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エピローグ、『嫁とり物語』

 エルフィが長い夢から覚め、目覚めたそこは――ジゴの世界。

 死後ではなく、事後である。


「ダーリン、好き好き!」

「私が気を失ってる間に何があったっ!?」

 部屋の中央に、バカップルが居た。

 子供っぽい甘え方で抱きつく幼女を父親のようなどっしりした態度で受け止めているロリコン――そんな二人がイチャイチャ、イチャイチャ/悪夢のような現実である。

「何がって……ナニ?」

「この犯罪者――――っ!!」

「いや、フィーは千歳超えてるし、余の妻を見た目で差別しないでもらいたい」

「なにげに愛称で呼んでるし…………って、妻っ!?」

 どうやら全ては終わった後らしい。さすが事後の世界。

 時刻を確認すると……なんと八時間も経過していた。八時間睡眠、目覚めはバッチリ最悪。

「えへ。私、ダーリンのぉ、お嫁さん。きゃー♪」

「うむ。フィーは余のお嫁さん」

「うへ~」

 イチャイチャ、ハート乱舞。

 独り者には眩しすぎる光景――『もうエルフィの精神力はゼロよ~!』状態です。

「……王子。盛り上がってるところ悪いですが、いくらなんでもソレと結婚するのは無理でしょう。王子が良くても周りの人達が許さないはずです。特に私が!」

「何故?」

「いや、だってソレ、見た目アレだし! 王子に呪いをかけていろいろ迷惑かけた元凶じゃないですか! 王様も王妃様も許しませんって!」

「そこらへんは……案ずるより産むが易しと言うだろう」

「そうですね! 跡継ぎ産ませるのが重要って話ですね!! 背に腹は代えられないって説得するつもりですか、オ・ウ・ジ・サ・マ?」

 至近距離で顔を付き合わせる主従。

 エルフィの血走った目が怖い――ほんの数センチでキスできる距離なのにホラーかサスペンスな雰囲気/ゼクス、殺人犯に身動き封じられた被害者の心境を体験。

 そして、そんなゼクスの隣には、二人の顔が近すぎる事に『ムス~』と可愛く頬をふくらませて嫉妬している黒魔女ちゃん/ただし瞳は笑っていない――ハイライト消失寸前。

 ……いわゆるひとつの『修羅場』である。

「…………ま、まあ、その話は帰ってからにしようではないか――フィー」

「は~い。パパッと転送の魔方陣組んでくるから、ちょっと待っててねダーリン☆」

 ゼクスの目配せで立ち上がる黒魔女ちゃん/阿吽の呼吸。

 なんか出会って数時間とは思えないやりとりに、エルフィは頭痛がしてきた。

 外に出る黒魔女/バタンと閉じる扉/残された主従――二人だけの気不味い空間発生。

「…………」

「…………」

 無言のエルフィから殺気混じりのプレッシャーを感じるゼクス。

 でも、実はエルフィも突然二人っきりになったせいで、何を言っていいか解らないだけ、という状況/つまり完全にゼクスの気のせい――後ろめたい事がある男は疑心暗鬼に陥ります。

「……王子」

「……な……なん、だ?」

「私、王子のこと、好き、なんですよ」

「……ああ。空から落ちてた時も言ったが…………ちゃんと解って――」

 言い終わる前に、エルフィの右ストレート炸裂!

 転倒/床に尻餅をつき、呆然とした顔で見上げる視線の先――パンチラ/もっと上――肩を上下させて荒い息のエルフィさん/瞳に涙/胸に湧き上がる罪悪感――瞳をそらすゼクス。

「…………あはは。そうですね。そう言ってましたね。……つまり、アナタは私の想いに気づいていながら、私が寝ているすぐ側で、あのロリババアを押し倒したって言うことなんですよね。つ・ま・り――私のことなんて、どうとも想ってないってことですよね? そうなんですね? あー、そうなんだー。あはははははははははははははははははははははっ!!」

 泣きながら笑い、ゼクスの頭に片足を乗せてグリグリ。

 礼儀正しく靴を脱いで、グリグリ/ニーソでグリグリ――それをなすがまま受け入れるゼクス/泣いている女の子には逆らえない/優しさではなく罪悪感による行動――謝罪。

「……いや。余はエルフィのことを、ちゃんと女性として好いているよ」

「適当なことを言うな!」

 表情反転/怒りに顔を歪め、『グリグリ』から『ゲシゲシ』に……蹴りに変更。

「そうやって、女の顔色うかがって、調子のいい事言って! そんなの優しさじゃないって、私が惨めになるだけだって解らないの!」

「――――っ!!」

 ゼクス、足首キャッチ/態勢を崩さないように強めに握る/痛みに怯むエルフィ。

「嘘は……言ってない」

「だったら! ……だったら……なんで……?」

「それが『この世界』では許されないことだからだ」

「身分違いってことですか!? 孤児の使用人なんて、王子の相手としてふさわしくないって事ですか!?」

「違う! そんな理由でエルフィを拒む者は城中には一人もいない。お前はお前が思ってる以上に、皆から愛されている。だから…………違うんだ」

 城のみんなはエルフィが大好き。

 理由は『解らない』が、重役から下っ端まで、王城の誰もがエルフィに対して好意と敬意を持っている――これは、マスターによって記憶が書き換えられてもエルフィがゼクスに恋したままであるように、記憶が無くても感情の一部が残っている為の現象。

「じゃあ、なんで私じゃ……ダメ……なんですか?」

 だから、結ばれないのは、別の理由。

 致命的にダメで、生まれた時からどうしようもない理由。

 法律的に許される国もあるらしいけど、この星の王国では禁忌。

 

「……………………………………余とエルフィが……『異母姉弟』だから……だ」


 苦いものを噛み締めるように、その言葉を紡ぐ。

 視線はどうしても合わせられない/エルフィから逃げるように逸らし、壁近くに置いてあったファンシーなぬいぐるみの瞳を見る/黒い瞳がキュート――現実逃避。

「――はぁ?」

 そんなゼクスを『何バカいってんの? もっと上手い言い訳考えなさいよ』って鼻で笑うエルフィさん。酷い。信じる心が足りない。むしろ信じたくないからこその言動。

 だから、彼女は否定する。

「私が王子の姉だというなら、ナンデ私は孤児扱いでメイドやってるんですか?」

 否定材料その一。

 異父ならともかく、異母という事はエルフィの父親は王様ということになる。つまりエルフィは星の王国のお姫様。それで使用人扱いはオカシイ。

 ……ゼクスはその『問い』に答えることを躊躇した。

 もちろん答えは知っている――だけど、答えが解っても、それで救われるとは限らない。

 求める者を傷つける答えなんて山ほどある。だから、ためらう。

 けれど求める者は、そんなコト気にしない――最悪の事態なんて考えない。無知だから。

 ただ後先考えず答えを知りたいと求める。だから、ためらわない。

 深い、深い、ため息ひとつ。

 ――…………まあ、ここまで言ったら言わない方が酷か。

 言う気がないなら、最初っから異母姉弟とか言うな、と自分を叱り、決意する。

「それは…………『みんな』が墓の中まで持っていこうとしている秘密だが、エルフィが知りたいというなら仕方ない」

 ぬいぐるみから視線を外し、エルフィの目を見る。

 主人を鼻で笑う不遜な態度……でも、その目は真剣そのもの/よく見ると足が半歩後退っている――逃げる準備万端/すなわち逃げ腰/不遜な態度はただの強がりだとバレバレ。

 ゼクスの良心がズキズキ痛んできたが、それでも言うと決めたから、言う。


「エルフィが父上とその実姉あねとの娘という世間様には発表できない子供だからだ」

「墓の中まで持ってけよ!」


 ……怒鳴られた。

 だが、怒鳴るだけの元気が残ってたことに一安心。

 普通、自分の両親が姉弟だとか言われたら心が折れるだろう…………たぶん。

「そもそも、『みんな』の前で使用人が主君にツッコミ入れていいはずがあるまい」

 ゼクスは無理やり微笑みながら、言葉を続ける。

 ここで会話を打ち切ったらエルフィが路頭に迷うと思ったから、最後まで言い切る――ゼクスの半分は優しさでできています。ちなみに相手が幼女なら九割以上が優しさに変わります。

「……それって」

「公然の秘密。知らぬはエルフィばかり」

「…………………………………………もう誰も信じらんない」

 悲劇の主人公のように『ヨヨヨ』と泣き崩れるエルフィ――スポットライトで照らされそうなシーンである。ただし喜劇。話の内容は悲劇なのに、ノリは喜劇だった。

 ――ヨシっ!

 シリアスを乗り越えた手応えに、隠れて小さくガッツポーズ!

 ――このまま、たたみかけるっ!!

 エルフィの肩に手を置いて『慰めモード』に移行。

「まあ、そんなワケでな……さすがに『姉』相手に欲情したら変態だから、解ってくれ」

「幼女相手に欲情する変態が普通の人ぶるな!!」

「あーっ! ソレは酷い! いくら余でも傷つくぞ、ソレ!」

 真実は人を傷つける。

 嘘は優しく、真実は厳しい。誤魔化せないから。

「……アハハ、そうですよ。王子はロリコンの変態なんです。いまさらシスコンの要素が加わっても、たぶん問題無いですよ。越えましょう! ぶち破りましょう! 血縁の壁っ!!」

「それを越えちゃダメだ――――――っ!」

 暗い炎を燃やすエルフィさんに心底恐怖したゼクスが、みっともない叫びを上げる。

 不意に――背中に感触/壁。

 ――いつの間に!? いつの間に余は後退していた!?

 壁に触れて、初めて自分が恐怖に押されて逃げていた事実を知るゼクス。驚愕だった。

「ナンデ逃ゲルンデスカ、王子?」

 エルフィがゼクスの手を取り……そのまま壁に押し付ける/上半身、身動きできず/ゼクスの腕力でも抗えない力/精神が肉体の限界を超える事で発揮される――火事場のアレ。

 ――あ、足は自由に動く……だが、エルフィを蹴り倒すワケには……。

 問題、『逃げるために女性を蹴り倒せるか』――ゼクスの答えは『否』である。

「観念シマシタ? 大丈夫デスヨ……オ姉チャンガ優シク、優シ~ク、『シテ』アゲマスカラネ。大丈夫、天井ノしみヲ数エテルウチニ気持チヨクナッテキマスカラ……ふふふ」

 姉という事実を知ったばかりなのに、ノリノリであるこの娘。

 でも言ってることはあんまり変わっていないので、頭のリミッターが外れただけと推測。

「ちょ、ダ、ダメだって――」

 近づいてくる顔――両腕はお互い使えない状態。

 ――唇、奪われる!?

 ゼクス、思考が乙女化。女子力急上昇。

 普段攻める立場にある人はこういうとき弱い。

 しかし、そんなゼクスの予想は美事に裏切られる。

 素通りするエルフィの唇/直後――首に『クチュっ』と舌の感触/下から上に……通った後に残る唾液の道/終着点――『耳』到達/甘噛み/中まで侵入/その感触に『ゾクゾク』する身体/初めて知る自分の性感帯に戸惑うゼクス――普段は奉仕する方であるがゆえにっ!

 不覚にも、ゼクスは元気になった。

 さっきまで頑張っていたせいでヘトヘトだったのに元気になった。さすが英雄の如き肉体。

 十三歳以上には反応しないはずなのに……クラ○が立った~……奇跡が起こった。


「口では嫌といっても身体は正直なんですよね……イヤよイヤよも好きのう――」

「――どこの悪代官よ!」


 その声は女神の福音――同時に『ゴズっ!』という鈍い音が響く。

 何かがめり込んだ音/白目をむくエルフィ――白目をむく姿を至近距離で見ると怖い/倒れる時は前のめり――寄りかかるように倒れてくる彼女を、ゼクスは反射的に受け止める。

 エルフィの背後には魔法のステッキを構えたフィアの姿があった。

 最初に見たのと違う――先端の大きな星がむき出しで、鈍器としても使えそうな杖。

 どうやらさっきの『めり込んだ音』はその杖によるものらしい。星の一片が赤くなってるように見えるのは気のせいだと思いたい。…………刺さった?

「危機一髪だったよ。……油断も隙もあったもんじゃない」

「……た、助かったよ、フィー」

 嫁(確定事項)に感謝し、自然な動作で頭を撫でるゼクス。

 空気を吸うように女性の頭を撫でることが出来る男である。

「うにゃ~、頭ナデナデ~☆」



 ……ツンデレ魔女はもういない。

 そこに居たのは心の牙を抜かれた飼猫一匹。



 そして悪は滅び、物語はハッピーエンドを迎えたのである。

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