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ルカ・ポアネスという不良18

 キエラは煩わしそうに眼鏡を外した。

 露わになった瞳は、一層その金色の輝きを増す。


「魔力遮断眼鏡を持ってしても、ちょっと意識するだけで簡単に発動出来る程、強力な魔力を有した式。…なしてこないな式を、うちが持って生まれたのかなんて誰も分からん。分からんからこそ、一族のもんは皆、うちの能力の高さを賞賛しながら、うちを怖がった。両親だって、同じや。何でこんな目を持って生まれたんやと、ずっと思っとった……でもな」


 その眼鏡の腕を折り畳み、指先で弄びながらキエラは微笑む。



「デイビットに会って思うたんや……うちのこの瞳は、意味があることかもしれへんって。うちは何らかの使命を、運命を持って生まれたのかもしれへんって、そう思ったんや」


「……どうして?」


「だって、デイビットも同じやったから」


 キエラはそう言って、そっと目を伏せた。


「デイビットが禁呪とされとる隷属魔法をなんで使えるんか…理由は、うちと同じや。単純に【生まれつき、使えたから】それだけ…明確な理由なんかあらへんのや。……なぁ、ルクレア様。そないな、生まれつきめったにない特異な能力を持った人間同士が、たまたま同室者になる確率なんてどんだけやと思う?どんだけ、奇跡的な数値やと思う?――だから、うちは思ったんや。うちとデイビットは何らかの宿命を持って生まれてきて、その目的を果たすために必然的に出会ったんやと、そう思ったんや」


 ――違う。


 そんなの、運命なんかじゃない。


 私は胸中で、キエラの言葉を否定する。


 だって、それは、この世界が、乙女ゲームの世界だからだ。

 乙女ゲームの製作者が、ストーリーに都合が良い様に作った、設定だからだ。そこに意味なんかない。

 キエラは、サポートキャラだ。好感度が分からなければ困るから、特殊な能力を設定しただけだ。

 デイビットに関しては、単に、そんなエンディングがあれば面白いとか、そのくらいの理由だろう。深い意味なんか、きっとない。

 運命なんて、そんな大したことでは、無い。


 そう、思う一方で、新たな疑問が脳内に湧き上がる。



 乙女ゲームの、世界。

 定められた設定。


 ――あぁ、でもそれは。


 それは、【運命】と、どこが違うのだろう?


 この世界をゲームとして体験したことがある私以外の、この世界を単純に現実だと、そう思って生きてきているキャラクター…否、人間にとっては。


「…ルクレア様は、どうしてデイビットが野心を抱くようになったか、知っとるか?」


 掛けられた予想外の問いかけに、私は黙って首を横に振る。

 何故かなんて、知らない。

 そんなこと、気にしたことも無かった。


 そんな私の態度に、キエラは喉を鳴らして笑った。


「一度聞いてみるとえぇで。…びっくりする程、くだらん理由やで」


「…くだらない?」


「あぁ、そうや。…うちにとっては、どうしようもなくアホらしいもんの為に、デイビットは必死で努力しとんのや。毎日毎日、飽きることなく」


 キエラがここまで笑う理由って一体…?

 疑問はむくむくと膨れ上がるものの、だけど何となくこの場では聞いていけない気がして、私はそのまま沈黙を貫いた。

 …今度デイビットに会ったら、聞いてみよう。


「うちは、デイビットがそないアホな理由の為に、どこまでやるんか知りたいねん。どこまでやって、どこまで上に上り詰めるのか、すぐ傍にいてこの眼で見届けたいんや。…そしてその野心を手助けすることこそが、うちが特異な瞳を持って生まれた意味やと思ってとる」


 キエラの瞳の輝きは、キエラの言葉と共に徐々にその輝きが薄れていった。

 キエラが再び眼鏡をかけた途端、その輝きは完全に収束し、再びその瞳の色は元々の色合いを取り戻していく。


「――それが、うちがデイビットに協力する理由や。納得してくれはった?」


 そう言って細められたキエラの目は、すっかり当初の榛色へと戻っていた。

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