アルク・ティムシーというドエム2
「……何なんだ、お前は。いきなり訳が分からないことを言い出して」
そんなアルクを見るデイビットの眼はどこまでも冷たい。
初対面が初対面だけに、ルカの時同様に普段のエンジェモードを取り繕う気は無いのだろう。その口調はどこまでも素のデイビットに近い。
そーだ、そーだ、もっと言うたれー。ド変態去れって、追い返したれー。
「…あぁ、その塵クズを見るような目…相変わらず素敵だ…」
…って、ドエムには逆効果だったー!!
頬を染めて、うっとりするアルクの姿はどこまでも気色悪い。
一刻でも、こんな変態に憧れてた時期があったかと思うと、死にたくなってくる。完全に黒歴史である。
デイビットはそんなアルクの反応に、一層不愉快そうに表情を歪めていたが、やがて合点がいったとでもいう様に溜め息を吐く。
「………ああ、誰かと思えば、いつぞや食堂で脳天蹴り飛ばして身悶えていた男か。何なんだ、今頃」
……え、デイビット、もしかしなくてもアルクの存在すっかり忘れてたの?
あんな強烈な初対面だったうえに、私がちゃんと攻略対象だ云々語っていたのに?
え、マジで?
私が受けた衝撃は、アルクにとってはもっともっと大きいものだったらしい。
ショックのあまり呆然と目を見開いて、肩を落とす。
…図体のでかい男が、身を縮めながら体を震わして、傷ついている様は、意外性があるだけにちょっとクるものがあるな…。
「……く…このつれなさも、また、イイ…これもまた一種の放置プレイと考えていいのだろうか…」
……いや、違った。震えてるんじゃなくて、身悶えているだけだった。
本当、どこまで変態なんだ、この男は。
「――エンジェ嬢。貴方にとっては今さらだと思われるかもしれませんが、俺は初めて会った時から、片時だって貴女を忘れたことはありませんでした。ずっと、ずっと貴女のことを想いつづけていました」
気を取り直したかのように、すっと背筋を伸ばして、きりっとした凛々しい表情で真っ直ぐにデイビットを見つめるアルクの姿は、一見格好よく見える。
だが、その鼻の下に、拭ったらしき血の跡が残っているのが全てを台無しにしている。……この会話だけで興奮のあまり鼻血を出すだけとか、どれだけだ。
「……ですが、なかなか話しかける勇気がなくて……」
恥ずかしそうに眼を伏せて、頬を染めるアルク・ティムシー(属性:朴念仁系マッチョ)
…やめろ。もじもじ指を絡ませるんじゃない。体を揺らすんじゃない。視界の暴力だ。
ほら、見ろ。デイビットの顔も吐き気を耐えるかのように歪んでいるじゃないか。口の端ひくひくしてるぞ。
「話しかけれないままに、それでも貴女のことが知りたくて、後ををつけて物陰から見守ったりもしたのですが、いつも気が付けば撒かれてしまってばかりで…このままじゃ、貴女に近づくことも出来ないと思い、思い切って舞踏会のパートナーを申し込むことにしたんです…」
「……ほぉ。時折感じるあの気色悪い視線と気配は、てめぇのだったのか」
「…っ!!気付いて、気付いていて下さったのですか!?」
おい、ストーカー。そこで何故喜ぶ。口元を緩める。
……あぁ、デイビットが今、完全に冷気を発している。視線の温度が完全に氷点下に達している。
なのに、増々それを嬉しそうにするから、本当に性質が悪いなぁ!!ドエムって奴は!!
こんな性質が悪いドエム野郎、放っておくわけにはいくまい。
「――アルク・ティムシー卿」
注目を引くべくこほんと大きく咳払いをしてから、私は冷たい声色でアルクの名前を呼んだ。
そこでようやく私の存在に気付いたらしいアルクは、胡乱げな表情を私に向けた。
私はそんなアルクに、作り物めいた凄みある笑みを浮かべて見せる。
「貴方とエンジェの関係を私は知りませんが、突然乱入してきたうえに、私を完全に無視してエンジェに話掛け続けるのは、些か無礼でありませんこと?エンジェは今、私と話していたのですわよ。ティムシー家の跡取りは、貴族の作法もろくに存じてらっしゃらないのかしら?」
さぁ、このルクレア・ボレア様が相手だ。アルク・ティムシー。
デイビットの前から、さっさと追っ払ってやる。




