13 救うために
キファーフと老人の激闘を眺めていたラージーは、そこで気付く。
今度は左側にいた部下たちが、青いT=シャツを着た男に次々と斬られていっている事に。
「あの野郎!」
ラージーは男に握っていたナイフを投げつけようとした。だが、その前に動いた者がいた。
三つの人影の、最後の一人。
両手両足に、目に見えるほど圧縮された風の渦を巻きつけたユアン=バロウズが、拳を硬く握り締めイッザ=ラージーの眼前まで迫ってきていた。
「──ッ!」
一瞬反応に遅れたラージーだったが、彼はそこで思う。
(こいつ、素手でやる気か!?)
ナイフを持った敵に素手で挑もうとするユアンの行動は、無謀としか思えなかった。鋭く尖ったナイフと人間レベルで硬くなった拳とでは、結果は目に見えているから。
「武器もなしによく突っ込んでこれるなぁ!」
嘲るように叫び、ラージーは刃先を青いT=シャツの男からユアンに向ける。
同時に右肩を引いていたユアンの右拳が、風を纏って前に突き出る。
ナイフと拳が正面から衝突し、
ナイフが刃先から削れていった。
「な──ッ」
瞬間、ラージーは愕然とした。
ナイフと素手の拳とでは勝負にもならないはず。実際に勝負にもなっていないが、その結果が明らかに異常だ。
ユアンの拳は鉄製のナイフを大根みたく削っていき、そしてラージーの顔面に突き刺さる。
ドッ! と鈍い音が響き渡った。
そのまま一〇メートル以上殴り飛ばされたラージーは、地面に大の字になって倒れこむ。
砂ぼこりが彼を包むように舞い立った。
「……どういう事だ?」
しかし今の彼は顔面を殴られた事よりも、自分が生きている事を不思議に感じていた。
(ナイフを削り取った拳だぞ。それをまともに喰らった俺が、なんで生きてんだ)
考えられるのはただ一つ。
あの少年が手心を加えた。つまり力を抜いたのだ。
「殺しはしねーよ」
言ったのはユアンだった。彼は倒れているラージーを見下ろし、静かな声で発語する。
「俺はただ、キャロルを助けに来ただけだからな」
第三章はこれで終りです。
次は第四章――の前にまたまた行間が入ります!