ルカ・ポアネスという不良21
さて、皆さん。皆さんは不良、もしくはヤンキーと言った人種と交流を持ったことがあるだろうか。
フィクションの世界ではお馴染みで、学生時代はクラスに1人はそれっぽい人間がいたかもしれないが、普通に生きてれば土地柄もあるかもしれないが、あんまり関わり合いにならない人種だと思う。
かくいう私も、不良らしい不良と接した記憶が、前世も今世もとんとない。そりゃ、前世でサービス業的バイトとか仕事とかした時はニアミスくらいはちらほらあるけど、かといって思い出深いエピソードは全くない。なんてか、同じ空間にいても、別次元の人種だと思っていたから、基本対応も逃げ腰だったし。不良が突如暴れだす的な漫画チックな事件なんて、普通に生きてたらそうそう起こらんし。
今世に至っては、なんせアタクシ上流階級の身分。不良なんて下賤なもの?なんて関わり合いがあるわけないでしょう。おほほほほ…てな感じである。…まぁ、その辺の破落戸に絡まれたり、刃物突きつけられたり、暗殺未遂の目にあったりした経験は無きにしもあらずだが、そんな時はいつもボレア家専属護衛orうちのぷりてぃ精霊ズが即座に対応してくれたので、接触時間はごく短かったので、交流を通して相手を理解するまでには至ってない。会話らしい会話なんか、していないかんね。
そんな、前世でも今世でも未知の人種であった、「不良」という人種が、目の前にいる。
目の前で、なんかギラギラした目で私を見つめてらっしゃる。
……正直に言おう。
「…何黙り込んでんだ、てめぇ。何とか言ったらどうだ?あぁ?」
こ わ い
………やべぇ、不良とか、普通に接したことない人種だよ!!マジ怖いよ!!
私非力で箸より重いもの持ったことが無いお嬢様だから、無駄に筋肉ついた腕で殴られたりしたら、きっと吹っ飛ぶよ!!
てか、何故来た、ルカ!!何故、私に詰め寄って、メンチ切ってくれてやがんだ…!!
怖い怖い怖い怖い
誰か助けて―――っ!!!
「――誰に向かって口を聞いてらっしゃるの?」
しかし、そんな内面の動揺と裏腹に、ハイスペック過ぎる私の体は自然に動いた。僅かな動揺も表に出すこともないまま、髪をかきあげながら、不愉快気に眉を顰めてルカを睨み付ける。
「人に者を尋ねる態度とは、とても思えませんわね。…私がルクレア・ボレアだと、貴方は知っていてそんな態度をとっていらっしゃるのかしら。だとしたら、とても愚かですわね」
…あぁ、私の口よ。何故そこで挑発するような危険ワードを紡ぐんだ。内心こんなに恐怖しているというのに。
げに恐ろしきは、自らの性分かな。
脅え、狼狽える様を素直に表に出せない、自分が憎い。
「――あぁん?てめぇが誰かなんか、知るわけねぇだろ」
しかし、そんな恐怖心はルカのそんな言葉に、瞬時に吹き飛んだ。
え、ちょっと待って。……こいつ、今、なんて言いやがった?
私に、カリスマ令嬢として名高い、この私に向かって、なんてほざきやがった…?
「…貴方はもしかして、ボレア家をご存じないのかしら…?」
発した声は、思いの外冷たく響いた。。
この国において、ボレア家の存在を知らないものなんて要るはずがない。
そんな考えが、私の中の常識が、今一瞬にして覆されたのだ。
そりゃあ、声だって冷たくなっても仕方ない。
ルカは私の問いかけに、眉間に皺を寄せながら、首を横に振った。
「有名な貴族の家だっつ―ことしか知らねぇし、それ以上はどうでもいい。…んなことより、てめぇに聞きてぇことが…」
…どうでもよくないわっっ!!ごらぁぁぁあ!!
かちりと、脳内のスイッチが切り替わったのが分かった。
湧き上がる興奮が冷め、脳内がすっと冷え込んでいく。
しかし一方で胸中はかっと熱を帯びるのを感じる。「怒り」という、その感情で。
…うん、分かった。
ボレア家をどうでもいいとほざいたこいつ。ボレア家を軽んじている、ルカ・ポアネス。
「……聞きたいことがあるというのなら、それ相応の態度をとりなさいと、そう言っているんですわ」
――こいつ、私の敵だ!!!
「随分と理解力が少なくていらっしゃるのね…貴方の脳味噌も、貴方の耳同様、犬畜生並なのかしら?」




