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始めに
まず初めに断りを入れさせてもらいたい。
これより私が語る物語は私自身の物語ではなく、彼女の物語である。
物語といっても断じておとぎ話ではなく、子供染みた夢想ではない。列記とした事実であり、過去であるのだ。
歴史という大河に埋もれていたはずの出来事。知られるはずのなかった人物。されど、確かに存在していた想い。
最初は自分の物語だと思っていた。けれど蓋を開けてみれば、私の役柄などなんてことのない、ただの傍観者でしかなかった。
舞台に上がることも許されぬ、過去という分厚い壁を超えることが出来なかった間抜けな道化。それがこの物語にて私を表す言葉である。
それでは語ろう。彼女の物語を。見届けた者の責務として。
そう、あれはまだ名もなき身だった頃。
割れる硝子の音から、全ては始まったのだ。