ルカ・ポアネスという不良22
不良?それがなんぼのもんじゃい!!
この世に、権力より恐ろしもんなんか無いことを知らしめてやろうじゃないか。
ポアネス家もそれなりに有力貴族とはいえ、ボレア家には家柄では到底かなわないもんな。はんっ!!
それに喧嘩は腕力だけが全てじゃない。だってここはファンタジーの世界。魔法が使える世界だ。
いかに私がか弱く非力で可憐なお嬢様であっても、魔法を使えばルカに対抗は出来るのだ。
そして今は傍にいないが(キエラへの依頼内容を知られたくなくて、精霊たちが勝手に出て来れないように特別な式を施している)呼べばいつでも、私の小さなナイト達は現れる。
一方的に、やられる要素何か、微塵もない。ならば躊躇う必要はないだろう。
買ってやるよ!!ルカ・ポアネスっ!!お前が売った喧嘩をよっ!!
「……なんか、お前面倒くせぇな」
しかし、完全にルクレア・ボレアモードでブチ切れて身構えた私と裏腹に、ルカは私の言葉に怒ることもなく、ただ呆れたような溜息を吐くだけだった。なんだか、非常に、温度差を感じる。
…な、なんだ、その若干ひいている目はっ?妙に、平静な態度は?やれやれって、首を横に振ってんなや!!
ヒートアップしている私が、なんだか阿呆みたいな感じじゃないか…っ!!
貴様が売ってきた喧嘩だろうがっ!!熱くなれよ!!
もっと熱くなって、私にぶつかれよっ!!!!
「…取りあえず謝って、頭下げて頼めばいいのか?生意気ナ口キイテ、申シ訳アリマセンデシタ。オ願イデスカラ、俺ノ質問二答エテクダサイ…これでいいのか?」
「……棒読みで謝罪を述べるなんて、貴方馬鹿にしてらっしゃるの?」
「あん?何が不満なんだ?ちゃんとお前が望むような態度とってんじゃねぇか」
…不満に決まっているだろう。んな、全く心が篭っていない台詞言われても。
思わず拳を握ってふるふる全身を震わせるものの、ルカが心底不思議そうに首を傾げたのを見て、一気に毒気が抜かれた。
――もしかしてこいつ、本気でこれでいいと思って言ったんじゃないか。
そんな疑惑が頭をよぎる。
先程、脳みそが犬並と罵ったが、もしかしたら間違ってないのかもしれない。馬鹿にしたんじゃなくて、本心からあれでいいと思っているならアホ過ぎる。
…そういや、ゲームのルカ・ポアネス、ツンデレの印象が強くて忘れてたけど、根っこは単純で、動物的本能が強い野性的キャラだったわ。考えるよりも先に、脊髄反射で動くタイプ。
人間不信の結果、人間を避けて生きてきた分、コミュニケーション能力もがっつり低いし。誰かの気持ちを汲み取ったりとかも苦手で、それがツンデレに拍車をかけてたりもするし。
うん、ルカ・ポアネスって総合的に見て、単純にコミュ障のアホなんだよ。結局のところ。
……なんか、そう考えるとキレてんのがアホらしくなってきた。
さっきのボレア家を軽んじるような態度も、別に悪気があったわけじゃないんだろう…単純に何も考えていないだけで。
怒るだけ、時間とエネルギーの無駄だ。
「……もういいですわ。で、なんですの?聞きたいことって」
「答えてくれるのか!?」
私の言葉に、ルカはふさふさの尻尾をピンと立てた。
寄ってくるその顔は、相変わらずこっちを睨み付けていて凶悪だが、その尻尾が嬉しそうにふよふよ揺れているのを見て、増々力が抜ける。
「ええ、私が答えられる質問でしたら」
「…じゃ、じゃあ、答えろ」
先程までの何が何でも問いただすと言った気迫の様なものが、何故かいきなりなくなった。
てか、どもってるし。なんか若干声、裏返っているし。
ルカは暫し言いよどむように「あー」やら「えー」やら一人で言って視線を彷徨わせていたが、意を決したかのように真剣な表情を私に向けた。
心なしか、頬が赤い。
まるで愛の告白でもするかのような様で、ルカは問いを発した。
「――お前が先程まで一緒にいた、眼鏡の娘…あれは、だれだ?」
……ん?




