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蛇足、『とある姉弟の後日談』

 魔王城。

 かって黒き魔女の可愛い家があった場所にそびえ立つ巨大な城。

 それは、『星統帝国』が城を建て替える時に、厚かましくも「いらないならちょうだい」と言って譲り受けた『星の王国』時代の王城。

 普通なら貰えるものではないが、エルフィが『王女』だって事は城内のみんなが知っている周知の事実なので、誰も反対しませんでした。むしろ賛成意見多数。


 そんなワケでこの城の主になったエルフィさんは……今日も自室に引き篭っていた。


 不老の魔術を開発し、あの日の若さを保ったまま――ゼクスが使っていた部屋で、ゼクスの使っていた机、椅子を使い、ゼクスの使っていたベッドで眠り、ゼクスの使っていたティーカップでお茶を飲むという紙一重の完全に向こう側な行為をしながら――『若返ってロリっ娘になる!』って目標に向かって、寝食忘れて日々研究に勤しむ、見た目だけは永遠の二十代。

 そんな彼女は――


「うわぁ~! ダメダメダメ!! できないできないできない! もー無理! 不可能!! 滅びろ世界! 爆発しろ、コンチクショー!!」


 ――大絶賛スランプ中だった。

 前述したように、彼女が研究しているのは『若返り』の魔術。

 この二十年で『不老/停止』と『成長/加速』という体時間操作魔術を開発してきた彼女だったが、『若返り/逆行』だけはどうしてもできなかった。例えるなら、時間の流れは川に流れる船のようなもの――流されるのは楽ちんで、おもりを沈めれば立ち止まることもできる。でも、逆らって進むのはとても難しいのです。

 不可能ではないが困難。

 不可能じゃないなら頑張ればいつか届く――が、若返りは彼女にとって過程でしか無い。

 それが叶った時、全てが手遅れになっている可能性もある。と言うか、既に手遅れな状態を一発逆転しようっていう試みなのだ。恐ろしいほど真っ暗な未来に挫けそう。

 ……だから、エルフィは泣いた。

 誰も見ていない自室で――子供が駄々をこねるように泣きながら暴れる/錯乱状態/一定時間暴れたら急停止して、机に突っ伏して泣いた――と思ったら、次の瞬間には顔を上げて笑い出す/悲しみが一定レベルを超えると笑いたくなるっていうアレ。

「王子……私、幼女になれないよ……」

 そんな絶望が、彼女を暗闇に沈めた。



 ……優しく身体を揺すられる感覚に、エルフィは目を覚ます。

 泣いたせいでぼやけてハッキリしない視界――優しい微笑みを湛えた青年/懐かしい/大好き/愛おしい――あの日と変わらないゼクスの姿。

「迎えに来たよ、エルフィ」

「……あ、お、王子、私……ずっと、待って、た……」

「ああ。済まなかったな、エルフィ。もう泣かなくてもいい。これからは余がずっと、側にいるから。――してるよ、エルフィ」

 そのゼクスは優しい声で、エルフィが望んでいた言葉をくれる。

 どこまでも、どこもでも理想通りで、夢のようで……。


 だから、当然のように気づいて――目覚める。



「……そうだよね。あんな都合のいい事、起こるはず無いよね。……夢……だよね」

 目覚めた場所は自室ではなく謁見の間。

 玉座に座るのではなく、玉座に寄り添い、もたれかかるように眠っていた。

 そこが、エルフィの好きな場所だから。そこで居眠りするのはクローン《むすめ》に注意されても治す気になれない。起きたら体中痛いけど、好きなものは好きだからしょうがない。

 ……それでも、あんな夢をみた後では少し考えてしまう。

 自分は不毛な努力をしている。ゼクスは奥さんとイチャイチャして、子供にも恵まれて、自分の行為はそんな家庭を壊すための努力で、そもそも報われる可能性なくて……惨めだ、と。

「あ~あ~……もう、新しい恋でも始めよっかな~」

 誰かに聴かせる気もない独り言。

 できるはずないと解っている、それでも言わずにはいられない弱音。自分への言い訳。

 そんな、呟きに――


「――つれないな」


 ――応える声が、あった。

 開けっ放しの入り口/人影――不法侵入者とは思えない堂々とした態度/金の髪と緑の瞳をしたナイスミドル/重厚感を演出する髭/少し、シワの見える顔/貫禄のある声/服は王子時代の綺羅びやかなモノと違い、威圧感を演出する豪華なモノ(マント付き)。

 侵入者対策にはってある結界魔術に反応はない。あるハズがない。その結界は登録された身内には効果がないのだから。いつか彼が迎えに来る日を夢に見てしまうほど願って、祈って、無駄だと思っていながらも諦めきれずに『登録』してあったのだから。

「せっかく、世界中の人間に文句を言わせないだけの権力を手に入れて、最難関だったフィーの説得にも成功したというのに…………ホント、大変だったんだぞ」

 その姿はかっての王子とは程遠い。

 魔術の作用で何も変わっていないエルフィと違って色々変わっていた。

 それでも、それは間違いなくゼクスだ。彼女が彼を見間違うはずがない。

 ――……優しい、瞳。私の好きな瞳のままだ。

「さすがに正妻はフィーだがな、第二夫人なら良いそうだ。何故か子供達が大賛成だったのが決め手だな。あ、子供は作れないぞ、余とエルフィが姉弟だという事実はどうにもならないからな……障害とか出ると可哀想だし。ソコは我慢してくれ」

 自分達は姉弟だから『この世界』では結ばれないと言った男。

「まあ、なんだ……細かいことはともかく――」

 あれから二〇年……その男は世界を統一して、世界を変えてやってきた。

 何をしに?

 そんなのは考えなくても解る。

 それでも、その『言葉』を聞くまでは動けない。

 だから、その『言葉』が紡がれるまでの永遠のような一瞬を耐える。

 ――……言って、早く言って、ダメ、待って、ううん、やっぱり言って、早く、やっぱりやだ、怖い、言わないで、でも言って、やだ、聞きたくない、でも……やっぱり聞きたい……。


「――迎えに来たぞ、エルフィ」


 気がついたら、駆け寄って、抱きしめて、唇を奪っていた。

 冷たい床に倒れこむ。でもゼクスが下敷きになっているので冷たくない。温かい。

 倒れたままの状態でゼクスは、何故いま迎えにこれたか説明した――皇子が皇位を継承する段階に入ったこと。皇子の嫁として新たな魔女を迎える事になったこと。ドサクサに紛れて不穏な動きがあること。神魔の残党の影。ゼクスがそれに対処するために『魔王』エルフィを第二夫人として迎えると臣下を説得したこと。アイちゃんの流した適当な物語の結果、エルフィの想いと功績が世界中に知れ渡っていたことがプラスに働いたって事――その全てを、エルフィは聞こえていたけど、聞いていなかった。

「待ってた! 待ってたんだよぅ、王子ぃ!!」

「……泣くなとは言わない。だが、もう『王子』はやめてくれないか」

「うにゃ、へ、陛下?」

「ゼクス、だ」

 強く抱きしめられて、強引に唇を奪われる。

 ――……にゃ、舌、舌入ってる!?

 離れたとき見えたのは、ナイスミドルな顔に少年のような笑顔。



「エルフィ、キミを愛している」

「………………ぜくすぅ」


 エルフィが抱きしめたら、痛いぐらいに抱きしめ返された。

 離したくないモノを、離さないように。

 逃したくないモノを、逃がさないように。

 愛おしい恋人を、その手に抱きしめるように。


 夢のような瞬間――でも、その現実ユメは覚めない。



 それは大切な人のために自分を変え続けた乙女と、あるがままの自分を愛してくれた人に全てを捧げた魔女と、自分を貫いて世界を変えた男の御伽話。



 『メイドはあくまでサブヒロイン』改め『嫁とメイドでダブルヒロイン』――終わり。

思いっきり軽く設定を考えて、ノリで書いてみました。

楽しく書けましたが、読んだ人が楽しめるかはまた別のお話……というかそれが大問題。


ちなみにGAに投稿したら一次落ち。

……まあ、さもありなん。

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