ルカ・ポアネスという不良24
「…なんだ、てめぇ。何とか言ったらどうだ」
何も言葉を返さない私に、焦れたルカは凶悪な顔で凄む。
だが、その耳は悲しげにぴたんと伏せり、尻尾も力なくだらんと垂れ下がっている。…どうやら落ち込んでいる模様。
そんなルカの様子に、胸がぎゅっとわし掴まれる。
……まぁ、いいか。ルカなら。
顔を見る度ぶん殴りたくなるオージンと違って、可愛いし。可愛いは、正義。これは世の理。
…まぁ、うちのプリティエンジェルズの可愛さには、到底及ばんけどな…っ!!うちの子たちは、世界一可愛い…っ!!
「…いえ、貴方のキエラへの純粋な想いに心を打たれて、思わず言葉が詰まりましたの。貴方のキエラに向ける感情は、真っ直ぐでとても素敵だと思いますわ」
「…そ、そうか!?そう、思うか!?」
そう言いながら、にやける口元を隠すルカは、どこまでも単純だ。
…単純で、純情で、だからこそ、心配になる。
……なんてか、恋に恋する乙女って感じなんだよな、ルカ。服剥かれて困ってたところを助けられたから、惚れちゃうっていう単純さといいさ。
ルカはキエラの行動を、優しさ故だってフィルター掛けているかもしれないけど、実際はあれ、デイビットを守る為だし。しかも、何だかんだ言いつつ、剥かれた制服の代わりに売りつけた服、明らかに規格外な価格だし。……どう考えても、自分の利益追求第一で、全く持ってルカのこと思いやってないんだよなぁ…。
恋に恋している感じのルカが、そんなキエラの真実を知ってしまったらどうなるんだろうか。…打ちひしがれて病気にでもなってしまわないだろうか。
「貴方の感情が、素敵だと思うからこそ、聞きたいですわ。どうして、キエラのことを好きになりましたの?…まさか単純に助けてもらったとか、そういう理由じゃないでしょう?それとも単純に一目惚れなのかしら?」
ルカのキエラに対する気持ちを確かめるべく、敢えてそんな質問を振ってみる。
私の言葉に、ルカは暫し口を閉じて考え込んだ。
「……一目ぼれに近いっちゃあ、近ぇのかもしれねぇ」
「……そう」
ルカの返答に、内心落胆する。それならば、キエラの中身を知れば、想いも褪めてしまうかもしれない。
所詮外見だけ…その程度の、恋なんて、きっと脆いから。
そう考えると、ルカのキエラに対する思いは叶わない方が良いのかもしれない。
だけど、それで終わりかと思った解答に、ルカは更に言葉を続けた。
「一目見た瞬間、キエラに…キエラの目に、まるで視線が縫い付けられたかのように、目を離せなくなったんだ」
「目?」
「そう、あいつの目に、だ」
ルカはキエラと出会った時の記憶を反芻するかのように、痛みを耐えるような、どこか切なげな表情で目を細めた。
今まで、尻尾や耳はともかく、表面的には仏頂面だったルカのあからさまな変化に、内心戸惑う。
「笑っているのに、愉しげなのに、あいつの目の奥は冷め切っていた。全てに絶望し、全てを拒絶しているかのような、それでいてその事実を嫌悪しているみてぇな、そんな淋しい目を、あいつはしていた。世界に1人ぼっちみてぇな、んな目を」
「……そんなキエラに、貴方は同情されましたの?」
私の言葉をルカは鼻で笑った。
「――同情なんか、するわけがねぇ」
次の瞬間ルカが浮かべた笑みには、明らかに自嘲の色が滲んでいた。痛みを耐えるような、泣き笑いのような、そんな笑みだった。
「同情なんか、するわけねぇだろ…だって、あの目を俺は、知っているから」
――あぁ、そうか。
何故、ルカがキエラに惹かれたのか。その解答は、ルカの反応を見れば、すんなり浮かんできた。
優秀だが、異端な能力を持って生まれてきたが故に、一族や家族から、遠巻きにされて生きてきたキエラ。
その異端な色故に、英雄の再来として祭り上げられて、一族や家族から、特別な存在と扱われて生きてきたルカ。
「――あいつの目は、鏡を見れば映し出される俺自身の目と、よく似ているんだ」
二人はその境遇は、とてもよく似ているんだ。