8 似たもの同士
周りは陽気な陽の光に包まれて、子ども達は追いかけっこをして楽しそうに遊んでいる。
この広場はそんな、平和を絵に描いたようなところだった。
(両親を殺された。自分の目の前で。しかも殺した相手が実の兄だなんて……)
だが、広場の隅にある幾つかのベンチの内の一つに、明らかにこの場には相応しくない暗い雰囲気を出している少年と少女がいた。
「「……」」
二人は黙り込んでいた。話し終えたキャロルは俯いて喋らなくなり、黙って話を聞いていたユアンは未だに黙ったまま。
なのだが、ユアンの場合は黙るしかないのかもしれない。
なぜなら、キャロルが抱えている『闇』は、彼が思っていた以上に残酷で、深かったから。
(……くそっ)
ユアンは心の中で吐き捨てた。
(何だよそれ、ふざけんなよ。こいつ、今までこんなもんを一人で抱えて旅してたのかよ)
普通なら、心が壊れてしまっていてもおかしくない現実だった。生きる気力をなくし、自ら死を選んでしまっていても不思議じゃない。この誰もいない世界で、一人だけの世界で、殺される恐怖に怯えながら毎日ビクビク過ごすより、死んだほうがマシかもしれないから。
でも、彼女は生きる事を選んだ。自分に託された使命を果たすため、生きようとしている。
それはとても厳しい選択で、強い心を持っていなければ決してできない事だ。
(……この娘は、いったい)
だからユアンは思う。心の底から。
(なんでこんなにも、真っ直ぐなんだ)
彼にはキャロルの気持ちが少しだけ、いや、それ以上に分かる。
それは、彼も彼女と同じような経験をしているから。同じような思いをした事があるから。
「……お前は、強いな」
「え?」
と、さっきまで何も喋らなかったユアンが突然言葉を放ったせいで、キャロルは少しびっくりしたらしい。ユアンは続けて、
「俺は、お前みたいにできなかった。怯える事しかできなかった。お前みたいに、前に進む事ができなかった」
彼の脳裏に、薄汚れた暗い部屋の隅で震えながら丸まっている自分の姿が一瞬過ぎる。
「……どういう、こと?」
ユアンの言葉にキャロルは怪訝な表情を浮かべる。だが、彼は優しく笑って、
「俺とお前は、似たもの同士ってこと」
キャロルの頭を撫でるだけ。
その時のユアンの笑みが悲しみに沈んでいた事は、この場にいた彼女しかしらない。