アルク・ティムシーというドエム27
しかし、次のデイビットの行動は完全に予想外だった。
「――俺なんかより、お前の方がずっと似合うだろ…」
そういってデイビットは眉間に皺を寄せた難しい顔で、近くにあった花を一厘積んで、私の髪に挿した。
「ほら良く、似合う」
離した手でそっと私の髪を撫でながら、視線を逸らしてぶっきらぼうな口調で、衝撃の台詞を言い放った。
「…俺の、花のお姫様……なんて、な…」
―――ちょっ、おま…
「……その台詞は、ちょっと恥ずかしいわ」
「!?な、何でだよっ!!お前が言ったこと真似したまでだろ…っ!!」
「だって、私が言うのと、男の子であるデイビットが言うのとは、やっぱり…」
「…っこの!!」
照れて掴みかかってくるデイビットから、きゃあきゃあ言って避ける。
「…冗談よ、冗談。嬉しいわ。ありがとう。デイビット」
にこにこ笑ってお礼を言うと、デイビットはさらに顔を真っ赤にして顔をそむけた。
だが、表面上は平然としているが、その実私の心臓はばくばく鳴っていた。
……このすけこましめ…っ!!
完全に心臓持ってかれたかと思ったわ…。
この歳でこれとは、全く、将来が思いやられるわ…マセガキ…。
「デイビット、怒っている?」
私が顔を覗き込むと、デイビットは一層難しい顔つきで反対方向へ顔をそむけた。
「…怒ってない」
「ごめんなさい。貴方がそんなに怒るとは思ってなかったの」
「…だから、怒ってない。こんなことで怒るほど子供じゃない」
…いや、明らかに怒っているから。そして子供じゃないって、お前子供だろーが。
私は悲しげに眉をハノ字ににすると、両手を合わせてデイビットに懇願する。
「どうか、機嫌直して、デイビット。…大好きな貴方が気分を害してしまったかと思うと、とても悲しいの。私のこと、嫌いになった…?」
ぼんと、効果音がついたかのように、デイビットの顔がさらに一層紅潮した。…既に顔の赤さが4段階までレベルアップしているわけだが、人間ってどこまで顔を赤く出来るんだろうか。ちょっと限界を試してみたくなるなな。これは。
「――嫌いになんて、ならねぇよ」
「本当!?嬉しい。…ねぇ、デイビット。私のこと好き?」
「…ああ、好きだ」
「やったぁ。両想いね。それって、すごく素敵だわ!!」
口元に浮かぶ歪んだ笑みを、両手で隠して、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
ああ、なんて
なんて、単純で愛おしい。
わたしの掌の中で意のままに転がるデイビットが、実に可哀想で、可愛かった。
「――大好きよ。デイビット。また、明日も、素敵な場所に連れて行ってね」
日を追うごとに、デイビットが私を好きになって行くのが分かる。
デイビットの中の恋心が、膨らんでいく様子が分かる。
私は何かの生き物を育てるかのように、その経過を愉しんでいた。
優越感という甘い感情の虜になっていた。
「…あ、そういえば最近、精霊を呼び出していないや…」
朝の身支度をしながら、ふと気が付く。この村に来てから、一度も精霊に会っていない。
今までは訓練も兼ねて、週に一度は必ず召喚するようにしていたのに、もう10日も呼び出していないことになる。
「…まぁ、いいか」
私を嫌い憎む精霊達の顔を思い出した途端、首を振ってその事実を意図的に頭の片隅に追いやる。
この村の滞在中くらいは、いいだろう。あんな奴らと顔を合せなくても。
不愉快になるだけだ――お互いに。
それより、私はデイビットと遊びたい。デイビットで、遊びたい。…そっちの方が、よほど愉しい。
そして精霊達のことなんて忘れて、いつものように遊びに出かけた。
「デイビット!!今日はどこに連れて行ってくれるの?」
――当時の私は、デイビットとの交流を、精霊達との不和という現実から目を逸らす為の逃げ場にしていることに、気付いていなかった。