ルカ・ポアネスという不良20
「ほな、おーきにー。ルクレア様」
約束通り、通常の二倍の情報料を受け取り(仲良くなった?のに、一ラウだってまけようとしない辺りしっかりしてやがる)ホクホク顔で部屋を出ていくキエラを、黙って見送る。
私とキエラが取引をしていることは、バレたらバレたでさして問題はないけれど、それでもあまり広めたい事実ではない。
キエラと取引をしている=誰かに恋をしている、という認識がこの学園では普通なのだ。取引が誰かに見られれば、「ルクレア・ボレア嬢、熱愛発覚!?気になるその、お相手は!?」といった噂が学園に出回ることは間違いない。
ゴシップはカリスマの宿命とは言え、あんまり嬉しい事態でもないので、避けるに越したことはない。……どうせ、疑惑の相手として候補にあげられるのは、どこぞの腹黒王子か、氷の貴公子のどちらかだろうし。
前者はひたすら不愉快だし、後者は……何て言うか その…困る。別に前みたいに顔をしかめたりはしないけど、絶対に嫌だとかそう言うわけではないんだけど……とにかく、困るんだ。
だから、間違っても噂になんかならないよう、敢えて時間差をつけて部屋を出なければならない。最低でも10分くらいは。
「――はぁ…」
キエラが完全に退室したのを見届けると、私は溜め息を吐きながら、近くにあった机に突っ伏す。
…あぁ。なんてか精神的に色々削られた感じがする。いろんな意味で。
「…しかし、ゲームに出てたキャラ、皆裏表ありすぎじゃないか…」
可憐なヒロインは、鬼畜女装野郎。
ベッタベタ&キラキラな王子は、腹黒。
きゅるるん可愛い友人は、ひねくれてる&色々黒い。
明るいサポートキャラは、腹黒その2。
…思い返して見れば何だ、この濃すぎる裏設定。ゲームでは出なかった設定ばっかだぞ。
チョロくて分かりやすいと思ってたダーザですら、トリエットが関わると何か色々未知の闇のオーラ出しだすし。ぶっちゃけ、私を見る目が最近(色っぽい意味でなく殺意的な意味で)怖すぎるし。
今のところゲームに出演したキャラで一番裏表なく健全なのが、マシェルだという衝撃の真実に気が付いて、思わず恐れおののく。…いやひっきーなエンジェちゃん本人も、ある意味裏表ないけどさ。でも私と同じ転生者って時点で、ゲームの影響薄いから除外かな。会ったことはないから、詳しいとこは分からないし。
…なんてかさ。最早世界全てが、ゲームのバグによって形成されていると言われても信じられるレベルだよね。
せっかくゲームの知識を備わって生まれて来たというのに、この先何が起こるのか全く先が読めん…まぁ、この世界が現実である以上、そうであることが一番望ましいんだろうけど…。……でもせっかくなら未来に起こることを先に知っているからこその、予言型チートを体感したかった…っ!!だって、その方が楽だもん!!
それが敵わないなら、せめて一刻でいいから癒しが欲しい。
具体的に言うならば、分かりやすくてチョロくて、手のひらで簡単に転がされてもそれに気づかないような、単純な人間と分かりやすい交流したい。
腹の探り合いをしなくて済むような、想定のまんまな人間と交流して、一息つきたい。
……僕もう、腹黒合戦に疲れたよ…なんだか、とっても眠いんだ…。
そんなアホなことを考えているうちに、いつの間にか10分ほど経過していた。
…そろそろ頃合か。もう流石に出ても大丈夫だろう。
再び大きく息を吐き捨てて、座っていた席を正しつつ立ち上がる。
扉付近の結界は、結界を製作している所を見られてしまわないよう内側から形成されている。
扉の前に立つと、一帯に張り巡らせていた式を、指先で弄って破壊し、結界を解除する。
「――え」
巡らせていた結界が消滅した途端、扉が音を立てて勝手に開いた。
唖然とする私の視界に映ったのは…
「……何だ、てめぇ。こないだ糞女の傍にいた奴じゃねぇか」
切れ長な目から発せられる、険難な色を帯びた鋭い眼光。
見上げる程に高い背。
改造され、着崩されている制服。
そして銀色の髪の上に、ぴょこんと生えた、ふさふさのわんこ耳。
…間違い様がない。
「てめぇに、聞きたいことがある」
――ルカ・ポアネス…なんで、こんなところに、いきなり出てくんの!?