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転章、『皇子の旅立ち』

「――と言うのがアナタの『誕生秘話』よ、アハト」


「なんか他の言い方は無かったのですか母上!?」

 荘厳な雰囲気を持つ『謁見の間』に少年の叫びが響く。

 少年――黒髪黒瞳/小柄な体躯/それなりに整った顔立ちなのだが、あくまでそれなり/人懐っこい印象/親しみやすい雰囲気/仕草は洗練された優雅なもの――この『星統帝国』の第一皇位継承者、アハト/童顔だけど、もうすぐ二十歳の青年。

 そんな王子の正面/数段高い場所――玉座に座る幼女。

 幼女にしか見えないが、アハト皇子を産んだ母親。元・黒魔女のフィアさんである。

「……私とダーリンの馴れ初め話とか?」

「そんなに簡単に思いつくなら最初からそれで言ってよ! なんだよ誕生秘話って! 俺、その時仕込まれたってこと!? 聞きたくなかったよ、そんな話!」

 母親が父親に半ば強引に押し倒された話など、聞いてて気分の良いものではない。

 むしろ、そんな話を嬉々として聞く息子がいたら……かなり歪んでいる。

 もちろん、嬉々として話してくれた母親はどうしようもなく歪んでいること間違いなしだ。

 ――ただでさえ母親が自分より『ちっちゃい娘』って事が悩みの種だっていうのに……。

 父親が『自分より小さな女の子』とそういう事してるかと思うと、なんだか叫びたくなってくる複雑なお年頃。その感情は歳を重ねるごとに強くなるので困る。

 ――……俺がもうすぐ二十歳なのにガキっぽいのって、絶対この人の血だよな。

 妹達もやたらと成長が遅いから間違いない。

 ちなみに、アハトの下には十九人の妹がいる。全員実妹。一年一回、双子が一組。

 ……ついでに、二十人目が既にお腹の中にいらっしゃいます。

 こんなに子供をいっぱい作る理由は祖母の為らしい。なんかアハト達の祖母は子育てしてないと情緒不安定になる心の病で、その原因である母が祖母のために頑張った結果、子沢山になったそうな……このまま、祖母が天寿をまっとうするまで妹が増えるのかと思うと頭が痛い。

 ちなみに『妹』なのは、皇位継承で面倒が起こらないように、アハトが生まれた後、母が父に『女の子しか作れなくなる呪い』をかけたせいである。子供の性別決定権は男の方にあるらしいから、これで外で子供を作っても大丈夫とか母は言っていた。……でも、父の性癖を知っている息子としては、父が外で子供作ったらかなり酷いスキャンダルだと思うので心底勘弁してほしい。ホント、何もかも勘弁してと言いたくなる家庭環境だった。

「聞きたくなかったと言われても、これから話す事のために必要なんだからしかた無いじゃない。まあ、その後に天界と魔界のゲートが開かれて、この人間界で神魔の最終決戦がおこなわれて、ダーリンと、私が抜けた代わりに大魔術師エルフィが参加した『新星☆五星の魔女』が大活躍して、神魔両方の親玉を『宝具・太極図』に封印、世界の平和を勝ち取りました――って話のほうがいろいろ盛り上がるけど、今から話すことと関係ないし~」

「……そっちのほうがスっゲェ気になる」

「その後、荒廃した世界を効率よく救うために、ダーリンはあえて武力によって世界を統一。統一国家『星統帝国』を立ち上げて、皇帝になったダーリンの指導と、大魔術師から魔王にクラスチェンジしたエルフィによる魔術革新によって世界は瞬く間に復興。戦前より栄えちゃいました――とか言う話もたるいし~」

「いや、たるくないって!」

 父親が小国の王から、世界を統べる皇帝になるまでのサクセスストーリーとか、息子としては興味津々だったりする。おおまかな流れは学校の教科書にも載っているが、いろいろ謎が多い物語なのだ。……話をまとめた魔女が「アイちゃん、こんな作業めんどくさい~」と、適当に手を抜いたために。ついでに言うと……何故か、父とその異母姉であるエルフィ伯母さんとの悲恋モノに仕上がってて、息子としては真剣に読みづらい内容だった。

「あ、そういえば……ダーリンの留守中に天使数千が王城に攻めてきて、とあるメイドが一人で撃退したとかいう無茶な話もあったけ……そんなメイドがいたら会ってみたいものよね」

「マスター! それ絶対マスターの事!」

「まさか~。あの子はただのメイドだよ」

「………………記憶操作されてやがる」

 現在、マスターはアハトの教育係兼帝国の影の支配者です。

 アハトは魔女の子供という特殊な生まれのせいか、『魔法の効き目が薄い』特異体質。その為、記憶操作も効きにくく、この世界で唯一アハトだけがマスターの真実を知っているって状況。つまりヒミツの共有。その結果、アハトとマスターの親密度はかなり高かったりします。

 でも、怒らせると自分以外のみんなの記憶を操作されて酷い目に合わせられるので逆らえないという……恋愛関係には発展しそうもない、哀しい主従関係。

「……とりあえず、話をもとに戻しましょう」

「了解。本題プリーズです、母上」

 これ以上の話し合いは疲れそうだという判断のもと、本筋へ帰還。

 皇妃が『ゴホン』と咳払いひとつ。真剣な表情で――


「――アンタ、お見合いしなさい」


「――っ!?」

 ――……ついに、来た、か。

 皇族の宿命――政略結婚である。

 アハトももうすぐ二十歳。むしろ、皇族としては話が来るのが遅すぎるぐらい。

「……もうすぐ二十歳だっていうのに浮いた話の一つもないようじゃ仕方ないわよね。私とダーリンは自由恋愛だったから、アンタもそうあって欲しいと思って、あえてそういう話をしなかったていうのに……この非モテ! せっかくそれなりの容姿に産んであげたのに、謝れ!」

「……ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、モテなくてゴメンナサイ、生まれてきてゴメンナサイ」

 モテないことを謝れと母親に強いられた息子の図。……哀れなり。

「でも、俺だって頑張ったんだよ……ファッションとかトークとか……それなのに、どうしても『良い人』どまりなんだ。いつも『友達としてはいいけど恋人にはちょっと~』みたいな返事ばっかりなんだよぉ! しかも『皇子は身近な人の気持ちに気づいてあげた方がいいよ。鈍感』とか訳わからんコト言われるし!! 『メイド喰い』とか変なアダ名つけられるしーっ!!」

 最初は小声だったのに、後にいくほどヒートアップ。

 最後は泣きそうな顔で叫ぶアハトだった。

「……そういえば、城内で噂になってるわね。アンタが専属メイドのエルツーちゃんに卑猥な行為をしたって……」

「してないよ! 普通に『愛してる』とか『大好き』とか『俺の子供を産んでくれ』って迫っただけだよ! ……ついでに朝や夜にベッドに引きずり込もうとしたり、普段の仕事を影から眺めたり、城内で流通してるブロマイド買ったり、部屋に等身大ポスター貼ったり、自作抱きまくら作って使ったりしてるけど、卑猥なことなんて神に誓ってしてないよ!!」

「…………………………………………この世界に神は居ないのよ。大戦で封印したから」

 それはそれは、とても疲れた母親の声でありました。

「……アンタ、エルツーちゃんの事が好きなの?」

「あの娘の為なら死ねる!」

「ならなんで――」

「それ以上言わないで! どんなに好きでも、相手が受け入れてくれなくちゃ恋人関係にはなれないんだよー! あの娘に『冗談言ってないで他に恋人見つけろ』って言われて、彼女作ろうと頑張ってるんだけど、できないんだよー!!」

 ――あ~。コイツモテないわ。

 本命が他にいるくせに、彼女を作ろうとする男。ぶっちゃけ最低。

 ――……しっかし、私達の息子があのエルツーをね……。

 エルツー。ホントの名前はエルフィ・ツー。

 その正体は大魔術師エルフィのクローン

 若返る魔術を作れなかった大魔術師エルフィの代案――自分の体細胞からクローンを生み出して、ゼクスお好みの年令になった時点で不老の魔術をかける。その上で、自分の人格を転移させようという悪魔の計画。エルツーはその結果生み出された三体のクローンの二体目。ちなみに計画はクローンに自意識が生まれたせいで人格転移がうまくいかずに失敗。クローン達は一体は助手として手元に、一体は城に寄付、残る一体は逃亡という状況。

「でもでも俺だけじゃないんだよ! 母上知らないみたいだけど、妹達も全員もれなく『エルねーちゃん大好きLOVE』って感じで、同性であることを良い事に一緒にお風呂入ったり、ベッドに忍び込んだり、裸で抱き合ったりして羨ま――訂正、うまいことやってるんだよ!」

「……そ、そうなんだ」

 ――ダーリンの時と完全に立場が逆転してて、なんだかな~。

 お腹を痛めて産んだ我が子達のザンネンさに微笑む幼女。

 そこに暗い感情は無い。あるのは運命とか、因果関係とか、血縁とか、そんな目に見えない繋がりに対する――なんか面白そうな展開になりそうだという期待感。完全に観客気分。

 元・悪い魔女は、現在では『愛』とか『奇跡』とかが大好きなラブコメ至上主義者です。



「……まあいいや。とにかくアンタ、お見合いしてきなさい。相手はアインツ、ツヴァイ、ドゥライ、フュンフ――私の代わりに加入したエルフィを除く『新星☆五星の魔女』四人とお見合いして花嫁を選ぶの。相手に断られるならともかく、アナタから断るのは禁止だからね」

「……拒否権なし!?」

 驚愕するアハト。

 世界を統一した帝国の皇子に拒否権が与えられないとは夢にも思わなかったって表情。

 そんな息子を納得させる気はゼンゼン無しって感じで話を進める母親。

「これはアナタの皇位継承の為の政略結婚だからね。拒否権なんてあるハズないよ。バ~カ」

「魔女を嫁にすることが皇位継承の為…………ああ。そういう事、ですか」

「そういう事よ。この星統帝国はできて十数年の若い国。しかも武力で無理やり統一しちゃったから、不満を持った愚か者も大勢いる。そんな奴等を納得させるだけのカリスマはアンタにも、ついでに言うならダーリンにも無いわ。それでもバカ共が大人しく従っているのは――」

「――母上という、『最強のチカラ』を父上が個人で所有しているから、ですね」

 それは最も簡単で原始的な統治のカタチ。

 魔術革新により、人々の中に魔術が浸透したといっても『魔法』には敵わない。

 魔術はしょせん劣化魔法。個人で使える攻撃魔術はせいぜい使用者の身長ぐらいの火の玉を作れるぐらいで、指パッチン一つで街一つ消滅させられる魔法とは雲泥の差。

 ……まあ、魔術のメリットは複数の人間が同じ魔術を唱えることで威力を倍増できるところにあるので一長一短ともいえる。ちなみに開発者のエルフィは魔法を越えるオリジナルスペルを何個か保有しているが、そういうのは独占してて一般人には知られていないので安心。

「いえすよ。あの人に逆らうものを私は許さない――それが彼等にも解っているから、誰も反逆なんて考えない。アナタにも次期皇帝として現在の帝国を治めるのに絶対必要なチカラを所有してもらうわ。拒否権じゃないの。アナタにはあのバカ女共の一人を自分のために命を賭けてくれるぐらいメロメロにする『皇族としての義務』があるのよ」

「いろいろ最低だ!?」

「愛があれば問題ないわ」

 愛がある人が言うと妙な説得力がある。

 自分を棚に上げるどころか、自分を犠牲みほんにしているので反論しづらい。

 危険から逃げようとする人を非難することは簡単だが、危険を引き受けようとする人を非難することは難しいのです。

「……いや、でも俺が断るより。俺がフラれる可能性のほうが高いのでは?」

「大丈夫、大丈夫。アイツらみ~んな千年以上浮いた話の一つもない『いきおくれ』共だからさ。入れ食い状態? 鯉にエサやる感じで食いついてくるわよ」

 ※注、皇妃・フィアちゃんは橙魔女と先代国王が不倫……ではなく恋人関係にあることを知りません。知っているのは当事者である先王とその王妃、橙魔女とマスター、水魔女、エルフィの六人だけ。ゼクスは父親に女の影があるのには気づいているけど、あえて気づかないふりをしています。母親が心の病で臥せっているという事実と、その原因が自分達夫婦であるという事を加味しての判断。

「怖っ!? 母上、息子をそんな修羅道へ叩きこんで心が痛まないのか!?」

「この国のためよ」

 責任のある立場は辛いのです。

 そう教えてくれている母親は、笑いを堪えているのがバレバレだったが。

 ――なんか、暴君になりたくなってきた~。俺が皇帝になったら処女権行使すっぞ!

「あ、それともう一つ。アイツら、ダーリンのお嫁さんになった私の事羨ましがって意地悪してきてムカツイたからさ、『賭け』をすることにしたのよ――これからこの国の皇位継承者は魔女達から嫁をもらうって約束してね、でも最後の最後まで残った一人にはね……クフっ」

 口を押さえて『プププ』と笑い出す母に、なんだかろくでもない感じしかしない。


「残った一人は『魔女』改め『聖処女』の称号を名乗って、一生独身を貫くって罰ゲーム☆」

「ろくでもね――――――――――――――――――――――――――――――――っ!!」


 ホントにろくでもなかった。

「私としてはアインツのクソババアはムカつくから、アンタもアイツを選んじゃダメよ」

「私怨!?」

「一番年増な外見したアイツが『聖処女』とか呼ばれる未来を予想したら……くあははっははははははははははははははははあっはあ、ぎゃは、ぎゃはは! アイツ絶対『アイちゃん、こんなのいやー』とか言って逃げ出すわ! でもでも、逃げてもダ~メ。私、もう一生独身になっちゃう『呪い』開発しちゃったもの! ……ク、くひゃははははははーっ、あはははは!」

 幼女な外見に似合わない邪悪な笑い。

 息子は自分の母親が元・悪い魔女だということに心底納得した。

 それから数分間、子供が泣き出しそうな笑い声が城内に響いた……と思ったら、突然真面目な顔に戻って――

「――ってワケで、行って来なさい。可愛いお嫁さん待ってるわ」

「…………頑張ります」



 そして、皇子は旅立った。

 世界を敵に回しても勝てる『魔女嫁』を娶るために。



 『魔女嫁』――RESTART。

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