悪魔なご主人様2
「…そうです。男性のハーレムのようなものを、女の子であるエンジェちゃんが築くエンドのことデス。エンジェちゃんが複数のキャラを落として、女王がごとく君臨するのデス」
「落とす野郎ども…攻略キャラというのか?そいつらは、どいつもこいつも貴族のお偉いさんの息子どもなんだろう?」
「ハイ、その通りでゴザイマス。王族で次期王と噂されているオージン第一皇子も含まれておりマス」
攻略キャラどもは、皆乙女の夢の象徴。マジメガネ野郎も含めて高い家柄・高い能力のイケメンどもだ。将来国の中枢を担う存在になるのは間違いない奴らが故に、あのエンドを迎えたエンジェちゃんが国を牛耳るのはさぞかし簡単だったろうと予想している。…リアルエンジェちゃんも、本当はそのエンドを目指すべきだったんじゃないだろうか。左団扇で男どもこき使って、思う存分引きこもれるぞ。…まぁ、複数の男をコントロールするとか面倒臭そうこの上ないから、私は絶対ごめんだが。うん、考えるまでもなく三次元苦手なリアルエンジェちゃんも、きっと無理だよね。ちょっと思ってみただけさ。
しかし、そんなエンドに、悪魔様は別の反応を示した。
「…いいな、その展開」
「へ?」
顎を当てて暫く考え込んでいた悪魔様が、不敵な笑みを浮かべた。
「おい、下僕。俺はその逆ハーエンド?を目指すから、協力しろ」
つと、私のこめかみを汗が伝った。
まさか
まさかまさかまさか
悪魔様、悪魔様もしかして
「ホm…うぎゃっ!!」
思わず野郎同士のうふんあはんを想像した私の頭を、悪魔様が手加減無くひっぱたく。
痛いっ!!私一応、女なのに全く容赦ないっ!!
「なぁに不快な想像してくれやがるんだぁ?あぁん?」
「だ、だって、悪魔様が、攻略対象どもに囲まれて、チヤホヤされたいって…」
少女のごとく美しい外見からしても、どう考えてもぼーいずが、らぶらぶする展開想像してまうじゃないですかぁぁ!!
鬼畜悪魔様受けって、なにそれおいし…じゃない、じゃない、倒錯的世界を喚起してしまっても不自然じゃないでしょう!!
「ったぁぁ!!」
そんな私に悪魔様はにっこり笑んで拳骨を落とした。
痛い。絶対これ瘤なっているよ…酷い。鬼。悪魔。
「だ・れ・が、野郎にチヤホヤされたいなんっつった?気色悪ぃことほざいてんじゃねぇぞ。ごら。俺は、身分の高いぇ奴らを従える、その展開がいいなっつったんだ」
「…同じことじゃ…」
「全然違ぇ…俺は、攻略対象とかいう奴らを下僕化するんだ」
にたぁ、と悪魔様が口端を上げた。
私に尻尾があったら、股の間に尻尾を挟んできゃいんきゃいんと怯えているだろうってくらい、恐ろしい。悪魔様は、容姿に合ったもっと愛らしい笑みを習得すべきだと思う。
「俺は、その攻略キャラどもを落として、【隷属魔法】で下僕にして、王としてこの国に君臨するんだ」
…なんだか、悪魔様。夢見る瞳で、壮大で非常に恐ろしいことを言っている気がするのですが。
悪魔様が王になって、国を治めたりなんぞしたら、間違いなく絶対王政による恐怖政治の始まりなんですが。
そんな未来はごめんだ。そうなった際は、切実に国外逃亡を望む。
…それにしても、はて。
「あく…ご主人サマ、ご主人サマ」
「何だ?」
まずい、悪魔様と言いかけた。しかし、悪魔様は気付いていないよう。セーフ。セーフ。
私は脳内で悪魔様の機嫌を害さないよう、慎重に言葉を選びながら口を開く。
「僭越ながら…ご主人サマなら、そんなゲームに乗っ取って攻略キャラを落とさずとも、【隷属魔法】使えるんじゃないでしょうか」
悪魔様は、【フェロモン魔法】の使い手だ。そして、口づけ一つで、つかの間とはいえ私を魅了させ、【隷属魔法】を展開させた。
わざわざ逆ハーエンドを目指すことをせずとも、同じことを攻略キャラ達にすれば、簡単に隷属できるんじゃなかろうか。
――つまり、攻略キャラどもに、強引にちゅー
…びぃがえるな状況には、どうしたってなるけどね!!