ルカ・ポアネスという不良25
「――だけど、あいつはんな目をしながらも、倒れている俺に声を掛けてきたんだ」
ルカと、キエラは身を置く環境は似ている。
内側に抱く闇もまた、よく似ているのだろう。
だけど、二人には決定的に違うところがある。
「銀狼狙い以外の一般生徒からは怖がられて、避けられている俺を、なんの躊躇いもなく介抱して、目を醒ました俺に笑いながら話しかけて来たんだ」
そう言ってルカはそっと目を伏せた。
「…仮面みてぇな作り笑いを張り付けて、本心をひた隠ししながらも、それでもあいつは積極的に人と関わろうとしているんだ…っ」
二人の決定的な違い。
それは、他者への接し方だ。
ルカは、他者を拒絶して、関わらないことで己を守ろうとした。
一方でキエラは、笑顔の仮面を張り付けて内心を悟らせないようにしながらも、それでもなお他人に関わることをやめようとしない。
「俺は、逃げたのに…っ【銀狼】のプレッシャーを押し付けてくる周囲の期待が重くて、違う色を持つが為に向けられる奇異の目が辛くて、【銀狼】の主になろうと本性を隠して近づいてくる奴らが怖くて、俺は逃げたのに…っ。周囲を威嚇して、拒絶することで、傷つかねぇように弱い自分を守っていたのに…っ……それなのに同じ目をしたあいつは、逃げることなく真っ直ぐに他者と向かい合っているんだ。…俺みてぇな、普通の奴なら怖がるような相手ですらも」
ぎゅっと強く握られた、ルカの拳は震えていた。
「――眩しかった」
溜め息と共に開かれたルカの掌には、食い込んだ爪が皮膚を破ったのか、赤い血が滲んでいた。
「俺が逃げた恐怖に、真っ直ぐに向き合って戦っているキエラが、眩しかった…孤独を、闇を笑顔の裏におし隠しながらも、それでも他者と関わり続けるキエラの生き方に、強さに、どうしようもなく憧れた。劣等感を煽られながらも、それでもどうしようもねぇくらいに、惹きつけられずにはいられなかった」
伏せられていたルカの銀の瞳が、真っ直ぐに向けられる。
そのルカの瞳が、先程向けられたキエラの金の瞳の記憶と重なり、どきりとする。
「気が付いたら、いつの間にかそれが、恋になっていた…ただ、それだけの話だ」
ルカの瞳は、声は、どこまでも真剣だった。
真剣に、真っ直ぐに、キエラに恋を、していた。
「…そうなんですの。教えて下さってありがとうございます」
…あぁ、これなら、大丈夫だ。
ルカの恋が、キエラに向ける感情がここまで真剣なものなら大丈夫。
ルカは、キエラの本性を突きつけられても、きっと、キエラが好きなままだ。
全てをひっくるめて、キエラを好きだと言い続けるだろう。
思わず、口元から安堵の溜め息が漏れた。
二人がうまくいって、先程垣間見たキエラの闇が、晴れればいいのにと、柄でもなくそう思った。
……キエラにとってはもしかしたら余計なお世話かもしれないけどさ。
「……で、だ」
心情をすっかり告白してしまって後から照れがきたのか、不機嫌そうに眉を顰めたルカは、ごほんと咳払いを一つして話題を変えた。
「……キエラへの感情は俺の一方的な恋慕であって、キエラは今のところ俺に対して何の特別な想いも抱いてねぇと思うんだが…」
「…まぁ、そうですわね。間違いなく」
「……俺が言う分には構わねぇけど、他人から言われると何か胸に突き刺さるから、やめろ……まぁ、んなわけで、これからキエラと親密になりてぇと思っているわけだが、どうすればいいと思う?」
……どうすればいいと言われても。
思わず眉間に皺が寄った。
そもそも元々の接点自体が無いんだから、出会うたびに積極的に話しかけて接点を作ってみたらいいんじゃないか、というのが私の正直な感想である。乙女ゲームをはじめ、恋愛シミュレーションゲームではエンカウント率というのは重要である。会う数が多ければ多いほど、好感度は上がる。
実際の恋愛でも同様なのかは知らんけど(恋愛心理学の本では、接触回数は多いほどいいって書いてあった気がするけど、自分の経験で実感したことはないから真偽はわからん)この世界は乙女ゲームの世界だし、おそらく効果はあると思う。恋シミュで大事なのは、とにかく押しの、攻めの姿勢である。
…だけどそうやってアドバイスしたところで、純情乙女モード入っているルカが、積極的にキエラに話しかけられそうないというのが問題である。実際、今日ニ回ニアミスしているのに、ルカは何だかんだでキエラに話しかけられてないし。なんか、会っても話しかけられない、を繰り返してズルズル時間だけ経っていきそうな気がする。
なら、別にルカが自分から無理矢理接点を作らなくても、キエラと接点を持てるような状況を用意するのが一番なんだろうけど…。
「――あ、そうですわ。ルカ、貴方、次の武闘大会でエンジェに負ければ、キエラともっと関わり持てるようになりますわよ?」
「はぁっ!?」