表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲームの悪(中略)ヒロインが鬼畜女装野郎だったので、助けて下さい  作者: 空飛ぶひよこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

166/213

アルク・ティムシーというドエム39

 舞踏会ホールに着くなり、一層集まる視線。だがそんなもの今さら過ぎて、少しも気にならない。不敵な笑みを浮かべながら、会場内にゆっくり観察する。

 …あ、トリエット発見。すごい不機嫌そうな表情で、オージン睨み付けてる。

 そんなトリエットの隣には、自信に満ち溢れた別人のような表情で佇む、ダーザがいる。…何と、ダーザ。押しに押して、トリエットのパートナーの座を獲得したらしい。基本このイベントの舞踏会は、人数の関係上、パートナー交換は行われないことになっている為、トリエットが本日踊るのはダーザ一人というわけである。…あんなに嫌がっていたトリエットを根負けさせるダーザ、すげぇ。内気で臆病な基本設定どこ行った。

『許されるものならば、本当はお姉様と踊りたかったのに…』

 そうやって私に抱きつきながらさめざめと泣くトリエットの背後で、私を見るダーザの眼の怖かったこと怖かったこと…正直、馬に蹴られたくもヤンデレに刺されたくもないから、トリエットちゃんと距離を置きたい、今日この頃である。例え薄情と言われようとも、私、自分の身が大事ナノデス。


 トリエットのすぐ傍には、貴族よりは若干見劣りする地味目なドレスを身に纏ったキエラの姿が見えた。残念ながら、隣にいるのは見知らぬ生徒で、ルカじゃない。

 …ちっ、あのヘタレ犬め。電話で散々せっついたのに、ついに誘えずじまつか。まだ三年じゃないんだし、思いきってやってみりゃあいいのに。

 ……まあ、先日電話で『武術大会が終わって、もうキエラに会える口実がない』って泣きついて来た時点で、予想はしていたがな。武術大会関係無しに、銀狼狙いの貴族の情報集めを依頼すれば、と提案してやったら、電話越しでも尻尾パタパタ振っているのが伝わって来た。おいおい、それくらい、自分で思いつけよと思いつつも、アホ可愛いので叱れない。

 最近では『親の金でキエラに依頼なんて、誠意がねぇ!!俺は自分で稼ぐ!!』と言って、休暇の度に、賞金稼ぎのアルバイトをしているらしい。努力の方向が明後日だと思うのは、きっと私だけじゃない。んなことする暇あったら、もっとキエラにアプローチしろや。

 ……会場にいないところ見ると、さてはキエラが他の男と踊る姿を見るのが嫌で逃げたな。男らしくないから、あとで映写魔法で撮った、キエラのダンスシーンを贈呈して泣かせてやろう。根性なしの犬への、友人からの愛の鞭だ。しかと受け取れ。


 マシェルは……いない、な。マシェルも結局パートナー、選ばなかったみたいだった。舞踏会自体、完全にボイコットする気なのだろうか。…姿が見えなくて安心したよーな、誰かとパートナーになっていて欲しかったよーな…。

 そしてデイビットと、アルクは絶賛鬼ごっこ中だろう。――この会場に、供だって現れないことを祈っていよう。


 不意に、ホール内に流れる、しっとりとした音楽。


 ホールの中央で、学園長が舞踏会の開幕を宣言する。

 各々が分散して、自分のポジションにつくと、音楽が切り替わる。


 生の喜びと、愛の大切さを歌った、舞踏会で最もポピュラーな曲だ。


「――じゃあ、始めようか、ルクレア嬢」


 オージンの言葉に、自然に体がステップを踏んで動き始める。

 流石お互い慣れているだけあって、動きはスムーズだ。会場内では、ぎこちないダンスをする生徒たちが、足を踏んでしまったりぶつかってしまったりしている様もちらほら見えるが、私とオージンには全く関係がない。

 よそ見をしていてこちら側にぶつかりそうになった生徒達も、目だけで意思疎通をしながら自然に避けられる。


 もしこれが、ゲームだったら。画面には私とオージンが美麗に踊っているスチルが映し出されるのだろう。そしてそんなスチルを見ながら、ゲームのプレーヤーは、達成感に満ちた感嘆の溜め息を吐くのだ。「やった、オージンルートの必要な好感度、ちゃんと満たしてたぞ」とか、そんなことを口にしながら。


 ああ、だけど、現実というのは非常に、苦い。表面的には綺麗でも、内側は錆びついてぎすぎすだ。私とオージンの間には、利害関係しかないんのだから。そしてそれ以外の関係なんて、互いに求めてはいないのだから。


 考えても、しょうがないんだ。考えたって、どうしようもないんだ。


『もし私のパートナーが、オージンじゃなくて好きな相手だったら、今どんな気持ちだったろう』


 なんてこと、さ。


 ――伏せた瞼の裏に一瞬過ぎった誰かの姿は、敢えて考えないようにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ