3 連行
そこは『リーヴァリー』の北西入り口。
大勢の商人が行き交うその入り口に、一人の男が立っていた。
「やっと、着いたか」
男は三〇歳過ぎのおっさんだった。背は高く、黒く短い髪に赤い瞳、頬に大きな切り傷を負っている。体つきはよく、小さなバックを右肩に担いでいた。服装はグレーのジーンズに青いT=シャツなのだが、かなり汚れている。そのためか、彼はあまり周囲の人間に良い印象を与えていなかった。
「途中、道に迷うわ砂嵐に巻き込まれるわで散々な旅路だったが、無事着いて何よりだな」
砂嵐に巻き込まれても生きていた男は、一人事を言いながら周りを軽く見渡す。
「さて、彼女はどこにいるのか」
そして前に視線を向けると、町に一歩踏み入れた。すると、
「ちょっといいですか?」
隣から黒い修道服を着た神父に呼び止められた。
この町、と言うよりこの世界では、神父などの聖職者は警官の役目も果たしている。つまりこれは警官に呼び止められた事と同じ状況で、それは何かしらの疑いが掛けられていると言う事で……。
「……」
男はリアクションに迷って困って固まって動かなくなった。
「……あの、聞いていますか?」
神父は男に訝しげな視線を向けている。固まっていた男は何とか冷静さを取り戻し、
「あっ、はい! 全然聞いてますっ!」
平静を保とうとする。だがその行為が逆に怪しい感じを醸し出している事をまだ本人は気付いていない。神父の視線はどんどん悪くなっていく。
(ここで変に焦っちゃダメだ! 俺は別に何も悪い事はやってねーんだから捕まる理由もない!)
「はぁ、それなら良いんですけど」
神父は相変わらず怪訝な視線を向けている。
「それで、何か御用でしょうか?」
「ああはい、ちょっと一緒にそこの教会まで来てもらえますか?」
「……」
現代語に翻訳すると『ちょっと署まで来てもらえますか?』になる。
つまり、
「いきなり連行かよ!」
と、言葉に出すわけにはいかなかったので心の中で叫んだ男。
(理由もないのにいきなり捕まっちゃったよ! 着いて早々意味わかんない疑いかけられちゃったよ!)
そして男は教会に連れて行かれた。
とあるおっさんの話です。