ルカ・ポアネスという不良19
…ううん。どうでもいいけど、それって下手な恋より、よっぽど重い気持ちなような…。
なんていうか、運共同体的意識?私よりよっぽど主従関係っぽいよね。…うん、どうでもいいけど。
……どうでもいいけど、なんかモヤモヤするなぁ……。
さて、そんなことは一先ず置いといて。
私はキエラの言葉になんて答えるのが正解なのだろう。
それらしい同情の言葉でも紡ぎたてればいいのか…いや、そんなの、キエラは望んでいないだろう。
かといって、私が心底キエラに共感出来るかといったら、残念ながらそれは無理だ。何故なら、私はキエラの様に、異端ゆえの孤独感を味わったことが無いから。
私が異端かそうじゃないかといえば、異端の部類に入ると思う。前世の記憶もちで、かつ、僅か5歳の頃に稀少な精霊を従わせた天才。そんな存在が、異端でない筈がない。
いつだって、私に畏怖の視線を送る人間はけして少なくなかった。けれど、そんな視線は全く気にならなかった。いつだって私の両親…そして、ボレア家に関係する人々は皆、そんな私の異質な部分を心から褒め讃え、肯定してくれたからだ。
ボレア家は、その名に固執する一族故に、同じ一族の者にはとことん甘い。ボレア家の誇りを穢すような行動を取らない限り、同じ一族のものであれば端からみたら眉をしかめるような特質ですら、懐深く受け止める。そんな一族にとって、私の得意な部分は、誇りに思いこそすれど、忌避や嫌悪の感情を向けるものではないのだ。
一族に愛されて育った私は、キエラの孤独を想像することは出来ても、その気持ちを自身の経験と照らし合わせて共感することは出来ない。だからこそ、その部分には触れてはいけないと思う。
その孤独を分かち合うことも出来ず、そしてそれをしたいと思う程、キエラと親しくもない私は。
「――何故、それを私に告げるの?」
だからこそ、私はキエラに問う。
どうして、敢えて私にそんな事情を話したのか。
その仮面をとって、私にキエラの本性を晒したのか。
「だって、ルクレア様、隷属魔法でデイビットに従っているんやろ?ルクレア様が主を守らなとか思って、痛くもない腹探られる前に、全部話しとかなあかんかな思って。適当に嘘な理由取り繕った結果、ボレア家に目ぇつけらるんなんてごめんやもん」
「………」
あっさり返ってきたキエラの答えに、思わずぐぅっと呻いてしまった。
確かに、私は先刻までデイビットの情報を隠蔽する相手に不信感を抱いていた。
キエラがそれが自分だと打ち明けなければ、ひっそり自分で探し出して何らかのアクションをとっていたかもしれない。
そう考えると、下手に疑心が膨れ上がって拗れる前に、堂々と自身の情報を晒したキエラの行動は賢い。正しい選択だったといえる。
「――ルクレア様。こんだけは覚えといて下さい」
私を真っ直ぐ見据えながら、キエラはにんまりと口端を吊り上げた。
「うちはあんたの直接的な味方っちゅーわけではない。でも、今のあんたの敵になることはないわ」
「…どうしてそう言えるの?」
「だって、うちはあんたの味方でなくても、デイビットの味方や。そしてあんたは、デイビットに従うもんやろ?味方の味方は、味方や。…少なくとも、デイビットに関することに関しては」
…そう言いながら、キエラがデイビットを裏切らないとは限らないじゃないか。
完全に信用出来るとは思えない。
そう思いながらも、敢えて反論は口にしない。…なんだか、子供っぽく拗ねているかのように思われそうで、なんか嫌だ。
「……別に私は、望んでデイビットに従っているわけではないのだけれど」
「それでも、あんたはデイビットに従っている今の状況に抗おうとせんのやろ?…その時点で、あんたは既に立派なデイビットの味方やで」
「………」
…いやいや。単純に逆らうことが不本意なだけです。かっこ悪い行動を取るのが嫌なだけです。別にデイビットに、心から味方しようなんて、てんで思っていないです。ええ、ほんとに。
胸中で何度も首を横に振りながらも、私はそれを表に出すこともなく、ただ黙ってキエラを見つめた。
キエラの手が、すっと目の前に差し出される。
「これも何かの縁や。同じデイビットの味方同士、仲良うしようや。そっちのが、色々便利やと思わん?」
問いかけるその声も、愉しげな色を帯びるその眼も、完全に私が是というのを確信しているようで、少し腹立たしい。
下級貴族の分際で馴れ馴れしいわ…!!と手を振り払ってやりたい衝動に駆られる。なんかそっちの方が、私の脳内ルクレア・ボレア像に似合うし。
……そうしてやりたいのは、やまやまであるが。
「――そうね。仲良くしましょう」
私は微笑みを浮かべながら、キエラの手を取る。
だけど、キエラと仲良くしておいた方が、便利なのは確かだ。私が知らないデイビットの情報も、手に入れやすくなるだろうし。…まぁ、どっちにしろキエラは金はとりそうだけど。
何にせよ、協力関係を結ぶにこしたことはない相手だ。
ここは敢えてノってやろう。
「これから宜しくね。キエラ」
私の反応に、キエラは嬉しそうに目を細めた。
固い握手を交わしながら、互いに目を合せて微笑み合う。
微笑むキエラは、なかなか愛らしいが、果たして内心は一体何を考えていることやら。
あぁ…腹黒の相手すんのはなかなか疲れる。