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アルス×マグス  作者: KIDAI
第二章 悲劇の追憶
31/64

9 別々に

「つーかさ、お前のその話だと少し不自然なところがあるよな」


「?」


 気を取り直して本題に戻る二人。


「まず一つ目が、お前の両親は術者で、しかも相当な使い手だったんだろ?」


「そうだよ。周りはみんな『魔道師』並だって言ってた」


「でもお前のアニキに呆気なく殺られたと」


「……」


 そう言った途端にキャロルの表情が暗くなった。だが、ユアンはそれをあえて無視して、


「でも、それおかしくねーか?」


「……?」


「だって『魔道師』ランクの術者がそんな呆気なくやられるとは思えねーんだよな。お前のアニキも『魔道師』ランクだったとしても、勝敗は一発や二発じゃ決まらない」


 同じ実力を持つ術者同士の戦闘は、一瞬で決着が付く事はほとんどない。互いが数々の攻防を繰り返し、体力や元力マグナを削り合い、そこで出た経験の僅かな差や術式の相性、また戦闘中での術式の使いどころの判断で、初めて勝敗が決まる。

 ましてやキャロルの両親(特に母親)は術者試験を受ければ『魔道師』ランク間違いなし! なんて言われていた術者だ。戦闘の経験に至っては心配ないだろう。

 そんな術者が、自分の息子にあっさり殺されるとは考え難い。不意打ちを食らったのならまだ納得できるが、さっきのキャロルの話だと、彼女の母親は真正面から兄に立ち向かったと言っている。しかも術式を発動させて。


「つまり、何が言いたいのかと言うと」


 ユアンは一泊置いて、言葉を放つ。



「お前の両親は、わざと殺された可能性がある」



「ッ!?」


 当然、キャロルは驚く訳だが。

 しかし、それは飽くまで可能性の範疇でしかない。実際にキャロルの両親や兄の実力を知っている訳でもないし、その時の現場に居合わせていた訳でもない。もしかしたら兄は半年でもの凄い成長を成し遂げ、両親を軽く越す力を身につけたのかもしれない。もしかしたら他に術者がいたのかもしれない。


「ま、根も葉もないただの仮説だがな」


 ユアンは片手を振りながら、


「それと次に、どうしてお前の母親は『薔薇十字』の計画を知っていたのかって事なんだが」


「……、」


 それは、この件で最大の謎と言ってもいいだろう。

『薔薇十字団』はどういう組織なのか、ほとんど分かっていない秘密主義な組織だ。そんな組織からこれからしようとしている『計画』が漏れるとは考え難い。

 だが現に、情報は漏れてキャロルの頭の中に入っている。そして連中はどういう経緯で知ったのか、キャロルが『計画』を知っている事を知っている。


「多分、これにはもっと深い何かがある。俺なんかが想像もできない何かが」


 なぜキャロルの兄は『薔薇十字団』の団員になったのか。

 なぜキャロルの両親は彼女の兄に呆気なく殺されたのか。

 なぜキャロルの母親は『薔薇十字団』の計画を知っていたのか。


 他にも彼女の住んでいた町が破壊されていた事や、彼女の背中にあった謎の『陣』の事など、不可解な所はかなりあるがユアンはそれら全てを口に出す気はなかった。


「いろいろ謎は多いが、まずはその頭の中にある『薔薇十字団』の『計画』を教会に伝えなきゃいけない。だが、口で言っただけじゃ誰も信じてくれない。だから頭の中の情報を引き出せる教会の術者を探しているって事か」


 大体事情を理解したユアンは、ベンチから立ち上がる。


「よし。それならさっさと行こう。もしかしたらそこの教会に頭の中の記憶を引き出せる術者がいるかもしれないし」


 ここで彼は、ふと思った。

 この町に探している術者がいたら、おそらく彼女とは別れる事になるだろう。『薔薇十字団』の計画を知っている彼女の身柄は、教会が保護してくれるだろうから。そうなったらユアンは不要になる。

 そう思うと少し寂しさが残るが、彼女の命が掛かっているんだ。そんな自己中心的な事は言ってられない。

 心のどこかで彼女との別れを決意したユアンだったが──、


「この町の教会にはわたしが探してる術者はいないよ」


 彼女はそう口にした。


「は? お前この町くんの初めてなんだろ? 何でそんな事知ってんだよ」


「初めて来る町でもその町にある教会のメンバーぐらいは簡単に調べられるんだよ」


 マジで? とユアンはキャロルの言葉に驚嘆する。


「ついでに言うと『記憶表示マインドディスプレイ』系の術式を使う術者がどこの教会にいるかもわかってたり」


「そうなのか!? じゃあ何で早く会いに行かないんだよ」


「だって居場所知ったのつい最近だもん。これでもかなり急いでるんだから」


 彼女の話だと、この町から北西に向かった先にある『ワルシャ』と言う町の教会に、目的の術を使える術者がいるらしい。


「それでね、ワルシャに向かう道中にわたしの知り合いが住んでる町があるの」


 そう言ったキャロルの声が少しだけ楽しげに聞こえた。


「知り合い?」


「元は父の友達でアーウェル=ローマーって言う人なんだけど、むかし何度か家にきてくれて遊んでくれた人なの」


「……」


 この時、ユアンは少しだけ驚いていた。

 彼女は既に両親を亡くしている。そして兄は『薔薇十字団』の団員。だから今の彼女には自分以外、頼れる家族や仲間、知り合いがいないと彼は勝手に思い込んでいた。

 しかし、家族がいない事が世界中で一人だけになるとは限らない。今までずっと部屋で閉じこもっていた訳ではない彼女には、さまざまな人との出会いがあり、さまざまな人とのつながりがある。

 ユアンはその事に内心ホッとしていた。彼女が完璧な孤独ではない事に。


「じゃあどうするよ? すぐにでも会いに行くか?」


 ユアンの意見にキャロルは『うーん』と考え込む。そして待つこと数秒、


「実はね、アーウェル小父さんにはもう連絡してあるんだよね」


「え?」


 彼女の意外な言葉に彼はまたもや驚かされる。


「『一週間後に会いに行きます』って手紙送ったの。でも手紙送ってからすでに一週間経っちゃってるんだよね。だからここでわたしから提案があるの」


「提案?」


「役割分担するの。わたしは教会に行ってアーウェルさん宛ての手紙を書いて、それを送る。その間に貴方は旅の食料を調達するの」


「? なんで別々に行動する必要があるんだ? 食料なんて後で一緒に買いに行けばいいじゃねーか」


「でも絶対一緒に行かなきゃならない理由もないでしょ?」


「そりゃまあそうだけど……」


「それとも貴方はわたしと買い物デートしたいの? 手を繋いで仲良くカップルみたいに」


「なっ、別にんな事言ってねーだろ!」


 若干顔を赤くしながらユアンはキャロルの言葉を全力で否定した。するとキャロルは、


「……むっ、そんなに強く否定しなくてもいいのに」


 と、頬を膨らませてなぜか拗ねてしまった。だが次には、


「ま、貴方がそう言うならいいんだけどね」


 何だか怒っているような感じに変わっていた。


「それじゃわたしはこれから教会に行って手紙書いてくるから、貴方はちゃんと旅の食料二人分買っておくんだよ」


 そう言い残すと、彼女はさっさと一人で教会に向かって行く。

 しばらくキャロルの背中を眺めていたユアンは、彼女が教会の中に入っていくのを確認すると、ベンチから立ち上がった。


「何でキャロルが怒ってんのかわかんねーけど、暇になったしあいつの言う通り、旅の食料でも買いに行きますか」


 現在時刻は一時四十九分。

 キャロルは教会、ユアンは町の市場へ足を運ぶ。


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