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ルカ・ポアネスという不良34

「――勝者、エンジェ・ルーチェ!!決勝進出!!」



 声の増幅魔法によって、闘技場内一杯に響き渡るように下された判定の声に、観客は湧きたつ。



「…すげぇ!!あの女、また圧勝だ…っ!!」


「戦闘特化コースでもないのに…何者だ、あいつ…!?」


 あちこちから発せられる、興奮と戸惑いに混じった感嘆の声。それらは全て、試合開始数分で、瞬く間に戦闘特化コースの生徒を沈めた、デイビットに対する評価だ。



「…これは、あの女とルカ・ポアネスの一騎打ちになるな…!!」


「ああ…アルク・ティムシーがいればまた結果は違ったかもしれないが、今回はティムシー家の用事でエントリーしていないらしいからな。ルカの圧勝になるかと思っていたが、ダークホースが現れたな。面白くなってきたぞ」


「私は魔法理論の天才と言われたダーザ・オーサムなら、もしかしたらと思っていたんだが、残念ながらルカに瞬殺されていたからな…やはり理論の理解に対して年齢もあってか、身体能力が追い付いていないようだ…だが、展開しようとしていた式の強力さを見ると、来年の武術大会こそ、ダーザが優勝するかもしれないな」



 備え付けで施された式から、騒がしくないように調整された音量で聞こえてくる階下の会話。

 小型コロセウムのような造りになっている競技場における、一番高い位置――事前予約した大貴族しか使うことが出来ない、特別テラス席から、私は静かに競技を眺めていた。

 テラス席には、膜のようなスクリーンが目の前に貼り巡らせてあり、そこに競技場中央の様子が大写しで映し出されている。

 そこには、片腕を天に向かって掲げながら、不敵に笑うデイビットの姿がはっきりと見て取れた。

 そんなデイビットの姿に、胸が苦しくなる。


 ……途中で、負けてくれれば良かったのに。思わず、そう思ってしまう。


 デイビットが途中で負けていれば、ルカと三度目の決着はつけられない。ルカを従える機会を、先延ばしにすることが出来るのに。


 だがそんな私の願いを裏切る様に、デイビットは驚くほどに、強かった。


 武術大会とはいえ、試合自体は魔法使用が許可されており、魔術師希望以外の生徒もまた、積極的に魔法を行使しようとするのが普通だ。

 武器を使用もまた許可されているものの、武器は定められたものを、学園から借りなければならないという制約がある。一方で魔法に対する制約は少ない為、試合では多くの生徒が武器よりも魔法展開を優先して使う傾向にある。

 だがデイビットは今までに行われた試合全て、魔法に頼ることもなく、それに加えて学園から武器を借りることもなく、ただ己の体のみで勝利した。その方法は、式が展開されるよりも素早く体を動かし、ただその拳をもってして、対戦相手を制圧する、それだけ。…文字にかけば単純だが、実際その動きを目にしすると、化け物じみた強さだと生唾を飲みこまずにはいられなかった。どんな身体能力があれば、あんな素早い動きが出来るんだ?…どこまでも人外に近い奴だ。デイビット…。


 …だが、既に全勝してしまったデイビットが駄目なら、ルカが決勝前の試合に負けてくれば……。


「――勝者、ルカ・ポアネス!!決勝進出!!」


 だが、そんな私の淡い期待は、次の瞬間響き渡ったルカの勝利判定の宣告で、瞬く間に霧散する。

 …おい、おい、勝利すんの早すぎるだろ。試合開始から宣告が下されるまでの時間、先程のデイビットの試合の時以上に短かったぞ!?期待する間もないって、おい。


 思わず、大きく溜息が漏れた。


 ……うん、いいんだ。いいのさ。そうなると、思っていたから。ここで残るからこその、ルカ・ポアネスだよね。乙女ゲーの攻略キャラが、名もなきモブに負けるはずないもんな…。


 思わず遠い目で現実逃避するように、アンニュイに黄昏る。


 まもなく、エンジェ・ルーチェ対ルカ・ポアネスの決勝戦が始まる。

 この試合でデイビットが勝利した時点で、ルカはデイビットを主と認め、命令に従わなければいけなくなる。

 デイビットは、【銀狼の再来】の主として、名を広めることになる。


 ――それが、どうしようもなく、いやでいやで仕方なかった。



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