ルカ・ポアネスという不良41
「…っ」
シルフィは私の言葉に、何かを耐えるようにぎゅうっと顔を歪めるものの、それでも私が合わせようとする視線には応えてくれない。
…ふむ。これだけじゃ、私の愛は伝わらないか。
「――私を怒ってくれる、シルフィが好きだ」
だったら、もっと私の素直な気持ちをシルフィにぶつけなければならない。
愛を伝えるのに、言葉を惜しんではいけない。
「私は馬鹿だから、色々間違っちゃったり暴走してしまったりも多いよね。そんな私を、冷静に諭して軌道修正してくれるシルフィに、私はいつも助けられているんだ。どうしても感情が先行しがちなサーラムも、私に遠慮しちゃうディーネも、寝ることばっかりであんまり何も考えていないノムルも、そんな風に私の手助けは出来ない。…シルフィがいるからこそ、私は正しい道を選択出来たことが、何度もあるんだよ」
「…っ!!」
「気まぐれで、好奇心旺盛なところも好きだ…シルフィと一緒にいると、いつも何かしら新しい発見があるんだ。シルフィが、いつも私の世界を広げてくれる」
「…マ…マスター…」
「悪戯好きで、強気で、素直じゃないところも、可愛い。シルフィの笑っている顔が、好きだ。シルフィの笑顔はね、まるで太陽みたいで、見ていると胸の奥が温かくなるんだ。…素直じゃないけど、本当はすごく優しくて、そして、本気で私のことをすごく思ってくれていることも分かってる」
――ああ、ようやく視線が合った。
涙で滲んだ若草色のその瞳に、泣きそうに歪んだその顔に、思わず笑みが零れる。
愛おしさが、ただただ胸の奥から込み上げる。
「…シルフィ。シルフィが望むなら、私は一晩中だって、シルフィの好きなところを語れるよ?何度だって、何百回だって大好きだって、そういうよ」
「…マスタァー…」
「だからね、シルフィ、信じて」
シルフィをそっと自分の方に引き寄せる。シルフィは、抵抗はしなかった。
その柔らかい黄緑の髪を、指先でそっと撫でながら、その耳元に口を寄せた。
「感情のままに怒鳴ってしまったけど、私の失態をシルフィに押し付けてしまうような、勝手で駄目な主人だけど…だけど、本当に本当にシルフィが大好きなんだ。大好きで愛おしくて、仕方ないんだ……お願いだから、それだけは信じて」
シルフィの目元に溜まっていた涙が、とうとう零れ落ちた。
「…マスター!!ゴメンナサイッッ!!!!」
そして、そのままシルフィは、大泣きしながら私の胸の奥に突進して来た。
抱きつぶさないような強さで、そんなシルフィをそっと抱きしめる。
「勝手ナ事シテ、ゴメンナサイ!!マスター!!他ノ精霊達二嫉妬シテタノ…!!ダカラ、私一人デ、マスター喜バセタカッタノ…!!」
「…うん。ごめんね。シルフィの気持ちに、気付いてあげられなくて…」
「嘘ダヨ…!!大嫌イナンテ、嘘、大嘘ダヨ!!大好キダヨ!!本当ハ私、マスターガ大好キナンダヨ…!!」
「…うん、大丈夫、分かっているよ」
「ダカラ…ダガラ、マズダー、私ヲ嫌イニナラナイデ…!!」
「っ嫌いになんで、なれるばずがない…大好ぎ、大好ぎなんだよ!!ジルブィ!!!」
顔をぐちゃぐちゃにして泣き喚くシルフィの姿に、引っ込んだはずの涙がまた溢れて来た。
シルフィの小さな小さなその体を抱きしめながら、二人して涙と鼻水をだらだら流して、わんわんと泣き喚く。
「大好き」「ごめんなさい」
その二つの言葉を繰り返すうちに、胸の奥にあった泥ついた思いが霧散していくのが分かった。
「…で、仲直りは終わったのか?」
不意に脇から聞こえて来た声に、ハッと我に返る。
……まずい、デイビットの存在、すっかり忘れていた。
シルフィと和解出来たからには、もう一度ちゃんとデイビットに謝らなければ。謝って、そして改めて、お礼を言おう。
だってデイビットの言葉が無かったら、私はこうもすんなりシルフィと和解することは出来なかっただろうから。
しかし、私がデイビットに向き合うより早く、シルフィが動いた。
「…ッソ、ソコノ女男!!チョット、今カラ私ガ言ウコトヲ聞キナサイ!!」
「あぁん!?何だ糞チビ!?」
「ヒッ!!…エト、ソノ…」
デイビットの鋭い一瞥に怯んで身を縮ませながらも、それでもシルフィは引かなかった。
ぎゅうっと一度固く目蓋を閉じて自身を落ち着かせてから、シルフィは強い決意を宿した目で、再びデイビットを見据えて大声で言い放った。
「――大切ナ試合、邪魔ヲシテ、申シ訳、アリマセンデシタ!!!!」