それぞれの恋の行方14
本日投稿一回目。
もう、隷属の印はない。
確かな形の、デイビットとの繋がりはなくなってしまった。
そう思ったら、どうしようもない、喪失感に襲われた。
確かな繋がりが失われてしまった今、同じ学園の生徒でもなくなってしまったら、私はこの先どんな名目でデイビットに近づけば良いんだろう。
どうやったら、デイビットの傍にいられるのだろう。
「――話したいのは、これだけだ。それじゃあ、俺は行くわ。お前もさっさと精霊呼びだして、安全な状態で戻れよ」
そう言ってデイビットは背を向ける。
待って
行かないで
そう叫んですがり付きたいのに、力が抜けた体はうまく動かない。
ぼろりと目から涙が零れた。
嫌だ、嫌だよ。デイビット。私から、離れて行かないで。
下僕で、いいよ。関係の名前なんかどうでもいいよ。
デイビットが、傍にいてくれるなら、なんだってかまわないんだ。
「――私、だよ」
気がつけば涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、去りかけるその背に向かって叫んでいた。
「…私が、クレアだよ…!!11年前にデイビットを傷付けた、復讐の相手は、私なんだ…!!」
私の言葉にデイビットが、驚いたように振り返った。
振り返ったデイビットと視線があった瞬間、さらにぼろぼろと涙が零れてきた。
嬉し、かった。
その瞳に自分が映し出されていることが、ただただ嬉しかった。
「復讐、するんでしょ…?だから、駄目だよ…隷属契約解除なんかしたら…どっか遠くに行ったりなんかしたら、駄目だよ…」
復讐で、いいよ。
向ける感情が、負の感情でもかまわないよ。
ひくりとしゃっくりが出た。
「だから、離れて行かないで…傍にいさせて…――デイビットが、好きなんだ」
顔面をぐちゃぐちゃにして、泣いてすがる私はさぞかし、みっともない姿だろう。醜態という言葉が、まさに相応しい。
それでも羞恥も何もかも投げ捨てて、必死に想いを叫ばずにはいられなかった。
「好きで好きで仕方ないんだっ……!!」
――ああ、馬鹿だな。私。復讐したい相手にこんなこと言われても、困るだけだろうに。
寧ろ、復讐の為嬉々として拒絶される可能性が高いのに。こんな告白、叶うわけないじゃないか。
うつむく私の視線の先に、いつの間にか目の前に来ていたデイビットの足が映る。
頭上から降ってくる溜め息に、体が震える。
不意にデイビットが私に視線を合わせるようにかがみこんだ。
デイビットは仏頂面で私を睨みつけながら、そのエメラルドに大きく私を映し出した。
「――やっぱりあの時の糞女はてめぇか」
憮然と吐き捨てられた言葉に、目を開く。
「…知って、いたの?」
「…確信はなかったけど、な」
そう言いながらデイビットは苦虫を噛んだように、渋い顔で眉間に皺を寄せた。
「良く似た偽名。あの時のお前を彷彿させる高慢ちきな態度。身体的特徴の一致…そりゃあ、もしかしたらと思うだろう。それに…」
「それに…?」
デイビットは僅かに逡巡してから、ふいと視線を反らして言い放った。
「――それに、俺は昔も今も、お前ほど綺麗な奴を見たことがねぇ」
『…お前、きれいだな。…お前みたいな、きれいな奴、初めて見た』
デイビットの言葉が、11年前のあの時のそれと、重なった。
カッと頬が熱くなるのがわかった。
「――あー。なんだ?お前、俺のことが好きなの?本気で?」
自分で自分の言ったことが恥ずかしかったのか、デイビットもまた僅かに頬を染めながら、乱暴に自身の髪をかきむした。
うまく状況についていけない私は、ただ一度こくりと頷く。
そんな私の返答を、デイビットは鼻で笑った。
「……趣味悪ぃな」
「……―知ってるよ!!」
この場面、この状況でこの言葉!?
知っているよ!!趣味が悪いことなんて、重々知っているよ!!こんな性格が悪くて、私を11年も憎み続けている相手好きになるなんてさ!!
だけど、趣味悪いって自覚しているけど、好きになってしまったんだから、仕方ないでしょうが!?
「――まあ、俺も人のこと言えねぇけど」
「…え」




