アルク・ティムシーというドエム47
うわ…気が付いたらなんかめちゃめちゃ恥ずかしくなってきた…。
デイビット気が付いてんなら、握り方直してくれるなり、突っ込むなりしてくれれば良いのに…っ!!
てか、汗。私今、手に汗かいてない?汗でデイビットの手、濡らしちゃってない?
やばい。手離したい。めちゃくちゃ離したい…!!あぁ、でも、今さら手をふり払うのも…!!
一人悶々と悩む私の耳に、不意に飛び込んでくる地響き。
……え、地響き?
「………エーンージェー嬢ー…みーつーけーた……」
闇夜に紛れて姿までは分からないが、確かに徐々に大きくなってくる、背後から聞こえるアルクの声。
ひいっ!!脳内乙女チックワールド展開してる場合じゃない!!近づいてる…!!アルク確かに近づいて来てるよ!!必死な声が怖過ぎる!!
「しめた!!校舎だ!!ルクレア、入って一番近い空き教室に逃げ込むぞ!!」
「う、うん!!」
デイビットの手を握ったまま、明かりが一切ついていない、夜の校舎に飛び込む。
人気がない真っ暗な木作りの校舎は昼間とは打ってかわって、それこそお化けでも出そうな不気味さがあったが、お化けよりなりより、必死に追ってくるアルクの方が怖い。
猛ダッシュで手近な空き教室の中に駆け込んだ。
「よし、入った!!すぐ結界を…」
「駄目だ!!そんな時間はねぇし、時間内に張れてもあのドエム野郎なら結界を破れる可能性もある!!それより、ルクレア、そこの道具入れの中身全部外に出せ!!」
「?分かった!!」
デイビットの言葉の意味はよく分からなかったが、考えている時間はない。
デイビットから離れて備えつけの道具入れを開けると、中には清掃道具が入っていた。
全てを掴んで外に放ると、かろうじて人が入れるくらいの空間が出来た。
私が道具入れを殻にしている間、デイビットは奇妙な動きをしていた。
せっかく教室の中に逃げ込んだのに、入ってきた扉と、反対側についている扉を開けて、廊下に身を乗り出している。
え、そんなことをしてたら、アルクにこの教室にいること、見つかっちゃうんじゃ…。
「――来た!!…ルクレア!!ちゃんと道具入れ空にしたか?」
「う、うん。て、言っても中身全部外に出しただけだけど……」
「上等、上等――来い、ルクレア」
「え」
再び手を引かれて、向かう先は――道具入れの中。
「え、ちょ、外に中身出てんだよ!?バレる、絶対、バレる!!」
「大丈夫だ。絶対アルクは見つけられねぇ」
「何を根拠に…!!てか、スペース!!スペース、狭すぎるよ!!ここに二人なんて、定員オーバ…むぐっ」
「うっせぇ…黙って俺を信じてろ」
掌で口を塞がれて、そのまま道具入れの中に引き摺り込まれる。
ちょ、待って!!近い、近い、近い、近い!!
狭い空間だからとはいえ、これほとんど後ろから抱きかかえられている状態なんだけど!!
そんな私の内心の叫びを無視して、無情にも扉はデイビットの手によって締められる。
背中に感じる熱に、伝わる鼓動に、私の心臓もまたどうしようもないくらい早鐘を打っていく。
暗い密室で、密着した状態で二人きり…これ、なんてエロゲー。
しかし興奮のあまりどうしようもなく煩かった胸のうちは、次の瞬間、瞬時に凍りついた。
「…エンジェ嬢…確かに、ここの教室に…」
がらりと開く、教室の扉の音。
静まり返った室内に響く、低い耳触りの良い、声。
――やばい、やばい、やばい!!!!
アルクが、教室の中に、入ってきた…!!
道具入れの上の方にある空気口の隙間から見る、アルクの距離はわずか十mにも満たない。
…どうしよう、どうしよう…このままじゃ、見つかってしまう!!
部屋に散らばる掃除用具。
こんなの、見た瞬間、誰だっておかしいと思う。
誰だって、私達が今隠れている場所を、簡単に想定出来てしまうだろう。
どうしよう、どうしよう。
…このままじゃ、私もデイビットも、鬼であるアルクに捕まってしまう――!!




