表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲームの悪(中略)ヒロインが鬼畜女装野郎だったので、助けて下さい  作者: 空飛ぶひよこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

158/213

アルク・ティムシーというドエム31

「クレア…?」


 突然雰囲気が変わった私に戸惑うデイビットを、鼻で笑った。


「どんなに努力したって、庶民が貴族になんてなれるわけないじゃない?馬鹿な夢を見るのはやめたら?」


「…っ」


 ショックで呆然とするデイビットに胸の奥がすっとした。


 もっと、もっと、傷つけたい。

 この愚かな子供に現実を思い知らせたい。

 現実を教えて、絶望させたい。…精霊を御せないことに対する、今の私の絶望よりももっともっと深く。


 そんな残酷な欲求が胸の奥からふつふつと湧き上がってくる。


 どうせ、いつかは知るんだ。子ども時分に考えていたよりも、現実はもっともっと厳しいことを成長するうちに知っていくんだ。世界はそう、優しくはないことを。


 ならば、私が今それを教えてあげても同じことでしょう?

 寧ろ下手な夢を見る前に現実を知らせてあげた方が、デイビットの為に親切ってものじゃない?


「――ねぇ、デイビット。いいこと教えてあげる」


 脳内で自分の行為を正当化する言い訳を並べ立てながら、私は歪んだ笑みを浮かべてデイビットを傷つける言葉を口にする。


「私は今まで、貴方を好きだと、大切だと、そう言い続けたけど、少しも本気ではなかったわ」


 デイビットの顔がこわばり、その眼に絶望が走る。

 そんなデイビットに、私は一層笑みを深めた。


「貴族の私が、庶民の貴方を本気になると思った?ぜーんぶ、嘘。全部ただのお遊びよ。…良かったわね。デイビット。これで貴方が貴族になるなんて無謀な夢を見る必要、亡くなったわね?」


 デイビットの心が、パキリと音を立てて折れる音が聞こえた気がした。


「――嘘、だ」


 顔から一切の血の気が引いて、蒼白になったデイビットが唇を戦慄かせる。


「残念ながら、全部本当よ。――ごめんなさいね。本当はちゃんと隠す通す気だったのに、貴方があまりに愚かなことをいうものだから、思わず本音をばらしちゃったわ」


 くすくすとわざと聞こえるように笑いながら、私は意識的にデイビットを追いつめる。


「――でもいい勉強になったでしょう?貴族の口車をそのまま信じると痛い目に合うってことが分かって。そういう生き物なのよ、貴族っていうのは」


 嘲るような私の言葉に、デイビットの顔が、怒りでカッと赤く染まった。


「――嘘つき」


「………」


「嘘つき、嘘つき、嘘つき!!――最低だ、お前は…っ!!」


 顔を真っ赤にして癇癪を起したデイビットを、私は冷めた視線で眺めていた。それは、単なる子どもの癇癪のように思えた。――この時は、まだ。


「俺のこと、好きだって、言った癖に!!大好きだってそう言った癖にっ!!……」


 デイビットは目に涙を浮かべて俯くと、そのまま暫く黙り込んだ。


 …これで罵りは終わりだろうか?これで満足したかな?

 ならばもう帰ってもいいかな。お父様が帰り支度をして待っている。


 そこまでも冷淡な気持ちになっていた私の心は、その時既にデイビットから離れつつあった。

 デイビットを激昂させたことで、私はもうすっかり満足して、既にデイビットから関心を失いかけていたのだ。


「…っ」


 しかし次の瞬間、不意にどこからか湧き上がって来た本能的な恐怖に、私は弾かれたようにデイビットに視線を向けていた。


「……許さない--絶対に、許さないから…!!」


 俯いたデイビットから発せられた声。

 それはまるで、氷のように冷たい、地を這うような声だった。

 今まで聞いたことが無い種類の声に、首筋にぞわりと冷たいものが走る。

 ゆっくりと顔をあげたデイビットと目をあった途端、まるで金縛りにあったかのように動けなくなった。


「後悔、させてやる…いつか、お前に復讐して俺の気持ちを弄んだことを、後悔させてやるから、忘れるな…っ!!」


 その眼の奥で激しく燃える憎悪の感情に、私は息を飲んだ。

 こんな激しい負の感情を私は、知らない。

 こんな激しい負の感情を、今まで人から向けられたことが無い。


 うらまれることをしていると、分かっていた。負の感情を、デイビットは向けて来るだろうと、予想はしていた。


 分かっていた、筈だった。分かっていると、そう思っていた。


 だけど。だけど、こんなに


「いつか偉くなってお前を見返して、俺の前に這い蹲らせてやるから、覚えておけ…っ!!」


 ――だけど、こんなに、実際に憎悪をぶつけられることが怖いことだなんて、私は知らなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ