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7 焦り
時刻は既に午後六時を回っていた。
太陽は地平線の向こうに沈み、闇が町を飲み込み始める。
「ちくしょう! いねえ」
ユアンはホテルのロビーにいた。だが明かりが灯り、戸が全開だったにも関わらず、中には誰もいなかった。
「あのじじい、こんな時にどこいってんだよ!」
落ち着きがなくなっているユアンは、荒い足取りでホテルの三階――昨日ユアンとキャロルが借りた部屋に向かう。そして勢いよく扉を開け放ったユアンだったが、
「くそっ」
そう吐き捨てただけだった。
部屋の中もロビー同様、誰もいなかった。端っこに自分とキャロルの鞄が置かれているが、触られた形跡はない。それは昼食を食べに行ってから、誰もこの部屋に入ってきていない事を意味していた。
その後も他の部屋や風呂場など、様々な場所を探し回った。しかし結果はどれも同じで、誰一人として見つける事ができなかった。
「まだ、帰って来ていない」
その事実に、ユアンの焦りは増すばかり。
ホテルの外に出ると、町の中央へと進路を取る。
「後は、教会と広場だけ」
拳を握り締めて、彼は再び走り出す。