最終章
そしてバタバタしているうちにお葬式も滞りなく、あっという間に終わった。
「恵利子さん、何から何までお世話になりました。本当にありがとうございます」
翔太は、深々とお辞儀をし、お礼を言う。
お通夜やお葬式に並ぶ人達には顔を見せず、裏で一睡もせず恵利子は動き回っていた。
疲れた顔すら一切見せず。
そんな恵利子を気遣って由香は
「恵利子さん、ちょっと休んだら」と言っても
「ありがと。でも大丈夫だから」ってにこっと笑い走り回っていた。
そんな恵利子を翔太は、痛々しくてたまらなかった。
「いいえ、当たり前のことですから。でも翔太君、これから大変ね」
「俺は大丈夫。でも恵利子さんが・・・」
「フフフ・・・・・私も大丈夫だから」久しぶりに二人笑った気がする。
「こっち帰ってきたら、うちに来てもいいよ。泊るとこぐらいあるから・・・ね」
父が亡くなり、翔太には帰る家、故郷もなくなってしまった。
お盆やお正月に帰る故郷も一緒になくなってしまった。
「ありがと、恵利子さん。友達のとこで何とかなると思うけどね」
「うん、そうだね」
そんな時、遠くから一人の女の人がお辞儀をし、ゆっくりと歩いてきた。
「あの、恵利子さんですね」
「は、はい・・・」
「私、和男の元妻です」
「あ、はい」
「この度は、いろいろありがとうございました」
「あ、いいえ・・・」
「俺、まだ後片付けあるから」って言い、翔太はその場を去った。
「ちょっと歩きません?」
「あ、はい」若々しくてきれいな人だなと恵利子は思った。
「息子さんたち、みんな素直でいい子ですね」
「ありがとう。翔太にこっち来ないって言ったんだけど、俺大丈夫だからってね。
たまに顔出すから心配しなくていいし、お母さんはいつまでもお母さんだからって」
「そうなんだ・・・」
「私、再婚の話きてて、正直悩んでたんだけど・・・やめた」
「え、どうして・・・・・」
「何か急に・・・つまんなくなってね」
微笑んで言う顔が生き生きしているように見えた。
「結婚って何なんかな?この歳になってもまだわからくてね」
「私もわかりません。でも私、和男さんと再婚しようと思ってました」
「知ってる。あなたなら幸せにできたのにね」
「私、和男さんと会えて幸せでした。幸せをもらったのは私のほうです」
「あの人、大変だったんだろうな。だから恵利子さんと会えたのかなって。
そういうふうに思えてね」澄み切った青い空が、とてもすがすがしい。
「あの~再婚のこと、子供たちは?」
「言ってない。言ったら、賛成するに決まってる。あの子たちはそういう子だから」
「・・・・・そうかもね」
「恵利子さんと会えて、お話できてよかった」
「私こそ・・・」
「じゃ、お元気で。ほんとにありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ、ありがとうございました」
帰って行く後ろ姿が、先ほどの生き生きしたような笑顔とは逆に、悲しく見えた。
人は、笑顔でごまかすことはできても、後ろ姿でごまかすことはできないのかもしれない。
ゆっくりと歩いて行くその先には、亮太と俊太が待っていた。
二人は、丁寧に恵利子に向かってお辞儀をする。
恵利子もまた、二人に向かって微笑んで丁寧に深くお辞儀をする。
帰っていく三人を見送りながら、ほんとに和男さん、死んじゃったんだね。と空を見上げる。
和男さん、みんな大丈夫だから。
ねぇ、みんな大丈夫だから安心してと言うように空を見つめていた。
まだ後片付けあるし戻らなきゃと思っていると、由香が走ってきていきなり抱きついた。
泣いている。恥ずかしいも何もなく思いっきり泣いている。
「どうしたの、由香さん」返事はなく、ただ泣いている。
「ダメよ、泣いちゃ」恵利子は肩を優しく叩きながら言った。
「恵利子さん・・・」
「やだ、由香さんったら」フフフって恵利子は微笑んでいた。
由香の泣き声は、さらに激しくなった。
「由香さん、ありがとう。由香さんのおかげで和男さんと会えたもんね」
「やだ、そんなのやだよ」化粧もくずれ顔はボロボロ、まるで子供のようだった。
「かわいい顔が、ほら」恵利子は、ぎゅっと抱きしめた。
「由香さん、和男さんまた言ってるよ。由香ってほんとバカだなって」
「恵利子さん、ごめんね」
「やだ、何で由香さんが謝んの。やっぱりバカだね」フフフ
「私、どうしたらいいか・・・」
「じゃ、このままお友達でいて。ね、いいでしょ」
「恵利子さん・・・」
恵利子も、由香のように思いっきり泣きたかった。
でもお葬式がすべて終わるまでは、涙一つみせず、笑顔でいると自分に誓った。
今の自分にできることは、笑顔でいること。
それが、和男さんのためだと思ったから。
お葬式が終わって何日かして、
遺骨をちょっと離れた父と母の眠るお墓に納めに行った。
もちろん、恵利子と翔太の二人だけで。
どう見ても母と息子。赤の他人だなんて誰が思うであろうか。
「終わってしまったね」手を合わせながら翔太は言った。
その時、涙がぽたっと落ちた。
終わるとはどういうことなのか。
親父が亡くなって悲しいのでなはい。
終われば、この後どうなるのか、わかっていたからである。
風もなく、線香の煙がゆっくりと真っ青な空に向かってまっすぐに上っていく。
その煙の先を見つめるように恵利子は言った。
「翔太君、お父さん好き?」
「え、まぁ~」
「そう、私も好きだったなぁ~」翔太は、涙目で笑っていた。
「俺、恵利子さんみたいな人と結婚したいなぁ~」
「あらまぁ~無理しなくてもいいよ」
「いや、無理にじゃない。ほんとにそう思うって」
「じゃ、その時は、せめて紹介だけはしてね」
「おぉ~。でもいるかな?いや、できるかな」
「翔太君なら大丈夫。お父さんいつも言ってたじゃない」
「あぁ~そればっかりだったけどな」
人は死んだら終りだと思っていた。
すべてなくなってしまうものだと思っていた。
でもそれは違った。
死んではじめて残していってくれるものもある。
死んではじめて与えてくれるものもある。死んだら終わりじゃない。
死んでからはじまるものもある。二人はそう思っていた。
「翔太君、明日帰るんだね」
「うん」
「じゃ、明日駅まで送っていくよ」
「悪いよ。最後まで・・・・・」
「いいから、遠慮しなくたって・・・ねぇ」
「うん、じゃ、そうしてもらおうかな」
「うん。ねぇ、腕くんでもいい?」
「あ、あぁ~」
「和男さんと同じ匂いがする」
恵利子は、翔太の左腕にしっかりしがみつき、肩に頬をよせて
「ありがとうね。翔太君」と言い、いつもの笑顔で翔太を見つめていた。
顔を赤らめている翔太が、あの頃の和男にそっくりだった。
「ねぇ、翔太君カレー食べない?」
「カレー?おぉ~いいねぇ。でも・・・」
「最後かもしれないし、作るね。和男さんも好きだったよねぇ~」
「親父も好きだったなぁ~。でも親父が初めて作ってくれたカレー、正直まずかったぜ」
「え、そうなの・・・フフフ」
「うん。でも一生懸命作ってくれてるのがわかるし、無理して全部食べちゃったけど」
「和男さん、何でも一生懸命だったもんねぇ~」
「考えてみればそうだったなぁ~」
「不器用で照れ屋だったしね」
「そう、そう。わかる?」二人は、歩きながら大声で笑っていた。
駅のホームには、翔太と恵利子の二人。楽しそうに笑っている。
就職に発つ日、見送りに来ていた親父が思い出され、恵利子の横に立っているようだ。
そして、「おぉ!」って手を上げているようだ。
ひきつった顔で。
定刻通りに列車は入って来る。
「翔太君、元気でね」
「うん、恵利子さんも元気で」
「う、・・・う、・・・うん」
もうこれで翔太とも会うこともないかもしれない。
そう思うとやっぱりさびしい。
「あ、そうだ。これよかったら食べてって」
いつかのように恵利子は、弁当を差し出した。
「えぇ、悪いね。ありがたく頂くよ」
「うん」
「恵利子さん、ほんとありがとう」
「うん。翔太君・・・がんばって」
「うん。じゃ・・・」
列車のドアが閉まり、翔太は見えなくなるまでお辞儀をしていた。
これですべて終わった。何もかもがすべて終わった。
これから、どうなるんだろう。どうしたらいいんだろう。
不安と寂しさが、一挙に恵利子を襲ってくる。
でも大丈夫。私は大丈夫。絶対泣かないし、大丈夫。
鼻をすすってそう思う恵利子の目は、今にも涙が溢れてきそうだった。
「わぁ~久しぶりだなぁ~」
帰り道、運転する恵利子の目には、真っ赤に燃えている夕陽が入って来た。
車を止め、外に出てしゃがみ込む。あまりの美しさに心が弱くなっていく。
夕陽がかすむ。かすんでよく見えない。
何だろう。何だろう。どうしたんだろう。
ボロボロ何かがこぼれ落ちてくる。次から次へとこぼれ落ちてくる。
体も震えてくる。声も震えて抑えきれなくなってくる。
そしてもう夕陽は見えない。
両手で顔を覆い、声を上げ泣いた。
どのくらい時間が立ったのだろうか。
夕陽はすでに沈み、空だけがまだ赤く燃えている。
和男がいつか言っていたように、海はほんとに涙をも飲んでくれるようだ。
水平線の向こうの雲が、バカだなって笑ってる和男に見える。
「バカはどっちだい。和男さんのバカヤロ~」泣きながら大声で叫ぶ恵利子。
「バカヤロ~」
「何で・・・何で・・・何で・・・」次第に声は小さくなっていく。
「私、どうしたらいいいの」
そして2年の月日がたち
「お母さん元気?」
「どうしたの、急に電話なんかよこして」
「ん、別に、今度のお盆帰るんだけど、紹介したい人いるんだけどなぁ~」
「えぇ~奈央に彼氏?」
「一緒に帰るからね」
「いいけど、どういう人なの?」
「まぁ、お盆のお楽しみってことでね、じゃあね」
「奈央・・・」
困った娘だなと思いながらも、もうそういう年頃になったんだねって、
静かに携帯を閉じた。
そう言えば翔太君どうしてるかな?
気にならないわけでもないが、お互い連絡はしなかった。
そのほうがよいかなと思って。
職場もみんないい人たちで、特に由香とは、一緒に食事したり買い物に行ったり、以前よりとても親しくお付き合いをさせてもらっている。
旦那の愚痴を聞くのもまた楽しかった。
一人暮らしは、ちょっとさびしいけどそんな顔も一切見せず、いつも笑顔を見せていた。
由香に、何でそういつも笑顔でいられるのかなって言われるくらいだった。
和男と過ごした1年ちょっと、それが今の恵利子を作って残していってくれたものかもしれない。だったら悲しい顔なんかしてられない。
全部思い出として過ぎ去ってしまい、新たに二人で作れる思い出はできなくなったけど、大事に心にしまっておこう。
そしていつでも好きな時に取り出せるように。
「由香、おはよう。今日も暑くなりそうだね」
「やだよもう~。あ、そうそう後でまた聞いてくれる」
「いいけど」と笑う恵利子に
「ありがとう、恵利子さん」由香は、両手を合わせ拝むように言った。
そしてお盆がやって来て、奈央が帰ってきた。
「ただいまぁ~」
奈央の以前と変わらぬ元気のいい声が聞こえ、恵利子は玄関に向かった。
「おかえ・・・」と言いかけ、その場に立ち尽くした。
「どうも、こんにちは」
「お母さん」奈央は、ぼうとしている恵利子の目の前でゆっくりと手を振っていた。
「あ、こ・・・こんにちは」
「お母さん、大丈夫?」
「え、えぇ~まぁ、入って」
二人は、お互い顔を見合わせ、ニコニコ笑いながら靴を脱ぎ、脱いだ靴を奈央がきちんと揃え、そして家の中へと入っていった。
「何か、飲み物でも用意するから座ってて」
「いいよ、お母さん私やるから」
奈央はそう言うと、自分で飲み物を取りに行き、「麦茶でいい?」
「いいよ」と言うより早く、グラス3つに麦茶を注いでいた。
そして改めて、一つテーブルに3人座った。
恵利子は、何も言い出せず困っているようだった。
いや、むしろドキドキしていた。
「お母さん、翔太君、知ってるでしょ」
「お久しぶりです。いろいろお世話になりまして、ありがとうございました」
「あぁ~お世話だなんて、元気だった?」
「はい、この通り元気でやってます」
「よかったね」
「はい、これもお母さんと奈央のお陰です」
「・・・・・」
「ねぇ、ねぇお母さん、私と翔太君結婚することにしたんだけど、いいよね、ねぇ?」
「えぇ?・・・お母さんは、別にかまわないけど、いいの翔太君、こんな娘で」
「こんな、奈央が好きなんです。僕頑張りますから、よろしくお願いします」
「こんなってないでしょ」
うれしそうに、奈央は翔太の顔を覗き込み、そして幸せそうに笑い言った。
恵利子が、何を思っていたのか、奈央も翔太もよくわかっていて、でもあえて口にはしなかった。
「翔太君、奈央のことよろしくね」
「はい、必ず幸せだって言えるよう頑張ります」
「お母さん、ありがとう」
ようやく、恵利子の顔にも本当の笑顔が戻り、三人で笑っていた。
そして
「お母さん、一緒に暮らそう」
「えぇ~・・・いいよ」
「翔太君もぜひそうしたいって言ってくれてるの」
「ん、三人で暮らしましょ、そうしましょ」
「お母さんは大丈夫、まだ一人でも十分暮らしていけるから、心配ないって」
「ん・・・実はね」と奈央は言いかけて、
「実は何?」
「実は、子供・・・できちゃったの、今3ヶ月なんだ」
奈央と翔太は急に、手を膝の上に乗せ、頭を下げた。
さすがに気まずかったのであろう。
ゆっくりと頭を上げ、そっと覗き込むように恵利子の顔を見つめていた。
「フフフ・・・仕方ないわね、フフフフ」
恵利子は、そんな二人を見つめ微笑んでいた。
「お母さん、ありがとう」
奈央の目には、涙が滲んでいるのがわかった。
「だから、子供の世話もしてもらいたいし、一緒に暮らそう。
私もがんばって働かなきゃと思ってるし・・・」
「お母さん、奈央の言うとおり三人で暮らしていただけませんか」
「お母さん、いいでしょ、一緒に暮らそう」
恵利子は、その時和男のことを思い出したのであろうか。
少し上を見つめ、二人には聞こえないように呟いていた。
「和男さん・・・・・」と。
「お母さん、翔太君泊っていっても・・・いいよね」
「当たり前でしょ、ねぇ~」
「ありがとうございます」数年ぶりにみる丁寧なお辞儀である。
「恵利子さん、あ、いやお母さん。
俺、お母さんみたいな人と結婚したいなって言ったの覚えてる?」
「えぇ~まぁ」
「そうなっちゃいました」エヘヘヘと照れて笑う翔太は、やはり和男と一緒だった。
「え、何それ?私知らない」
「奈央ちゃんはいいの」エヘヘヘ。恵利子もまた困った顔をして笑っていた。
「ご飯作るけど、何がいい?」
「カレー」翔太は、遠慮せず右手をあげて、大声で言った。
「えぇ~」奈央は、何それっていう顔で翔太を見る。
「ダメかな・・・」
「じゃ、翔太君の希望でカレーね」
「おっしゃあ~」ガッツポーズをする翔太をどうも不思議そうに奈央は見つめる。
「奈央ちゃんも手伝ったら。家庭の味は引き継がなくっちゃね」翔太はニコニコ言う。
「えぇ~何か面倒くさいけど、どうしたの?でも、まぁ仕方ないか」
数年ぶりに食べる恵利子のカレー。
すごい食べっぷりでおかわりをする翔太を、奈央は首をかしげて見てる。
「ん~美味い」
「どうしたの?」奈央は、食べる手を止めて言う。
「奈央ちゃんの手伝ったカレー、ほんと美味いなって」
「そりゃぁ~そうだけど・・・」どうしても笑えない奈央。
恵利子は、今にも吹き出しそうに笑っている。
そんなお母さんをもまた、どうしたのって不思議そうに見ている奈央。
このカレーは二人だけの秘密の味である。
そう言えば、和男さんも初めて家に来た時は、カレーだったなと恵利子は思い出す。
食べっぷりもまったく同じで、とうとう我慢できずに吹き出して笑ってしまった。
翔太と奈央はびっくりし顔を見合わせる。
何でもないと言うように、恵利子は手を振りながらまだ笑い続けていた。
そして今日は、二人の結婚式である。
秋も終りに近づいたというのに、初夏のようななんとさわやかな日であろう。
青い空に、雲ひとつなく、もみじがあの時の夕陽のように赤く燃えている。
真っ白なウェディングドレスに包まれた奈央は、とてもきれいだ。
翔太は、和男に似たのだろうか。照れくさそうに微笑んでいる姿がとてもかわいい。
小さな結婚式であるが、その席には久しぶりに会う、次男亮太と三男俊太の姿もある。
翔太の幸せを心の底から祝福し、暖かい拍手を送っていた。
そんな二人に翔太は、ありがとうって微笑み親指を立て、グーサインを送っていた。
そんな二人を恵利子は、涙をこらえながらいつもの笑顔で見送っていた。
「恵利子さん、おめでとう。でも何か不思議ね」
結婚式に出席してくれた由香は、目に涙を浮かべながら言った。
本当なら、和男さんと恵利子さんの式に出席しているはずだったのにと。
「由香さん、ありがとう」
「でも、もし恵利子さんと和男さんが結婚してたら、二人はどうなるのかね」
「どうなるんだろうね」そう言う二人は、なぜか笑えた。
「生きてればいいこといっぱいあるね。ぜ~んぶ由香さんのおかげだよ」
そう、人生は思うようにいかないけれど、その分あとで必ずとんでもない、いいことが起きるのかもしれないね。恵利子はそう思っていた。
「恵利子さんったらやだぁ~。あぁ~私もいつかおばあちゃんになっちゃうのかなぁ~」
「そうだね。お互い、いいおばあちゃんになれるかな・・・フフフ」
こっちを見た二人に由香は、周りの目も気にせず大きく手を振っていた。
この結婚式には、恵利子が一人ぽつんと座ることがないように、両親の席は特に設けず、
友達の由香と隣の席である。もちろん和男の写真などもどこにもない。
ただ、誰にもわからないように恵利子は、胸に1枚入れておいたのである。
最後に夕陽をバックに撮った二人の写真を。
せめて二人の幸せな顔を見せてあげることができたらと。
結婚式も終りに近づき、翔太と奈央の二人は、ゆっくりと恵利子のいるところに向かう。
由香に背中を叩かれ、静かに立ちあがる恵利子。
今にも大声で泣き出しそうに、目にいっぱい涙をためた奈央が、大きなそしてきれいな花束を渡す。
「お母さん、ありがとう」と。奈央はこらえきれず声を上げて泣いてしまった。
「翔太君、奈央、ありがとう」と言う恵利子の目からも、一粒二粒大きな滴が流れ落ちた。
隣の由香は、ハンカチを目に当て号泣しているようだ。
恵利子は、左胸にそっと手を当てた。
胸にしまっている写真に「見てる?」って言うかのように。
友達に胴上げをされている翔太に、由香と恵利子は笑顔で大きな拍手を送っていた。
その時、亮太と俊太が恵利子に向かって歩いてきた。
「お久しぶりです。またお会いすることができました」ニコニコ亮太は言う。
「お元気でしたか?」続いて俊太は言う。
「これからもよろしくお願いします」二人は、以前のように深く丁寧にお辞儀をする。
「私こそ、よろしくね。亮太君、俊太君、元気だった?」
「えぇ、何とか元気でやってます」
「そう、よかったね。今度は二人の番ね」
「いやぁ~まだまだ」
翔太の母、和男の元妻が、遠くから恵利子にお辞儀をしている。
恵利子もまた、丁寧に深くお辞儀をする。
「じゃ、また」
「うん。元気でね」二人は、またお辞儀をし、母のところへ向かって行った。
「何か微妙だね、恵利子さん」
「え?何が?」
「よくわかんないけど・・・」
「そう」
「ねぇ、恵利子さんこの後何かある?」
「別に何もないけど」
「じゃ、二人で飲みに行こうっか」
「うん。いいねぇ~行こう」
そして約1年後
今度は、由香の娘の結婚式である。
「恵利子さん、久しぶり。遠くからわざわざごめんね、ありがとう。元気だった?」
「うん元気。由香さんも元気そうだね」
「何とかね。うちの人、娘が先にできちゃったんで、まだ怒ってんの」
「そうなの。うちもそうだったけど」
「まぁ、私たちもそうだったのにね」
「これで私も、本当におばあちゃんになっちゃうんだなぁ~。あっという間だね」
「ほんと、あっという間だね。何でこんなに早いんかね」
でも、人生ってうまく流れてる。
これからもずうっとこうして流れていくんだね。
キャンドルサービスをしている二人を見て、すでに号泣している由香の旦那に、由香はハンカチを手渡ししている。とても微笑ましい光景を見ながら恵利子は思っていた。
結婚式も盛大に無事終わった。
由香の旦那は、かわいいくらいにまだ泣いている。
「恵利子さん、今日うちに泊っていって」由香は言う。
「え、いいよ」
「泊るとこまだ決まってないんでしょ。ね、また飲もう。
いっぱい話したいことあるし、ね、いいよね」
「ありがとう、由香さん。じゃ、お言葉に甘えて」
「うん。じゃ、あとで」
由香との時間はとても楽しかった。
しっかり主婦している姿を見て恵利子もうれしくなっってくる。
愚痴は、相変わらず旦那のことが多かったけど、それもまた愛しているのかなと微笑ましく感じた。
「由香さん、ありがとう」
「うん。じゃ、また。元気でね」
恵利子は、ある場所へ寄ってから帰ろうと決めていた。
翔太と二人で来た時と同じように、空は真っ青である。
あの日と同じように、線香の煙もその空に向かってまっすぐゆっくり上っていく。
和男の好きな、下から覗き込むような笑顔で、恵利子はその煙をたどっていた。
「和男さん、不思議ね。人生って」
恵利子は、和男のお墓の前で静かに手を合わせていた。
短かったけど、とても楽しかったあの頃が思い出される。
辛くて、どうしたらいいか。これからどうなっていくんだろうか。
どう生きていったらいいのかと不安で仕方なかったけど、人生って不思議だ。
ほんとにどうにかなるもんだね。
辛かったことが、生きる励ましになっていく。
「おかげさまで、今とても幸せよ。・・・じゃ、帰るね。また来るからね」
恵利子は、すうっと立ちお墓に小さく手を振った。
東京のとある小さなアパート。
いつもながら朝は、バタバタして慌ただしい。
その慌ただしさもまた、恵利子は好きだった。
「あぁ~遅れる。俺先に行ってくるね」
「あ、待って。私も早くしないと遅刻しちゃうよ~、ちょっと待ってぇ~
お母さん、じゃ、行ってくるね、理恵頼むね」
「二人とも、気をつけていってらっしゃい」
「は~い。行ってきま~す」
「あ、奈央。ゴミ、ゴミ。ゴミ出さなきゃ」
「あぁ~もう」
「いいよ。私出しておくから」
「お母さん、悪いね」
慌てて靴を履きながら言う奈央の傍で、翔太はごめんと頭をかいている。
二人はもう一度「行ってきま~す」と言い、走るように出て行った。
「さて、理恵ちゃんにミルクやらないとね」
恵利子は、ミルクを与えながら、夕陽をバックに和男と二人一緒に写っている写真立てを見て、いつもの変わらぬ笑顔で言った。
「また、一緒になれたね、幸せなのは私のほうだよ。これからもよろしくね。
和男さんとの出会いは、神様が私たちにくれた最後の贈り物だったのかもしれませんね。それも最高の。和男さん、ありがとう」
最後まで読んでくれてありがとうございます。
文章力がないのはわかってますけど、こればかりはどうもなりませんね(笑)
また 誤字脱字も多いようですみません。
夕陽が何度か出てきますけど
私自身、夕陽をみつめるのが好きでいつも癒されてます。
辛い時も 楽しい時も 夕陽の持つ力って不思議です。
何もないからこそ 素敵な海と夕陽がある。
そんな深浦町を書いてみました。