もどかしさ
「私は、死んだんだ・・・」
自分だけに聞こえる声でつぶやく。
魂なのに喋れるんだと頭の隅で思った。
「これから、あの世に行って天国か地獄のどちらに行くのかでも決めるのかな。舌抜かれるのかな」
ぶつぶつそんなことをつぶやいていると、
「お別れは済みましたか?」
突然後ろから声を掛けられた。
驚くこともなく、ただ涙を流している顔を背後に向けた。
そこには淡い光の玉が浮かんでいた。
「もう、行きますか?」
口のない光の玉に訊かれる。
どこに行くかは言われなくても分かっている。
でもすぐ行くのは名残惜しくて、
「もう少し待ってください。すぐ行くので」
と光の玉に言った。
何も言わないのを頷いたと解釈して両親と佳奈へと近づいた。
3人は私の死体の方を向いて泣いている。
私はそんな3人を一気に抱え込むように腕を回す。
もちろん3人は気付かない。
それが一番寂しかったけど、透けることなく3人に触れることができたのがせめてもの救いだった。
「ごめんなさい、お母さん、お父さん最後まで親不孝な私で。ごめんなさい、佳奈。ずっと一緒にいれなくて」
言ってて涙が出てきた。
つい最近まで反抗期中だった私は、反抗期から抜け、親孝行しようと決めて間もなく死んでしまった。最後まで親不孝な私で終わってしまった。
ずっと親友でいようね。ずっと一緒にいようねと誓った佳奈を裏切ってしまった。佳奈を一人残してしまった。
深い深い罪悪感とすぐそばにいて、言いたいことがたくさんあるのに気付いてもらえないもどかしさに身を震わせながら、私は泣きながら聞こえない言葉を紡ぐ。
「ごめんなさい、でも、大好きだったよ。みんなのこと、ちゃんと見守っているね」
そう言葉を残し、立ち去ろうとした時だった。
「私も、美月のこと忘れない。忘れられない!忘れられるわけないじゃん!馬鹿!死んだからって、私が責めると思ったの!?」
「親不幸だなんて何言ってるの!あなたが生きてくれただけでお母さん、すごく幸せだった!」
「結婚させてやりたかった、幸せな家庭を築かせてやりたかった、一番大事な娘になにもしてあげられなくてすまなかった。お父さんは、お前が大好きだ」
3人が次々に私の方を見ながら言葉を発した