そして悪魔は恋を識る8
「嘘ダヨ…!!大嫌イナンテ、嘘、大嘘ダヨ!!大好キダヨ!!本当ハ私、マスターガ大好キナンダヨ…!!」
「…うん、大丈夫、分かっているよ」
「ダカラ…ダガラ、マズダー、私ヲ嫌イニナラナイデ…!!」
「っ嫌いになんで、なれるばずがない…大好ぎ、大好ぎなんだよ!!ジルブィ!!!」
泣きながら抱きしあって、「大好き」と「ごめんなさい」の言葉を繰り返すルクレアの姿を、どこか面白くない思いで眺める。
…いい加減、もういいよな。ここまで黙っていてやったんだから。
「…で、仲直りは終わったのか?」
声を掛けた瞬間、我に返ったようなルクレアの眼が、再び俺の方に向けられて、少しささくれ立っていた心が少し落ち着く。
…が、ルクレアと俺の視線を断ち切るかのように、次の瞬間、風精霊の糞チビが間に入ってきやがった。
「…ッソ、ソコノ女男!!チョット、今カラ私ガ言ウコトヲ聞キナサイ!!」
「あぁん!?何だ糞チビ!?」
「ヒッ!!…エト、ソノ…」
思わず凄んでしまった俺は、きっと悪くねぇ…と、思う。
しかし俺が睨みつけても、糞チビは引かなかった。
「――大切ナ試合、邪魔ヲシテ、申シ訳、アリマセンデシタ!!!!」
深々と頭を下げて言い切られた謝罪に、一瞬虚を突かれる。
…こいつ、謝ることなんか出来たんだな。ルクレア以外の人間なんてどうでもいいんだと思っている糞生意気な糞チビガキだと思っていたのに。
――しかし、見直したのもつかの間。やっぱり糞チビガキは糞チビガキだった。
「――デモ、元ハト言エバ、マスターヲ悲シマセタ、アンタガ悪インダケドネ!!」
「…ほぉ」
それが謝罪する立場の態度か?ああん?
…まあ元はと言えば、俺が気まぐれにルクレアをからかわなければ良かった話ではあるが、それにしてももっと反省しやがれ。てめぇは。
「まぁ、糞チビガキが言う様に、俺も悪かったしな――これで許してやるよっ、と」
「ッタアアアアアア!!!」
「シルフィ―――――っ!!!!」
かなり加減して額をはじいてやったつもりだったが、あっさりチビガキは吹っ飛んで行った。…おいおい、人型の高位精霊がこんなに衝撃耐性がねぇわけないだろう。
心配するルクレアの姿に、確信する。――あの糞ガキ、わざと吹っ飛びやがった。
「シルフィ!!大丈夫!?どっかおかしくしてない!?」
「フェ…マスターァ…オデコガ…オデコガ痛イヨォ~…」
「よしよし…痛かったね……」
ぼろぼろと明らかに大げさな涙を流す糞チビに、アホなルクレアはコロッと騙されて、険しい目つきで俺を睨み付ける。
「酷い!!デイビット!!もしこれで、シルフィに何かあったらどうすんの!!」
「…何かなんてあるわけねぇだろ、ばぁか。人型の高位精霊が、たかがデコピン一つで何かある様な柔な体の造りしているわきゃねぇだろ」
…ああ、ムカつく。ルクレアがアホ過ぎてムカつく。こんな猿芝居に騙されてんじゃねぇよ。
「いつぞやのサーラム?だかの時にも思ったけど、いちいち反応が大げさなんだよなぁ…お前の精霊達。絶対ダメージなんかさして受けてねぇ筈なのに…大方、お前に甘えたくて、大げさに痛がっているふりをしているだけなんじゃねぇの?」
俺の言葉にルクレアは、目を丸くして胸に抱いた精霊に視線をやった。
案の定、図星をつかれて何も言い返せない精霊は、黙ってルクレアの胸に顔を埋めている。
…ざまぁ見やがれ。
何可愛こぶって誤魔化そうとしてんだよ。腹黒い本性を知ったルクレアに、せいぜい引かれちまえ。けっ。
…しかし、その後のルクレアの行動は、完全に俺の予想の斜め上を行っていた。
「――超可愛いいいいいい!!!何それ、めちゃくちゃ、あざと可愛いいいい!!!!あぁ、もう大好き!!お前ら、本当に大好きぃいいい!!!」
ルクレアは歓喜の雄叫びをあげながらを両手で掲げあげて、糞チビの顔中に口づけ始めた。
「チョ…マスター…ヤメ…恥ズカシイヨ…」
「やめない!!シルフィが可愛すぎるのが悪い!!他の奴らも!!」
そのまま夢中で糞チビを愛でるルクレアを唖然と眺めていると、ルクレアに揉みくちゃにされている糞チビと目があった。
糞チビは俺の視線に気が付いた瞬間ちらりとルクレアを見て、ルクレアが自分の表情を見ていないことを確認してから、勝ち誇ったように口端を吊り上げた。
ぴきりとこめかみ辺りが引き攣るのを感じた。
―――糞っ!!!本当ににムカつくな!!この糞チビガキっ!!!!