ルカ・ポアネスという不良31
…いやね、最初はふつーの厚さのサンドイッチにしようと思ったんですよ。シンプルな具がうっすら挟まれていて、一口で簡単に口に収められるくらいの厚さにさ。
実際私が家で出されるサンドイッチって、そんなんばっかだし。食べながらボロボロに零すようなサンドイッチなんか、明らかに貴族向けじゃないし。
――でも、思ったんだよ。デイビットって、庶民出だよね?だったらボリューミーな分厚い具だくさんサンドイッチの方が良くね?…て。
私は残念ながら、今世における庶民の食事状況には明るくない。なので、私のイメージはどうしても、前世の知識に偏ってしまう。
外国の、庶民向けのサンドイッチ……想像したとき咄嗟に思い浮かんだのは、これ口に入るんか!?てなくらい分厚くて、たっぷり具材が挟まれた巨大サンドイッチ。
具材が零れるのも構わず、それを豪快に頬張っている様が私の中の「庶民のサンドイッチ」のイメージだった。
デイビットの性格を考えると、上品な小ぶりなサンドイッチをちょこちょこ摘まむより、なんとなく、イメージのサンドイッチに被りつく方が似合う気がしたのだ。
だから、口に入るきる量を考えながらも、具材をたっぷり、豪快に挟んでみたんだが…駄目、だったか?流石にちょっと、大胆過ぎた…?もしかしてこっちの世界に、んなサイズのサンドイッチとかないの?
「…まぁ、腹減ってるしありがたく食うけど…」
呆れたような視線を私に送りながらも、デイビットは特に躊躇うこともなく、大口を開けてサンドイッチを口に入れる。
…そう!!このイメージだったんだよ!!デイビットならサンドイッチをこんな風に食べると思ってたんだ!!やっぱり私の選択は正しかったんだ…!!
デイビットは最初眉間に皺を寄せて咀嚼しようとしていたものも、その表情は時間が経つにつれて徐々に明るいものへと変化していく。
喉を鳴らして口の中の物を飲みこんでしまったから、ちょっと驚いたような表情でまだ残っているサンドイッチを見つめた。
「……うめぇ」
思わず口元がニタァーとにやけるのが分かった。よっしゃ!!計算通り!!
でしょ、でしょ?このサンドイッチ、美味しいでしょ?
美味しくないわけがないんだ、絶対に。だってこのサンドイッチは…
「…私の自慢のボレア家専属料理人が、パンも具材も全部用意し、ただ挟むだけの段階ですらあれこれ口出しして監修したうえで、制作されたものだからな!!美味くないわけないだろう!!」
「……いや、それ、胸を張って自信満々にいう内容か?」
いやだって、うちの料理人が素晴らしいのは誇りに思っていいことだと思うし!!
そんな料理人から「お嬢様の手をこれ以上煩わせるなんて…」「私の仕事を、どうか奪わないで下さいまし」「お嬢様には、どうしても素晴らしい味の料理を作って頂きたいのです。さしでがましい口を聞く私をお許し下さい」と、涙ながらに、されど柔らかい口調で、切々と訴えられたんだから、仕方ないだろう!!
毎日毎日、美味しい料理を提供してくれる自慢の料理人に、あんまり我が儘言って困らせたくなかったんだい!!……でもちゃんと具材を挟んだのは、私だよ。一応。だから、私の手作り…なはず。うん、多分。ちゃんとアドバイス聞きながらも、具材の組み合わせは最終的に私チョイスだし。
もくもくと食べ薦めて行く、デイビットに、水筒のお茶(料理人準備。私が中に詰めただけ)を蓋に注いで差し出す。
デイビットは、口の中の物を飲みこむなり、お茶を飲みこみ、私に蓋を返して、再びサンドイッチを口に運ぶ。
ちょっと待って、再びお茶を差し出す私。
サンドイッチを飲みこんで、お茶を飲むデイビット。
これを繰り返すこと、数回。
「……美味かった」
満足げに息を吐いて、お腹を摩るデイビット。
気が付けばあれだけ大きなサンドイッチは、綺麗さっぱりデイビットの胃に収まっていた。
……ふふん!!私のお手製(補助付き)サンドイッチは流石だろう!?




