3 激突
ユアン=バロウズは思う。
(俺の目的はキャロルを助け出す事)
一〇〇メートルほど先で倒れている少女に視線を向けるが、気を失っているのか彼女が動く気配は全くない。
(でも先にこいつを止めなきゃ意味がない)
だから、彼は戦う。
一人の少女を救うために。拳を握って体勢を低くし、己の敵を見定める。
(力押しだけで勝てるかどうかって言ったら……、まあ普通に考えて無理だろうな)
敵の武器が今まで通りの短剣だったのなら、話はまた変わってくるかもしれないが、鉄の鎧の上からでも人体を叩き潰す事が出来る金属製打撲武器に、直撃した物を爆破する術式を組み込まれていては、はっきり言って手の出しようがない。
(でも、必ずどこかに抜け道があるはずだ)
根拠はある。最初の爆発と先程の会話で不可解な点を幾つか見つけたから。
しかしそれを確かめるためには、もう一度あの爆発を受ける事になるかもしれない。
(ビビってる訳にはいかない。俺の知識が正しければ何とかなるはずだ)
そのための、先制。
ユアンは握っていた両の拳を開き、掌サイズの風の渦を形成した。それは次第に薄くなり、鋭くなって刃となる。
チャクラムと言う武器を連想させて貰えば分かりやすいだろう。チャクラムとはCDやDVDのような円の形をした手裏剣みたいな物。
彼の手の中にあるのは正にそれだ。鉄ではなく空気で創られているが、その用途は変わらない。
彼は一度両腕を後ろに引き、狙いを定める。
対する敵はメイスを肩に担ぎ、掛かって来いと言わんばかりの態度だ。おそらく挑発しているのだろう。
ユアンは後ろに引いていた両腕を振るうと同時に、チャクラム型の空気の武器を投擲する。
速度は弾丸の二分の一以下。だがそれの利点は視界で捉えにくい事であり、今の場合はただの陽動。致命傷を狙っている訳ではない。
ユアンの両足に風が渦巻く。
そして地面の乾いた土を吹き飛ばし、先に飛ばしたチャクラム型の空気の塊を追うように狙いに迫る。
敵の動作は至って単純だった。
四〇キロはあるだろうメイスを片手で軽々と振るい、回転しながら飛翔してくる風の刃を真横へ一線し消滅させる。そのまま両手に握り直すと新たに迫る自身の敵を、爆破の撲殺武器で叩き潰すべく大きく再び真横に振るった。
バットで球を打ち返すが如く。
高速かつ強大に。
大気を強引に引き裂きながら。
ブオンッ!! と壮大に空振った。
「……ッ!?」
直撃確定だったはずの一振りが、球であるユアンの体が急激に高度を下げたせいで、何もなくなった空間を通り過ぎたのだ。
ユアンが敵の目の前で着地するのと、敵がメイスを振り切るのとは同時だった。
風を纏った拳を、両手でメイスを握っている為防御が出来なくなっている敵の顔面に突き刺そうとするユアンに対し、敵はメイスを引き戻して自身の敵に振り下ろそうとする。
(いけるか……ッ!?)
「ぐ──ッ!」
奥歯を噛み締めた両者。
固く握った拳を突き出そうとするユアン。到達まで約一秒弱。
完全に振り切ったメイスを早急に引き戻し、再びユアンに叩きつけようとする敵。到達まで約二秒強。
一秒弱VS二秒強。
秒単位の戦闘。
結果は一目瞭然。
そして、
敵の腕が異常な動きをした。
人間としての腕の機能が異常なのではない。
腕を動かした速さが異常なのだ。
四〇キロ以上のメイスを握っているのにも関わらず、敵はそれを〇・三秒で真横から真上に掲げ、
「────」
〇・一秒で、何かを思う暇もなくユアンの頭上に振り下ろされた。
地面を割る振動と大気を裂く爆音が鳴り響いたのは、その〇・五秒後。