第四章、『純白の魔女 ~ロリ魂克服四連荒行祭~』
「――こ、ここは誰、私はドコ!?」
純白の世界に、自分を見失っている感じの叫びが響き渡る。
白に映える濃紺のメイド服――エルフィさん/その周囲三百六十度――雪、雪、雪/吹雪。
――……えっと、たしか転送魔法でパッと黒魔女のトコに送ってもらえる事になって……そんで、転送の魔法陣越えたら雪国でした……って、なにコレ? どういう状況!?
「――ここは北の国境。わたくしこと、白き魔女『アインツ』の家ですよ」
背後からかけられた声に振り向くエルフィ/目標確認――大きく目を見開いて思考停止。
その視線の先には――
「生首ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
――肌色の『顔』だけが浮かんでいた。
「いや。エルフィ、よく見ろ。服が白くて保護色になってるだけだ」
「え、王子? どこ、どこ? 声はせれども姿は見えず!?」
「下だよ、下」
指示通り下を向けば、お尻の下にゼクスの姿。
状況は解らないが、愛しい人が側にいるという事に安心感を覚える恋する乙女。
その安心感を持続させるために、そのまま尻に敷き続ける恋する乙女(無意識)。
そして、心を落ち着け、改めて生首を見てみれば――そこに居たのは純白の服を着た女性。
外見年齢は二十代前半/長い銀髪/金の瞳/落ち着いた雰囲気/余裕たっぷりな表情/服装は……何故か純白のミニスカサンタ/白タイツ/完全な保護色。
――……なんで上は長袖なのに、ミニスカなの? 頭おかしいの?
思ったことを口には出さず、白いキチ○イを睨むように見る。
実際に憎いのである。白き魔女・アインツ――彼女こそ元凶/ゼクスにロリコンの祝福を与えた忌むべき『敵』なのだから。
そんな憎むべき魔女の中の魔女は――
「……アイちゃん、生首じゃないもん。酷いよ、助けてあげようと思ったのに~」
――口を尖らせて、雪に『の』の字を書いていた。
善意で助けようとした相手に酷いことを言われて、拗ねてしまった見た目二十代。
その姿がとても哀れで……ゼクスとエルフィは素直に謝りました。
白き魔女アインツの家。
そこは白かった。凄く白かった。飾り気のないシンプルな作りで外壁まで白いため、雪景色に溶け込んじゃって、遠目には絶対発見不可能って確信できるぐらい白かった。
そして、その内部は……またしてもゴミ屋敷。
――魔女って人種は整理整頓ができないのであろうか?
頭の中で文句を言いつつも、再び掃除に勤しむ綺麗好き。でも、女性は可愛い方が好き。
そんなゼクスを眺めながら職業・メイドは白魔女に尋ねる。
「……フュンフは私達を黒き魔女のところに転送してくれるって行ってたんだけど、なんでこんなトコに跳ばされちゃったの? アンタ解る?」
「こんなトコで悪かったですね! イーだ!」
子供っぽく歯を見せて『いー』って顔をする白魔女さん。
大人っぽい外見なのに、子供っぽい仕草……正直似合っていなかった。
エルフィが何か痛いモノを見るような顔で、しばらくその顔を見ていたら……「ゴホン」と咳払い一つして状態復帰。先ほどまでの表情が嘘のような凛々しい顔で、説明開始。
「それはたぶん、『リバウンド・ウォール』のせいでしょうね。この国の守護者である私達魔女は外敵に狙われているから、遠距離からの攻撃とかへの備えがあるの。ちなみに私の家の半径十メートルには動くモノ全てを『落とす』魔法がかけてあって……」
「…………」
説明が長くて『この国~』あたりからエルフィは聞くのをやめた。ほぼ最初からである。
白魔女さん、そんな彼女の様子に気づかないまま説明続行。
「フィアさんはたぶん、『反射』魔法をかけているのね……転送されたアナタ達はその反射壁にぶつかって弾かれて、ここに跳んできたって事でしょう。本来の反射魔法なら、フュンフちゃんのところへ戻るはずだけど、フィアさんは私のことを嫌ってるから、反射した対象が私の家へ跳ばされるように魔法の術式を調整して……完全に嫌がらせね。まったく、困った娘」
「……………………」
「そうそう、フィアさんと言えば――」
困った。おしゃべりが止まらない。
考えてみれば、こんな雪しか無い場所で結界の維持をしなければならないお仕事――人と喋ることに餓えているのだろう。だから、やめられない、とまらない~♪ って感じなのだ。
……そして、三十分後。
掃除を終わらせたゼクスが見たものは――相槌をうつように船をこいでいたエルフィと、それにまったく気づかず、ひたすらお喋りを続けている白魔女の姿だった。
「…………とりあえず、お茶でも用意するか」
……ワンパターンだが困ったときはお茶でも飲んで落ち着くに限る。
テーブルを三人で囲み、ゼクスの入れたお茶を飲んでホッと一息つく女性陣。
今回のお茶は身体を温める効果のある『生姜茶』。お気遣い紳士の本領発揮なチョイス。
無言でお茶をすする三人。ポカポカ温まって、ほんわか気分。
そんな穏やかな空気を壊すように――
「ゼクスは私のこと恨んでますか?」
――尋ねる、白魔女。
その顔は、感情の読めない無表情。
哀しみも後悔も見えない、反省しているかどうかも解らない顔。
「いや、別に」
その言葉にゼクスは軽く答える。
心底『なんでもないよ~』と言うように、むしろ満面の笑みを浮かべて、言う。
「貴方のおかげで余は知ることが出来た――幼女はサイコーだ、と!」
エルフィはなんとか堪えた。
耐えた! 我慢した! でも泣きそうだった!!
そして、白魔女はその顔に後悔の色を浮かべ、頭を垂れた。
「…………………………………………ごめんなさい」
「謝ってすむと思ったら世話ないんじゃ、ボケェ!」
エルフィの怒り爆発なちゃぶ台返し炸裂!!
下手な謝罪は人の神経を逆なでするので止めましょう。でも、謝らないのはもっとダメ。どうしたらいいのかと聞かれたら『素直に怒られましょう』としか言えないから困る。
テーブルだけでは飽き足らず、そのまま手当たり次第に暴れてストレス発散しようとする狂戦士エルフィ/非は自分にあるため、力尽くで止めるのをためらう白魔女/それでも、大切な我が家を守るため――考えて、考えて、考えた結果、一つの方法を思いつく。
――…………そうだ! 罪は償えばいい。相手から罰を与えられる前に、自分から進んで、自分自身で考えた罰を実行することで!
別の言い方をするなら『やられる前にやれ!』だった。
思いついたら即実行。覚悟を決め、ゼクスを指さし――
「――わかりました。こうなったら、私が責任とってゼクスのロリコンを治してみせます!」
「ホント!? ホントに王子のロリコンが治るの!!」
暴走状態から一転、素直に喜ぶエルフィ。
素直と言うよりむしろ『藁をも掴む心境』かもしれないが、見た感じは同じ。
「いや、余は別に困ってないから、別にいいヨ」
――祝福の効果は無効化できないとフュンフ殿は言っていた。なら、おそらく、性格を矯正するような行為をすることで『治す』と言っているのだろうな……暴力か、薬物か、それとも暗示か……どれをとっても、ろくでもなさそうだ。
ゼクス、白魔女の言葉を冷静に分析した結果――申し出拒絶/至極真っ当な判断。
「オ・ウ・ジ~、今、何テ言ッタノ~?」
「いやっほう! 余も困ってたから、アインツ殿、よろしくお願いプリーズ!」
だが、一瞬で意見を翻す。
女の子に脅されて情けないと言うなかれ。
このまま拒絶し続けたら、彼女は暴力に訴えてくる。それでも拒絶し続けたら……泣くだろう。そして、女性に泣いて頼まれたらゼクスは拒絶できない。だったら殴られる前にいうこと聞いた方がいい、という高度な判断なのである。
「うん。このアイちゃんに任せてください」
自分の事を『アイちゃん』と呼ぶ人間を信用していいのか、二人は顔を見合わせて悩んだ。
……白魔女の顔が真面目そのものだったからこそ、深く悩んだ。
「じゃあ――『ロリ魂克服四連荒行祭』を始めましょう!」
「ろ、ロリ魂克服四連荒行祭……だと……!?」
「知ってるの、王子?」
「いや。ただ、ろくでもなさそうな名前だと……」
「……うん。それは同感」
同感してくれるのに、『やめよう』とは言ってくれないエルフィさんに驚愕。
白魔女はそんなゼクス達の様子に気づかず、隣の部屋へ移動。二人も続く――
「――うわ~! なに、この『変』な部屋」
その部屋は、とにかく広大だった。
あきらかに家より大きい空間/色は真っ白/室内はポカポカ温かい――床暖房?
――気がおかしくなりそうな部屋だな。
それがゼクスの正直な感想。でも、お気遣い紳士なので口には出しません。
「この部屋はね……ほら、ここは外があんなでしょ? いろいろ遊んだり、実験したり、遊んだりする為には室内のほうが良いと思って、『空間湾曲』魔法で作ったのよ」
二回言うほど遊ぶ気満々だった。
「……だけどね、最初に使ってみて気がついたの。こんな広い空間で一人で遊ぶとね……凄く寂しいの。部屋が広いぶん、なんだかよけいに。それにね、床下に温泉引いて床暖房しているのに、なんだか凄く寒いの……なんでかな? なんでなんだろうね?」
「「…………」」
ゼクス達はなんだか泣きそうになった。
だから、かなり不安だけど、今回だけはこの魔女に最後まで付きあおうと決意した。
「では、ロリ魂克服四連荒行祭開始ってことで~、第一弾は――」
ドンドンドン、パフパフ♪
「――『演劇』よ!」
じゃじゃーん♪
自分で音楽を奏でながら、発表する白魔女さん。
なんか、始まる前から耐久度がガリガリ削れていく感覚を味わうゼクス&エルフィ。
「……なんで、ロリコン治すのに演劇なの?」
「役者というのは、役になりきるあまり『恋人役』の女性といい雰囲気になって結婚までいくこともあると聞きました――だったら、ゼクスに純愛ラブストーリーの主人公をやってもらって、その役になりきってもらえばロリコンを克服できるかもしれない!」
「「かもしれない!?」」
「あ、これ台本です。私が書いたピュア・ラブストーリー。五千人が泣いた傑作よ!」
五千人て微妙だな~、とか思いつつ、その台本を受け取る二人。
この時点で『とりあえず、期待はしないけどやるだけやってみよう』と達観しているゼクスとエルフィです。……まあ、演劇うんぬんの理屈はそれなりに納得したんだけどネ☆
セリフを覚える時間がもったいないので、台本片手に――演劇開始。
○アイちゃんの純愛シナリオ――『森の中で見つけたアイ』
「私、先輩のことが……好き、です……」
ゼクスの母校の制服――ブレザーに身を包んだエルフィが、ゼクスに告白する。
目を閉じ、顔を真っ赤にし、恥ずかしがっていることを演出/手はスカートの上、握り締めて勇気を振り絞っていることをアピール/瞳をうるませ上目づかい/返事を聞くことを怖がっている仕草――その全てが完璧だった。完璧なヒロインだった。
だが、相手役であるゼクスの胸中を占めていたのは……どうしようもない違和感。
「……なんでエルフィが後輩役なんだ?」
自分より歳上なエルフィが、年下役。
幼馴染のお姉ちゃんが年下役やっても違和感しかない。むしろ痛い!
「ゼクスが、年下好き、だからですよ」
「……違う。余は年下が好きなのではなく、幼女が好きなのだ!」
一喝――そこは譲れない一線らしい。
年下好きだったら、年齢が上がればストライクゾーンも広がるが、彼のストライクゾーンは変わらない! 変える気もない! むしろ狭めてやろうか? なんだってー!? なのである。
「ちなみにアイちゃんはゼクスの彼女役☆」
ゼクスの抗議、まさかの完全スルー。
ビックリしつつも、ソレ以上にビックリしたので尋ねる。
「え、余、もう彼女いる設定なのか!?」
「ここから、ゼクスが二股かけて三角関係の修羅場になるってシナリオなのです」
まさかの展開に驚愕するゼクス。
台本を速読――以下はゼクスが脳内でまとめた『あらすじ』です。
『後輩Lちゃんに告白されたゼクス。だが彼には既にIちゃんという彼女がいた。ゼクスを諦め切れないLちゃんは街のならず者を使ってIちゃんを襲わせ、陵辱した挙句に殺害。遺体を深い森の奥へ捨ててしまう。しかし、調子にのったならず者にLちゃんもレイプされ、妊娠してしまう。妊娠に気づいたLちゃんは強引にゼクスと関係を結び、ゼクスの子供だと言いはって結婚。しかし、産まれた子供の血液型で真実発覚。ゼクスはIちゃんを追って深い森の中に消えるのであった。体力が尽き倒れるゼクス。その倒れた地面の下にはIちゃんの……完』
――……ああ。タイトルの『森の中で見つけた』って言うのは、そういう意味なんだな。納得、納得………………………………………………………………………って、ダメだろ、これ?
「………………………………………………………………………………………………純愛?」
口から出た言葉はオブラートに包みました。どこまでもお気遣い紳士です。
「最後に恋人を追って逝くあたり、感動モノだよね」
自信満々に、自分の作品を語る白魔女。
エルフィは微妙な顔――『たぶん五千人は別の意味で泣いたんだろ~な~』って心境。
「……王子、こんなコト言ってますが」
「…………幼女と戯れたい」
遠い目をしたゼクス――その瞳には、まだ見ぬ無垢な幼女が写っているのかもしれない。
ドロドロした関係とか、修羅場が大っキライな成人男子です。
夢は無垢な少女を自分色に染め上げることな成人男子なのです。
「思いっきり逆効果じゃない!!」
「……おっかしいな~」
ゼクスのロリ魂力一〇〇(真性)→一五〇(神性)に増加。
「じゃあ、次は『赤ちゃんプレイ』でいきましょう!」
「「ちょっと待てっ!?」」
白魔女、いきなり真顔でオカシイ事言い出しました。
「赤ちゃんからやり直してロリコン克服よ!」
「現在の余は全否定!?」
驚愕だった。さっきから驚愕してばっかりな気がするのも驚愕だった。
そして、そんな驚愕するゼクスをまたしても完全スルーして事態は進行。悪化とも言う。
「そういう訳なので――『麻痺』魔法! アーンド、『衣装替え』魔法発動!!」
声と同時に――ゼクスの首周辺に小さな魔方陣/首から下の感覚消失/麻痺状態/倒れるゼクス/その周囲を取り囲むように魔方陣展開/衣服――素材分解/変異結合――ベビー服(大人用)/下着は布のおむつ。
「お、王子が目も当てられない痛ましい姿に!?」
「……ば《み》、ばぶぶぶぶぶ《みないでくれ》~」
呼吸はかろうじてできる、が喉も麻痺状態なので声がうまく出せないゼクス。
本気で泣きたくなったが、この状態で泣いたらまんま赤ちゃんなので我慢。
「ちょっと、いくらなんでも――」
「配役は、エルフィがお母さん役。おっぱいあげたり、おむつ替えたりしていいですよ☆」
「――任務了解」
まさかの裏切り御免である。
親しい人の裏切り/身動きのとれない身体/無残な姿の自分――ゼクスは観念した/涙も出ない/白い天井のシミを数えることにする――ひと~つ、ふた~つ……。
「アイちゃんはお父さんの愛人役! 押しかけて、子育てしている奥さんと言い争うの☆」
「ばぶぶぶぶ《修羅の家か》っ!?」
あまりのバカ設定に現実逃避より帰還。
……現実よ、余は帰ってきた。帰ってきたくなかったけど!
赤ちゃんプレイ――実況は割愛!(ちょっと悪ノリしすぎてお見せできません)
「……まさか、この歳になっておむつ替えされて授乳体験させられるとは……死にたい」
ゼクス、瞳が虚ろ――世に言うレイプ目というやつである。
「…………死にたいのはコッチですよ。恥ずかしくて死にたい」
エルフィも同じ瞳。
調子にのった挙句、ナチュラルハイになって想い人に乳を吸わせた女。
時間が経ったら、自分の行いを恥じてこの状態である。加害者なのに被害者面してますよ。
「で、王子、ロリコン治りました?」
「……いや、特に変化はないな。それでも、あえて言うなら……母親というのも良いものかもしれない、と気づいた」
「あえて言うな――――――――――――――――――――――――――――――――っ!!」
ゼクス、マザコンへの道を開眼。
目指す理想の女性はロリコンとマザコンを異なる性癖を融和させた存在。
「……母性に溢れる幼女……見える、見せるぞ! 余の理想の新境地――『幼女妊婦』!」
「う~、う~、う~っ!!」
「…………あらら~」
遠い目をしたゼクス――その瞳には、目指す理想の果てが写っているのである。
そんな犯罪まっしぐらなゼクスを、泣きながら『ポカポカ』叩くエルフィ。
……さすがの白魔女もちょっと後悔した。
ゼクスのロリ魂力一五〇から変化なし。マザ魂力〇→二〇(覚醒)へ増加。
「……アイちゃん、反省しました」
肩を落とし『シュン』とする白魔女。
ロリ魂克服四連荒行祭も半分が経過し、治るどころかパワーアップしてしまったゼクス。大失敗である。慰める気も起こらない。むしろ罵倒したい気持ちでいっぱいなエルフィだった。
「やはり、搦手はダメですね。もっと直接的に大人の女性の良さを伝えるためには……シンプル・イズ・ベスト! エロエロ祭り開催です!!」
「「…………」」
弱気状態から奇跡の復活――まさかのポジティブ・シンキング☆
ひたすら前へ進むことしか知らない白魔女に二人は言葉も出ねえ。
「……三人しかいないのに祭なの?」
「つまり3(ピー)ってやつ……だ、な……」
ゼクス、その発言の直後――逃走/追いかける魔女&メイド/気分は獅子に追われる兎。
エロエロ祭りではなく陵辱祭、開催☆
……三十分経過。
「……………………………………ヘタクソ」
「「が~ん!!」」
ゼクス、半裸になって触れてくる女性二人に冷たく一言――ショックを受ける二人/行動は積極的でも未経験者/エルフィ、王子一筋二十数年/アインツ、寂しい千年/そんなわけで双方ともに純潔の乙女/それに対しゼクスは幼少時から経験豊富――その結果である。
「愛撫というのは――こうやるのだ!」
――いま、この手に封印されたケダモノを解き放つ!
過去、呪いにあてられゼクスに挑んできた何十、何百、何千という女性との戦いで鍛えあげられたセイギの業『艶技・ゴットハンド』開放。その一端を幼馴染メイドと白魔女へ。
ゼクスの逆襲――開始/そして五十三秒後――
「……あ、……や、やら~。もう、やら~」
「らめなの、もうアイちゃんらめになっちゃうの~」
――終戦。
そこには犬のように四つん這いになって『ピクピク』悶える牝犬二匹――小刻みに震え、ろれつが回らない敗北者と、仁王立ちしてその二人を絶対零度の瞳で見下ろす勝者の姿。
「ほんの少し触れただけでコレか……これだから女ってヤツは……」
その二人の姿に失望の言葉を漏らすゼクス。
過去の経験で『女』に絶望して『幼女』に走った漢に、エロエロ祭は完全に逆効果だった。
「……ああ、解ってるさ。お前達はそれでもいい。常人ならば打てば響く完成された楽器を求める。それが当たり前で常識なのだから。だが、真なる猛者はあえて未熟なエモノを求め、自らの手で高みへと導くモノなのだ……そう、自分の手で最高の相棒を創り上げる。それこそが余の目指すべき、進むべき道! 具体的に言うと、与えられた快感に『わたしどうなっちゃたの? 怖いよぅ』と戸惑いながらも流されていく姿が最高!! ああ、そうだ。何も知らない乙女に自分を刻み込む――それこそが漢の本懐。そう思うだろう、全世界の漢達!」
辺境の雪国で性癖を叫んだ一匹のケダモノ。
叫び終わったその顔には後悔など無く、ひたすら爽やかだった。白い歯キラーン☆
ゼクス、ロリ魂力一五〇→二〇〇(超神性・閃光人)へ進化。マザ魂力二〇(覚醒)。
「まだです。まだ終わるわけにはいきません!」
「ええ。私たちの戦いは、まだまだ始まったばかりなんだから!!」
「まだ懲りてない……だと……!?」
……どこまでも驚かせてくれる。
二人でグチョグチョになった下着を交換しに隣室に消え、再び戻ってきた時には復活していました。でも、ゼクスを見ると一瞬『ビクっ』と怯えたような表情になるので完全復活とはいかなかった様子。むしろその反応にゼクスのほうがちょっと後悔。
「ろ、ロリ魂克服四連荒行祭、最後のひとつ! 『○○プレイ』――○○の中にはお好みの職業を入れてください、よ!」
最後の最後に、ま~た微妙なお題である。
ゼクス、もう『毒を食らわば皿まで』の心境で深く、深くため息。
「い、いままでのはアイちゃんの考えを一方的に押し付けるだけでしたけど、最後の一つ違います。コレは対象者の趣味も反映させるという……まさにコレで駄目ならお手上げな背水の陣なのです! 私達は崖っぷち! 大丈夫、私がゼクスを真人間にしてあげますから! 私、頑張りますから! ……み、見捨てないでくださいぃ~」
ため息をつくゼクスにすがりつき、必死に説明する白魔女さん。
涙目で必死に懇願――女の勘でピンときて不機嫌になるエルフィ/つまり、さっきのアレで白魔女も堕ちたのです/呪いもあるし、当然の結末。
「で、ゼクス……ゼクス様が性欲そそられる職業ってなんですか?」
「え、メイド」
「なにソレ――――――――――――っ!?」
その素の返事に職業・メイドが叫んだ。
「メイドは良いものだ――王に仕える騎士の如き忠誠。思わず見惚れる優雅な仕草。主をサポートする高い知性。無限のご奉仕精神。その全てが余の心を魅了する。正直、好きです」
「つ・ま・り、『主君を殴る』、『ガサツ』、『バカ』、『奉仕ナニソレ食べれるの?』な私はメイド失格、アウトオブ眼中って言いたいんですか、オ・ウ・ジ・サ・マ」
「……エルフィ、それは言いがかりだ」
目を逸らすゼクス――エルフィの眼力から逃げるための行為なのだが、エルフィはそれを肯定と受け取って『ガ~ン』と涙目。勘違いのすれ違い。人と人が分かり合うって難しい。
「じゃあ配役は――ご主人様がゼクス様。メイドは本職のエルフィさん。演出兼監督が私で」
そんな微妙な空気を、完全無視して白魔女は続ける。
指パッチン――部屋の中央に舞台装置一式出現/テーブル、イス、ティーセット一式――魔法で創った訳ではなく、隣の部屋から転送してきたモノ/ティーセットがゼクスの私物。
「粗相をしたメイドにご主人様のお仕置きプレイ――スタート!」
これから何をすればいいのか、よく解るセリフでした。
二人が役に入って………………………………………………一時間経過。
「エルフィさん…………粗相しなさいよ」
「え、お断りだよ。メイドの仕事は神聖不可侵。手を抜くなんて真似できないよ」
「ダメじゃん!!」
「エルフィは、主君に対してアレだけど、仕事に対しては真摯なのだ。こうみえても余の専属だからな。暴力的でも、ガサツでも、頭がちょっとお花畑で、迂闊者で、奉仕の精神が足りなくても、仕事にだけは誠実な娘なのだ」
「…………オウジ、チョット頭冷ヤソウカ」
「アウチィぃぃぃぃぃぃっ!!」
次期国王の専属メイド、主君に頭からお茶を注ぐ。
※さきほどお茶した時の残りなのでかなり冷めてます。ヨカッタネ。
「今よ! ゼクス様、そこでダメイドをお仕置きするの!」
「…………許してください」
その白魔女の指示に――土下座して手のひらを上に向けて応えるゼクスだった。
エルフィは、そんなゼクスを見て背徳的な喜びに打ち震えていた。
ゼクスのメイド愛が減少。メイドへの恐怖心増加。数値は非公開です。
……以上、これにて『ロリ魂克服四連荒行祭』を終了します。
「……負けたわ」
白魔女完全敗北。
両手を地につけて負け犬ポーズ(スポットライト付き)である。
「アインツ殿、アナタが悪いわけではない……全ては魅力的すぎる幼女という奇跡のような存在が悪いのだ。そう、悪いのは我々人類を生み出した神!」
「いや、王子をロリコンにしたのコイツだから! コイツが諸悪の根源だから!!」
忘れそうになるが、それが真実。
ゼクスが忘れても、エルフィは忘れない。一番の被害者(自称)だから。
「……こうなったら、責任とって私がゼクス様のお嫁さんになるしかないわね」
「いや、無理」
「即答!?」
「アインツ殿が幼女になるなら貰う」
「王子、アンタ最低」
「え、え、え~、ど、どうしようかな~? でも、私、五星の魔女のリーダーだから、幼女化して能力減少しちゃうとあの娘達を抑えられないし……仕事を取るか、恋を取るか……究極の選択だわ」
「アンタも、迷うな」
「でも、でも~」
みっともなく迷う白魔女の頭を、どこからか取り出したハリセンで叩くエルフィ。
停止した白魔女に、エルフィは真剣な顔で言う。
「王子は自分の仕事を投げ出すような女は、たとえ幼女でも好きになったりしない!」
「そのとおりだよ。さすが……余の事を理解しているな、エルフィは」
「…………常識です」
笑顔で分かり合う二人。
そんな二人の様子を見て、白魔女は理解した。
――……私の『好き』は、この娘の『愛』に敵わないんだ。ゼクス様もこの娘のこと……。
こうして、白き魔女の家で行われた激しい戦いは幕を下ろす。
残ったのは、虚しい、虚しい、心の傷跡だけ……。