逆ハーエンドを目指します
ああ、悪魔様、悪魔様。
あなたはどうして悪魔なの?
私の(平穏の)為に
悪魔という肩書き(というか性質)を
お捨てになって?
はい。この世界には存在しない、かの有名な戯曲作家様の名台詞のパク…オマージュからこんにちは。
皆の憧れ、カリスマドエスな悪役令嬢、ルクレア・ボレアでございます。
ただ今学生の本文、勉強に励むべく、昼休みだけど予習済みのノートを開いておりました。いや、才媛なうえに努力も惜しまないワタクシ、とても素敵。
恐ろしい悪魔の支配に脅える私にとって、クラスの違う悪魔様と関わることがない自分の教室はオアシスだ。
この教室でなら、私は今まで通りの私で入れる。
触れれば人を害すような、気高くも美しき毒花のままで。
「――ルクレア先輩?お話があるのですが少々お時間よろしいですか?」
そんなオアシスすら、侵害する悪魔が、一匹。
天使のごとく愛らしい顔で、舌ったらずな可愛い言葉を紡ぎながら、上目使いで小首をかしげてらっしゃる。うん、正体を知っていると普通に悍ましい。
あ、実は私、エンジェちゃんより1個年長なんですよー。学年が違えばフロアも違う我が学園。普通の学校ならそうだから気にしてなかったけど、改めて考えると設計者素敵だ。素晴らしい。ついでに他学年の生徒は入れない結界も張ってくれればいいのに。
現実逃避で意識を飛ばしかけていると、業を煮やしたディビットが陰でこっそり足を踏んできやがった。
痛い痛い痛い!!わかってます、分かってますよ!!
「…あら、どうなさったの、エンジェ。貴女がわざわざ教室まで足を運ぶなんて珍しいこと。嬉しいわ」
痛みを隠して、友好的にディビットに話しかける私に、ざわめくクラスメイト(一般ピーポー)諸君。
まぁ驚くわな。ついこないだまで蛇笏のごとく嫌って嫌がらせしていた私が、エンジェに親しく反応を返しているんだからな。そりゃあ、何があったんだと思うだろうよ。
「どうしてもルクレア先輩にご相談したいことがあって…今、少しお時間良いでしょうか?」
「…ごめんなさい。エンジェ。可愛い貴方のお願いを聞いてあげたいところだけど、私は今から少し課題の予習をする必要があるの。放課後でも構わないかしら?」
終わってるけどな。課題。
だが、短い貴重な昼休み。悪魔にがりがり精神力削られたくないので、さらっと嘘をつかせてもらいます!!嘘をついたらペナルティなのは、一生とは言われてないからこれはノーカンなはず!!演技するうえで、必要な嘘ってあるよね!!
ちょ、周りにばれないように小さく舌打ちするのやめて!!
足思い切りぐりぐりしないで!!
「…構いません。すみません。先輩のご都合も考えずに教室まで押しかけてしまって…」
本当にな。その言葉が嘘じゃないなら大いに反省してくれ。頼む。
…うん、嘘だって分かってますが。だってまだ足痛いもん。寧ろさっきより足の力籠もっているもん。
「気にしないで頂戴、エンジェ。私は貴女の顔が見れて嬉しいもの。貴女ならいつでも歓迎するわ。好きな時に教室まで遊びに来て」
あぁ、心にもない言葉をすらすら言えてしまう、演技力すらハイスペックな私が憎い。
微笑みながら、ディビットの金色の鬘をそっと撫でる。
気分は百合だ。百合百合なお姉さまだ。どうだ、諸君。親しいを越えて、ちょっと危ない倒錯的な関係に見えるだろう。
しかしその実態は、女装した鬼畜男と、下僕な美少女なんだぜ!?もう倒錯超えてわけわからん感じだねっ!!
ディビットはちょっと驚いたように目を開いたが、すぐに不敵な笑みを浮かべて、私の演技に乗り出した。
「――ありがとうございます!!ルクレア先輩。それじゃあ放課後にまた迎えに来ますね」
バックに花を散らすような輝いた表情でそういって…うっは。こいつもようやるわ。
悪魔様の苛めにあっても物の数分で痕が消えた私の美ほっぺに、掠めるようにちゅーをかましてきやがった。
同性間でのほっぺちゅーは、この世界では最大の友情表現だ。普通の友人ではまずしない。それこそ大親友と言えるような関係じゃなければ。
パニクる一般ピーポーの方々。それを尻目に、颯爽と教室を去るディビット。
…え、この混乱の中、残されても困るんですが。