悪魔なご主人様
「…あいつは物心ついた時から、この世界が乙女ゲーム?だどうとか、前世がどうのこうの訳わかんねぇことばかり言ってやがった。正直頭おかしいじゃねぇのかとずっと思ってたんだが…」
悪魔様は腕組みをしながら、横目で私を見やる。
「妄想と片づけるにゃ、随分と当たるんだよな。あいつの糞予言。あいつが引きこもる前に口走っていた、学園に入学したらルクレア・ボレアっつ―糞高飛車女に虐められることまで当たってやがる。ただの偶然にしちゃあ、さすがに出来過ぎだよなぁ?」
「……」
「そして今日、お前は愚姉同様、乙女ゲームとかいう意味不明な単語を口にした。愚姉と認識がねぇ、てめぇがな。こうなってくると流石の俺でも、あいつの妄言が真実だと認めねぇわけにはいかねぇと、思い始めてきた」
「…聖魔法の範囲に、未来を見通す予言能力も入るとは思わないんでしょうか…?」
「予言能力?」
悪魔様は私の言葉を鼻で笑い飛ばす。
「あいつがまともな予言能力があるっつーなら、いちいち俺が企んだ『ささやかな悪戯』に、学習能力無いまま毎回毎回引っかかっては、間抜けな面晒したりしねーだろーが。毎回毎回俺が何か仕掛ける度ギャーピーギャーピー泣き喚く顔が、実に笑えるんだ。あいつ」
喉を鳴らして笑うその姿、まさに悪魔。
哀れ、エンジェちゃん。
どうやらこの悪魔に虐げられる日々を、ずっと送ってきたらしい。幼いころから十年以上ずっととか可哀想すぎる。元引きこもりオタクの身にはさぞかしきつかっただろう。私なら、絶対ごめんだ。
…ん、そう考えると、もしかして今回の引きこもりは、あわよくば悪魔な弟を学園にやって遠ざけられれば、と狙っての行動なのか?代わりに駆り出されるの、どう考えても悪魔様だもんな。自身は家に引きこもって。邪魔な悪魔は外の学園に追いやって。エンジェちゃんからすれば、今が最高の環境だよな。
狙ったのか?たまたまか?どうなんだ?そこのところ。
「まぁ、あいつの話を今さら信じてみたところで、今までろくに話なんか聞いてねぇから、なんていったか思いだせねぇんだけどな。聞いてねぇから」
…聞いてあげてっ…!!
転生者故の、自分は頭おかしいんじゃないかとかいう葛藤を、エンジェちゃんは勇気を出して口に出してるんだから、ちゃんと向き合ってあげて…っ!!
私は神経極太だからさして悩まんかったけど、聞いている限りエンジェちゃんめちゃくちゃ繊細そうだからっ!!そのままじゃ、世界を拒絶して引きこもりになってしまう…て、もうなっているな。今さらか。
「…つーわけで」
あ、悪魔様。イイ笑顔。
非常に愛らしいのに、本性を知った今は何故か震えが止まらねぇや。
技名:【悪魔の笑み】効用:冷や汗、激しい動悸、口内の渇き、鳥肌ってとこか。
「てめぇが知っている情報、全部吐けや」
「ハイ、当然デス。ゴ主人様」
…あと、服従心の強化も。…調教系スキルですね。わかります。
そして、私は悪魔様に全部暴露した。
前世のこと。乙女ゲームのこと。知っているマルチエンド(ネタエンド)の数々。私の性癖のこと。
ぜんぶ、ぜんぶ私が知っていることは全て、悪魔様に包み隠さずお話しした。(万が一漏れがあったことに後からばれたら怖い)
そんな中、ある単語を耳にした途端、悪魔様の眼が、きゅぴんと、きゅぴんと妖しく光った。(漫画の効果音的表現だが、私には本当にそう見えた。悪魔様に混ざる魔物の血のせいか。恐怖ゆえの錯覚か)
「――『逆ハーエンド』?」




