上手く行かなかったこと前提なんだから!!」


「何、ムキになってんだよ。別に、悪いなんて言ってねぇだろーが。お前にトラウマがあろうがなかろうが、俺には関係ねぇからどうでもいいしな」


 嘲笑うように言ってやると、ルクレアがアホ丸出しで拗ねはじめる。

 そんなルクレアを見ているのが、非常に愉快だ。

 …こんなアホ、まともに恋愛経験あるはずないよな。焦って損した。


「――てか、デイビット。いつかもし、そのデイビットを弄んだ?とかいう女の子と再会したら、具体的には何するつもりなの?」


「あの女とか?そりゃあ決まってるだろ」


 自分の未来を危惧してか、見知らぬ誰かの未来を心配してか、どこか不安そうな表情で尋ねるルクレアに即答する。


「下僕化した後に、首輪つけて、鎖で繋いで犬として飼う。二足歩行も手の使用も許可しねぇ」


 ――ルクレアがクレアじゃなかったらの話だけどな。

 内心でそっと付け足す。

 …どうも愛犬家だったらしい俺は、一度可愛いと思ったペットには無体を強いれないらしい。ルクレアがクレアだったとしても、今以上に酷い扱いが出来る気がしねぇ。


「――まあ、でもんなのは、まだまだずっと先の話だけどな。まずはその糞女がどれほどの有力貴族だとしても対等に話す機会を得られるような身分になんねぇといけねぇし、そもそもその女の現状すら分かっていない状況だしな」


 どこか焦ったように視線を逸らしたルクレアに、少しカマを掛けてみる。


「……存外既に接触してたりして、な。この学園には随分とお偉い身分の奴らが多いようだし」


「…それは、ありえるね。ここの学園来ることは貴族のステータスみたいになってるし。でも結構な学費かかるから、もしその女の子が中流貴族以下で、かつ家の跡継ぎじゃないならこの学園通うのは難しいかもしんないけど」


 しかし残念ながらルクレアは平静だった。――まぁ、簡単には尻尾は出さねぇか。


「そうだな。俺が見た限り、服装とかは中流貴族っぽかったし微妙なところだな…まあ、いたとしてもそう簡単に近づけるとは限らねぇしな。学園生活では期待しねぇで、将来に賭けるとするか」


 あんまりしつこく突くのも不自然だし、ここは引いておいてやるか。


「――つーわけで、良かったな。ルクレア」


 そういってルクレアの髪をくしゃくしゃに掻き回してやったら、自然と笑っていた。


「今暫く、俺の犬という栄誉あるポジションはお前だけの物だぞ。嬉しいだろう?」


 俺は、未だにクレアへの憎悪に囚われている。それは、確かだ。

 だけど、ルクレアがクレアであろうがなかろうが、そう大した差はねぇ気がしてきた。


 だって、ルクレアがクレアであろうがなかろうが、ルクレアが俺のもんだということには変わりがないのだから。


 そして過去がどうであれ、ルクレアがルクレアだっつーことには変わりはねぇのだから。


 もしルクレアがクレアじゃなかったら、クレアへの憎悪はいつかクレア本人に出会った時に考えればいい。

 ルクレアがクレアだったら――んな過去もひっくるめて、ルクレアの全部が俺のもんなのだから、何も問題がねぇ筈だ。


 何も問題がねぇんだ。


 ルクレア、お前が俺のもんであり続けるうちは何も問題もねぇ。


 だからルクレア――このままずっと、俺の物でいろ。


 俺の物で、いてくれ。


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