4 強敵への宣言
秒単位の死闘を繰り広げているのはユアンだけではない。
ガルトVSキファーフ。
率直に言おう。
この二人の死闘はユアン達のそれを更に凌駕していた。
斬って突いて、防いでかわして。
そんな、戦闘において当たり前の動作を、彼らは一秒間に一〇回は繰り返していた。
一見すれば二人は均衡しているように見えるだろう。
(ぎ……ッ!)
だが、蓋を開ければどちらが優勢なのか、明白だった。
(こ、の……)
「腐れジジイがァああああああああああああああああああああッ!!」
キファーフは極めて珍しく絶叫していた。
今までの攻防とは違う、大振りな一撃。ガルトを遠ざけようとするその動きが、逆に仇となり大きな隙を作ってしまう。
体を軽く逸らしキファーフの渾身の一振りを軽々とかわしたガルト。
そして左脇腹へと。
両手で握られた白い大剣が、キファーフの上半身と下半身を切り離すため横薙ぎに振るわれる。
「──ッ!」
鉾を回し辛うじてその一打を防いだが、衝撃に負けて地面から両足が離れていた。
(ぐ、ちくしょ……ッ!)
抗いようのない力が鉾の刃に掛かる。一方からの強烈な負荷によって空気が壁のように感じられる。
ガルトの腕の筋肉が爆発的に膨らむのが分かった。六〇歳近い老人の腕とはとても思えない、化物のような太さ。怪物のような引き締まり。
そしてキファーフの体は上へは行かず、地面を抉り粉塵を掻き立てながらぶっ飛んだ。
「ごがァあああああッ!!」
背中や腕、脚が摩擦により削れ、体からの振動により脳が大きく揺さぶられる。地面から抵抗が掛かりながらも二〇メートルは進んだ彼の体は、粉塵の中、鉾を手放し仰向けになって動かない。
(腕が……、重い)
乾いた喉。揺らぐ視界。
(体中が……、痛ぇ)
霞む思考に抜ける力。口から吐き出された物は粘着いた赤黒い痰。
(あのじいさんの一撃一撃が、体の芯まで響いてきやがる。受ける度に、体の中から壊されてってる感じだ)
例えここで立ったとしても、同じような攻防が続くだけだろう。そうなったら自分はどうなってしまうのか。そんなものは容易に想像が出来る。
体の芯から砕かれて、殺される。
「……上等じゃねぇか」
だが、裂かれた口から放たれた言葉は、老人への挑戦だった。キファーフはゆっくりとその場に立ち上がり、地面に転がっている己の鉾を再び手に取る。
「体の芯を砕かれて、一歩も動けなくなるその時まで、俺は鉾を放さねぇ。全力で、あんたを潰す」
目の前でカーテンのように立ち込める粉塵を、彼は一振りで払い飛ばし、再び視界に現れた老人に宣言する。
「だからあんたも」
自分が抉った地面の先に立っている、強敵に。
「本気で来いッ!」
その首を取ると。
この時、今まで何をするにも無表情だった老人が、一瞬だけ笑ったように見えた。
そして、二人の攻防は再び会された。