4 知らないこと
人が多く集まっていたのは『リーヴァリー』の市場付近にある、三階建ての建物と建物に挟まれた狭い小道だった。だが、一応そこは事件現場なので人だかりはその周りにできている。
と、そんな野次馬達の中を掻き分けて必死に現場に近づこうとしている少女が一人。
キャロルだ。
彼女の年齢は十二・三歳ぐらいだ。よって背も高くない。周りは皆彼女より背の高い大人ばかりで彼女は丈の長い草原を掻き分けるように進んでいた。
「……ここだ」
そう言ったキャロルは、足を止めた。彼女は今、爆発事件が起こった現場の前にいる。理由はある事を確かめるためだ。事件の現場となった小道の入り口には、『Keep out』と記された黄色いテープで塞がれており、その前を複数の修道士が警備している。
だが、今の彼女の視界にはそんなものは映っていない。
映っているのは現場の状態だった。
簡単に言うと、たくさんの物が転がっていた。それは食べ物もあれば食器などの家具や服などの日用品もある。
キャロルはユアンが何を買い込んだのか知らない。だからそれらがユアンの物だと言う確証もない。最近知り合ったばかりだから、どういう買い物の仕方をするのかも分からなければ、買ってくる品の特徴も分からない。
つまり、キャロルはユアンの事を何も知らないのだ。
(やっぱり、本当に、一緒に買い物、行けばよかった)
知らない事を、こんなにも辛く思った事はない。
(あの人は、人のことばかり聞いてきて自分のことは何も話してくれない。わたしが聞かなかったからってのもあるけど……)
いや、と彼女は首を横に振り、
(わたしが聞かなかったから、だよね。わたしがいろいろ聞いていれば、あの人のことをもっと知ろうとしていれば……)
この事件とあの人は関係ないと分かったのに。
キャロルは小さな掌で作られた小さな拳に力を込めて、歯軋りした。
(あの人とは絶対に関係ない。それを証明するにはあの人を探し出さなくちゃならない)
現在の時間は二時二五分。
市場の最盛期だ。
特に今日の市場はいつもよりも人が多いらしく、殺人事件や爆発事件があったのにも関わらず人が減った気配はない。さらに増えたと言っても過言じゃない。
(ここじゃあ東洋系の顔立ちの人は目立つから、聞き込んでいけば必ず見つけられるはず!)
もっとも、それは爆発事件の被害者でなかった場合だが。
彼女はそれを決して信じない。
(必ず、あの人はわたしが見つけ出してみせる!)