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アルク・ティムシーというドエム25

「…なんだお前、間抜けな面しやがって」


 …違う、天使じゃない。人間の子供だ。

 しかも、男の子。…あまりに外見が中性的だから、正直女の子と言われても信じちゃうけど、口調的にも見掛け的にも、多分男の子。…うん。恐らく。


 光の加減か、降りてきた瞬間は鮮やかな茶の様に見えたその髪は、改めて向かい合ってみると漆黒だった。

 どうやら木の上に潜んでいて、私が来たタイミングで飛び降りたらしい。…外見に似合わず、思いの他やんちゃな少年だ。


 そう、目の前に現れた少年は、思わず見とれてしまうくらい、愛らしい容姿をしていた。

 彼の髪の色が金色だったなら、冷静に向き合った今ですら、少年は天使なのじゃないかと錯覚してしまうくらいに。

 こんな愛らしい顔だちの人間、初めて見た。

 思わずまじまじと見つめる私に、少年は不機嫌そうな顔で頬を赤く染めてそっぽを向いた。


「…そうやって間抜け面やめると、その…お前、きれいだな。…お前みたいな、きれいな奴、初めて見た」


 ……え、お前、鏡見たことあんの?

 恥ずかしげに告げられた少年の言葉に、思わず突っ込む。

 いるじゃん、そこに。私と負けず劣らずきれいな奴が。

 毎日鏡で顔合わせてんじゃないの?え、なんの冗談?


 しかしそんな私の内心の動揺とは裏腹に、少年はどうも本気で言っているらしかった。


 ……ああ、そうか。顔立ち云々じゃなくて、単に私が貴族だからか。


 少年の服と自身の服を見比べて、ようやく少年の言葉の意味を理解する。

 私の身につけているものも、髪型のセットも、全てがお金がかかっており、到底庶民じゃマネ出来ないものばかりだ。装飾品はどれも、一つで庶民の一年の生活は保障できるようなそんなものだ。

 そんな最高級の装いをしている私は、庶民にはとても洗練されて美しい存在に写ることだろう。

 単にそれだけのは話だ。大した意味はない。


「――ありがとう」


 そうは思うものの、やはり嬉しいものは嬉しい。にっこりと満面の笑みを浮かべて礼を言うと少年の顔がさらに赤くなかった。


「……別に…本当のこと言っただけだし。礼を言われるようなことじゃ…」


「でも私は嬉しかったのだもの。お礼くらい言わせて。ありがとう」


「……っ」


 耳まで真っ赤に染める少年の様子に胸の奥が満たされていくのが分かる。この一年の間で、積もり積もった劣等感が、解消されていくのを。


 ――なんて、たわいがない。いくら試行錯誤しても、けして心を開こうとしない、精霊達とは大違いだ。


 ああ、でも。本来はこうであるべきなんだ。


 私は支配する側の人間。その他は、支配される側の人間。


 私の意図に合わせて、素直に転がされるのが、正しい姿なんだ。…精霊達の様に、頑なに私を拒むことの方が異常なんだ。


 ――そうだ。簡単なんだ。人を意のままに操り、支配することなんて、簡単なんだ。私の力を持ってさえすれば。

 精霊達が特殊な例なだけだ。私が劣っているとか、そういうわけじゃないんだ。


「初めまして。私は…クレア。お父様に連れられてここに来たのはいいけど、お友達もいない初めての土地に、すごく緊張しているの」


 そのことを、この少年を使って証明しよう。…後々面倒ごとにならないように、ちゃんと偽名を使ったうえで。


「ねぇ、貴方、私のお友達になってくれる?」


 上目使いに、小首を傾げて、あざといまでに愛らしさを意識した問いかけに、少年の顔は茹らんばかりに紅潮した。

 

「…あぁ、別に構わねぇよ。つーか、最初からそのつもりで来たし」


 そっぽを向いてぶっきらぼうにそう告げながらも、内心の動揺が透けて見える少年の分かりやすい態度に、思わずにんまりと口端があがるのを両手を使って隠す。

 ……まぁ、隠さなくても、少年はまともにこちらを見てない…見れないだろうから、気付かないだろうけれど。

 

「俺は、デイビット…よろしくな、クレア」


 6歳の私はその時、デイビットと名乗った目の前の少年を、自分の劣等感を解消し優越感を満たす贄とすることに決めた。

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