アルク・ティムシーというドエム19
「――なんだ、また来たのか。ルクレア」
「「「「…ヒッ」」」」
「…うぉっ!!」
突如目の前に現れたデイビットの反転した顔に、思わず奇声と共に身をのけぞらせる。…び、びっくりした…!!てか、完全に気配なかったよ!!
私同様、突然のデイビットの出現に動揺した精霊ズはいつの間にやら4体とも私の背中に隠れている。…おーい、お前らさっきまで私を守るとか何とか言ってなかったか?主人を盾にしてどーすんだ。おい…まぁ、震えて私に縋る様は可愛いから、良いけどさ。
「や、デイビット。また差し入れ持ってきたよー」
取りあえず、うん、ここは爽やかな挨拶からだな。
手に持ったバスケットを掲げながら、イイ笑顔を向けると、頭上の枝に両足を掛けてぶら下がっていたデイビットは呆れたように溜息を吐いた。
「ホント、お前は森に対する危機感ねぇな…まぁ、今回はちゃんと結界魔法も張ってるみてぇだし、まだ明るいからいーけどよ」
よっ、と小さな掛け声とともに枝から足を離したデイビットは、空中で一回転して、華麗に地面へと着地した。おー流石。…ここでこけたら面白かったのに、こうも見事に着地されるとつまらんな。
「――お前、今なんか腹が立つこと考えただろ」
「イイエ、滅相モゴザイマセン」
相変わらず勘が鋭いデイビットの指摘に、即座に首を横に振る。
…う、この眼、信用してないな。まずい、このままではお仕置きフラグが…。
「――そんなことより!!ほらほら、休憩。差し入れ早く食べよう?デイビットは甘いの平気?」
「……まぁ、嫌いじゃねぇけど」
「なら良かった。今回の差し入れは、なんと…私手作りイチゴパフェでございまーす。さぁ、デイビット。食いねぇ、食いねぇ」
「……手作りって、どこまでがだ?」
「もちろん、盛り付け作業以外は、ボレア家料理人製に決まっているでしょう」
「胸を張って言うことか、アホ」
…よし、デイビットの意識逸らし成功、&お仕置きフラグ消滅―!!流石、私。
呆れたような視線を寄越すデイビットをまるっと無視して、バスケットから取り出した敷物を手早く、地面に敷いて行く。…以前みたいにデイビットだけなら、そのまんま地面に座らせてもいいんだけど、今回は私も食べる気だからな。貴族令嬢として地べたに座り込むなぞ断じてするわけにはいかない。(気遣いのベクトルがおかしい自覚はあるが、事実なのだから仕方ない)
「ほら、デイビットも早く座りなよ」
「……なんだ、このピクニック状態。やたらバスケットがでけぇと思ったら…」
「いーから、いーから。細かいことは気にしない。天気もいーし、日が暮れるまでまだ少し時間があるんだから、こんな休憩の仕方もたまにはいーでしょ」
来い来いと手招きをする私に、これ以上何を言っても無駄だと思ったのか、デイビットは再び聞えよがしな溜息を吐いてから、粗雑な動作で敷物に腰をおろして胡坐をかいた。…よしよし、上手く流されているな。後で上手く話を聞き出すために、このまま主導権を確保して置かなければ。
食べやすくカップに入ったパフェに匙をさしてデイビットに渡すと、コップに魔法瓶から温かいお茶を注いで脇に置く。
私の分も用意して、精霊達には料理人に無理を言ってなんとか作った、一口サイズのミニパフェを渡す。基本何も食べなくても生きられる精霊達だけど、たまにはこーゆーものもいいだろう。食べれないわけじゃないし。
「――それじゃあ、食べようか。頂きまーす」
「「「「イタダキマース」」」」
「……あ、ああ。食わせてもらうわ」
……そこはデイビットもつられて、手を合わせて「頂きます」と言うところだろう。何で、そんなドン引きした目で私と精霊達を見てるんだ。この世界にはない習慣だが、この言葉には与えられる食に感謝する日本人スピリットが篭っているんだぞ。さぁ、共にこの世界に「頂きます」を広めようじゃないか…っ!!
内心でそんな似合わぬ(元)日本人としての思い入れを語りつつも、言葉には出さずに黙ってパフェを口に運ぶ。
口内に広がったパフェの味を認識した途端、小さく眉が寄った。
「……甘い」
「?普通の甘さだろ。美味いぜ、それなりに」
「ウン、マァマァダナ!!」
「…悪ク、ナイ…」
「エー、美味シイヨ。スッゴク。マスター、オカワリ!!」
「私モコレ好キデス。ア、アノ、デキタラ私二モオカワリヲ…」
デイビットは特に不満もなく口に運んでいるし、精霊達の反応も良くて、特に女の子二人は大満足しているようだが、私としてはどうしても釈然としない。
違う。確かに、パフェは甘いものだ。そして、これはこれで美味しい。
だけど、これは私が求めている甘さじゃない…!!
私は、お抱えの料理人に、カフェテリアで出てくるあの味を再現させたかったんだ…!