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アルス×マグス  作者: KIDAI
第一章 『魔ジン』と襲撃
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4 宿探し

 片側三車線の道路並に広い石畳の道に、両脇から挟むように建ち並ぶレンガの建物。

 その内の一つに、『HOTEL』と大きく書かれた看板が立ててある建物があった。その建物は四階建てで、他の建物と比べると幅はあまりない。

 そんなホテルの前で大小二つの人影が立ち尽くしていた。


「何やってるの? 早く入ろうよ」


 キャロルは、いつまでたっても突っ立ったままでホテルの中に入ろうとしないユアンの腕を引っ張って、引き入れようとしている。だがユアンはそこから動こうとしない。いつまでたっても看板を見上げたままだった。


(……このホテルは、果たして本当に『ただのホテル』なのだろうか)


 ユアンの頭から知恵熱が噴出す。彼は頭をフル回転させてある事を考えているのだ。

 そのある事を説明するには少し昔話をしなければならない。


 それはまだ彼が彼の『師匠』と旅をしていた時の話。





 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 その日、ユアンは師匠に命令されて、旅の途中で立ち寄った町で宿を探していた。

 町は深夜十一時過ぎだというのに祭のように活気に溢れていて、とても光輝いていた。

 彼は周りをキョロキョロしながら歩いていると、ふと、木造の建物だが古びた感じはなく、ピンク色に輝く装飾が施されている二階建ての建物が視界に入った。その建物の二階には『♥ HOTEL』と書かれた看板が掛かっている。


「まずはここだな」


 そう言うと彼は迷わず入っていく。

 店の中は薄暗かったが、とても洒落たところだった。客も多く(主に男女の二人組み)結構繁盛しているようだ。


「ここなら師匠も納得するだろ」


 うんうん、と相槌を打つ無知な純情少年ユアン。

 彼の師匠は汚い宿やホテルは極端に嫌う性格なので、値が張っていても綺麗なところを見つけないと半殺しにされかねないのだ。

 ユアンは部屋の予約を取るために受付まで行くと、従業員のおねーさんに突然年齢を聞かれた。

 予約を取る際に年齢を聞かれる事はたまにある。そしてそう言うところは大概『未成年の方は予約を取れません』とか何とか言い出すから、その時は迷わず『俺は二〇歳です』と言い張れ、と師匠に教えられていた。


 ユアンは師匠の言うとおりに『俺は二〇歳だー!』と大声で叫ぶと、従業員のおねーさんは『うふふ元気な子ね』と笑った。どうやら信じてくれた(?)ようで、今度は何名様かを尋ねてきた。ここは普通に自分を含めて二名だと言ったユアンは、そのまま部屋の番号を教えてもらい鍵を受け取った。


 外で師匠を待つこと一〇分。


 遅い何してやがったんだバカヤロー! と言ったら地面に埋められた。師匠は優しくないので頭まで埋められた。地面の中で大声で謝ると掘り出してくれたが、一発顔面を思い切り殴られ一〇メートル以上吹き飛ばされた。

 これからはなめた口を聞くのはやめよう、と心に誓いながらユアンは師匠を予約したホテルまで案内する。

 ここで先に説明しなくてはならない事が一つある。


 それはユアンの師匠が女で、しかもかなりの美人だという事だ。


 見た目は二〇代前半で背は一七〇センチ以上と女性にしては高く、さらに肌は白く体は出る所は出ていて、締まる所はきっちり締まっているナイスバディ。化粧をしなくても十分美人な顔立ちだと言うのに、さらにその美しさを際立たせるために施されたプロ顔負けのメイクと、黄金のように輝く金髪のロングヘアーで道行く男心を一発ドキュン!


 服装も服装で当時の彼女は、足首まであるオレンジ色のゆったりとしたスカート──なのだが腰から下へ、チャイナドレスのように切断されているせいで、歩く度に隙間から真っ白な生足がこんにちはとさようならを繰り返している。そして上は豊満な胸に巻いてある布が一枚と、背中の中間までしかない上着を羽織っている。前は開きっぱなしで、おへそと胸の谷間が丸出しと言う派手すぎるセンスだった。


 結局のところ、ユアンの師匠は容姿も服装も人並み外れているのだ。


 まあ外見がそんなんだから回りに注目されがちで、時々馬鹿な男どもがナンパしてくる。

 そいつらは言うまでもなく師匠に半殺しにされるか、一生男として生きられない体にされている。意外にガードはダイヤモンドより固かった。


 話を元に戻して、二人は目的のホテルの前までやってくると同時にそこで立ち止まる。師匠はゆっくりとした動作で看板を見上げ、数秒何も喋らなかった。

 しばらく経って再びゆっくりとした動作で目線を下げ、そのままユアンに視線を向ける。彼は何の気なしに師匠と視線を合わせた途端、ゾッと全身に寒気が走った。


 笑顔。


 師匠の顔には完璧な笑顔があった。

 ユアンは知っていた。師匠このひとが完璧な笑顔を作る時、それは大きな災いの前触れだと言う事を。そして、


 ダンッ!! と彼女は地面をしっかり踏み締めて、右の拳を岩石のように硬く握り締めると、



「このセクハラ野郎が! どっからどう見てもラ○ホじゃねーかぁあああああああああああああああああああああああああああああああッ!」



 絶叫と共に硬く握り締められた拳が、


 ドンッ!! と鈍い音を立ててユアンの顔面にめり込んだ。


 足の裏が地面から離れると同時に空中で体を回転させながら飛んでいく。そのまま五〇メートル以上飛んでいったユアンは、地面に大の字になりながら気絶した。


 これが最初の失敗であり、『セクハラ野郎』と言うあだ名がついた記念すべき(?)日でもある。


 それから『これが最初』と言う事はもちろん二回、三回と同じような事を繰り返し、その度に殴り飛ばされていた。ついでに最大飛距離は一一七メートル。腕力だけで五〇キロ近い人間の体をそこまで飛ばすなんて、自分の師匠ながらつくづく怪物だなと思ってしまう。



 まあそんな事が過去にあったユアンは、普通のホテルと普通じゃないホテルを間違えないように、宿選びはかなり慎重なのだ(普通は間違えないのだが)。


 しかも今回は特に注意をしなければならない。なぜなら今現在、彼の腕を引っ張りながらホテルの中へ一緒に入ろうとしているのは、見た目十二・三歳の女の子だ。もしこの『HOTEL』が『LOVE』の付いているホテルだったらどうする? どっからどう見ても幼い女の子を連れ込んでやましい事をしようとしているただの変態だ。


 だからここは慎重にいかなければならない。

 自分の名誉のためにも。


(どこかに、このホテルは普通のホテルだと証明するものはないのか……!)


 ユアンはもの凄い形相で建物の隅々まで目を配らせる。そんな彼を見てキャロルは怪訝な顔をしながら尋ねてきた。


「ねえ、さっきから何ジロジロしてるの? 病気なの?」

「ちげーよ、これは確認だ。このホテルが普通のホテルかどうか確認してんだよっ」

「言ってる意味がいまいち分かんないんだけど」

「いーから子どもは黙ってろ。これは大人の問題だ」

「むっ、なにかなその言い方。大人の問題って貴方もまだ子どもじゃん」

「お前よりは大人だよ」


 会話中もホテルの正面を凝視しているユアンに対し、キャロルはさらに強く彼の腕を引っ張る。するとその努力が実ったかのようにユアンの体がゆっくりと前に進み出す。


(軽く見渡した感じじゃ普通のホテルのようだな)


 でもまだ気は抜けない、とホテルの中に入った途端に部屋の中に隈無く視線を向ける。

 内装は質素でこれと言って目立つものは何もない。元々部屋が狭いのに無駄に長いソファを置いてあるせいで余計狭く感じる。すると受付らしき足の高い机の向こうに、六〇歳過ぎの白髪が目立つおじいさんが座っていた。おそらくこのホテルのオーナーだろう。


「いらっしゃい。部屋なら空いとるよ」


 とてもゆっくりとした口調だった。

 はあ、とユアンは周りに向けている視線を緩めて気の抜けた返事をした。そしてしばらく時計のチクタク音だけが場を支配すると、おじいさんは机の引き出しから部屋の鍵を取り出した。


「三階の三〇二号室が空いとるから、そこを使ってくれ」


 口調もゆっくりなら動作もゆっくりらしく、映画をスローで見ているかのような動作でおじいさんはユアンに部屋の鍵を……、投げつける! もの凄いスピードで!


「え?」


 いきなりプロ野球のピッチャーが投げる球並のスピードで飛んできた鍵に、ユアンは反応できず、そのまま鳩尾にクリーンヒット。あまりの衝撃に床の上でのたうち回っていると、


「おいおい、情けないのー最近の若いもんは」

「……いきなり何すんだよっ! こんな不意打ち食らわせやがって」

「不意打ち? どこがじゃ。わしは真正面から投げたじゃろう。フツーに」

「どこがフツーだ! 明らかに異常だろ今のは! それに俺たちまだここに泊まるなんて言ってないんだけどっ!」

「言ってなくてもどうせ泊まるんだろ? お前さんらは。それにその鍵を受け取った以上、お前さんらがこのホテルに泊まる事は決定したのじゃ。異論は認めん。ついでに言うとこの宿はお前さんたちのような奴のためにあるのだからな。分かったらさっさと部屋へ行って来い」

「……なんだよそれ」


 思わずうめいてしまったユアン。


「言っててもどうしようもないよ。今日はもうここに泊まろ」


 今まで黙っていたキャロルの言葉にユアンは一瞬黙るが、やがて『そうだな』と呟くと鳩尾を押さえながら立ち上がり、三階に続く階段に向かう。


「ったく、何者だ? あのじいさん」


 ユアンは肩越しに後ろを振り向いて、もう一度おじいさんに視線を向ける。

 だが、やはり普通の年寄りにしか見えなかった。

 二人は狭くて急な階段を登っていき、三階にある三〇二号室の前で立ち止まる。


「ここだな」

「うん」


 確認するようにひと言ずつ言葉を交わしたユアンとキャロル。

 そして鍵を開けてドアノブに手を掛けたユアンはここに来て、ふとある事を思う。


(……この部屋って、二人部屋だよな?)


ほんのちょっとだけユアンの過去を出してみました。まったくもってくだらない話ですけど……

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