アルク・ティムシーというドエム36
………以上、回想終わり。
そして目が冷めた後は、何度も何度も精霊達にアタックしまくってはフラれる暗黒な日々が続くわけだけど、今はあまり関係ないので心の奥に思い出をしまっておく。
……っダメだ、私…思い出しては、いけない…っ!!私の可愛い可愛い、目の中に入れて抉る勢いで指でぐりぐりしても痛くないくらい可愛いくて仕方ないマイエンジェル達が、あんな顔であんな言葉を吐き捨てていた記憶なんて…!!
思い出しただけで、全身真っ白に風化しそうになるよ!!今、精霊達にんなこと言われたら、発作的に学園の屋上から紐無しバンジーしちゃうよ!!
「……何だよ、急に頭抱えだして」
「……いや、デイビットの話聞いたら昔のトラウマが甦ってきて…」
……そんなことより、今はデイビットだ、デイビット。
私にうろん気な視線を送るデイビットに、あくまで不自然じゃない態度を装いながら視線を向ける。
思い出した記憶の中の私は、もう存在自体を抹消したくなるくらい見事な糞ガキだった。今目の前にいたら、ぶん殴ってしつけ直してやるのに。
大人自称しているのに、小さい男の子弄んで悦に入っているところとか、もうどうしようもないくらいに、痛い。この場にデイビットがいなければ、もう奇声あげて、地面の上ゴロゴロしたくなるくらい、なんかもう、完全に黒歴史な記憶でした…!!正直、忘れていたかった!!
しかしいくら私がしたことが悪逆非道とはいえ…まさかデイビットも十年以上経った今でも、しっかり覚えているとは。しかも本当に、成り上がり目指しているとは…。
それだけ私がデイビットを傷つけていたのかと思うと、記憶と共に思い出した罪悪感で胸が疼いた。…昔のように、その罪悪感に怯えて泣くほど、もう私は子どもじゃないけれど。
……しかし、今の私の状況って、まさに因果応報って奴だな。デイビットの下僕になった時、私はそれは自分が精霊達にしたことが返って来ただけって、そう割り切ったけど、なんていうかそんな間接的な話じゃなくて、本当はダイレクトにやったことが返って来てたんだな。…悪いことってするもんじゃないね。本当に。おてんとう様は見ている。
それにしても、デイビット。その糞ガキの正体が私だって、本当に気が付いていないのかね?なんか本当は気づいていて、私をなぶる為に、敢えて気付かないふりをしている可能性も考えられるけれど…
「――意外だな」
「……なにが?」
デイビットは思案気に顎に手をあてながら、どこかつまらなさそうな表情で肩を竦めた。
「お前に、俺の話を聞いて蘇る様なトラウマがあるなんて、意外だな。絶対まともな恋愛なんかしたことねぇと思ってた」
……あ、これ気付いてないわ。
ホッとした。ホッとしたけど…なんか腹立つ言い方だな、オイ。
思わず口の端がひくりと引きつる。
「――あら、私だって、17年も生きているんですもの。そりゃあ、傷ついて枕を濡らすような恋の一つや二つ…」
「いきなり対外用口調に切り替わっている時点で、信用できねぇ台詞だな。やっぱりお前、まともに恋愛したことねぇだろう」
「ルクレア・ボレア」モード全開で流そうとしたのに、バッサリとそう切り捨てられる。
…ちっ。これだから私の素の口調知ってる奴っていうのは面倒臭い。
素の口調だと、一気に演技力低下しちゃうんだよな。ついつい地が出て。
「まともな恋愛してなくても、トラウマの一つや二つあってもいいでしょ!!トラウマなんだから!!上手く行かなかったこと前提なんだから!!」
「何、ムキになってんだよ。別に、悪いなんて言ってねぇだろーが。お前にトラウマがあろうがなかろうが、俺には関係ねぇからどうでもいいしな」
…自分から突っ込んでおきながら、この言いぐさ!!この半目!!
腹たつわあああ!!この唯我独尊野郎め!!…なんか一気に罪悪感なくなって来たぞ。過去の私よ、もっとデイビット手酷く虐めてやれ。…あ、待って。そのせいで性格ネジ曲がったかもしれないから、下手したらもっと性格あかんことになるかもしれないから、やっぱり止めて。
「――てか、デイビット。いつかもし、そのデイビットを弄んだ?とかいう女の子と再会したら、具体的には何するつもりなの?」