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アルス×マグス  作者: KIDAI
序章 遺跡にて
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2 稲妻

 この世には科学技術は存在しない。

 代わりに『術』と言う魔法に似た力が存在する。

 炎や風を熾すのも、水や土を出現させるのも、光や音を放つのも、全て『術』で行う。

 そして人は誰しも体内に『元力マグナ』と呼ばれるエネルギーを持っている。それの総量は人によって差があり、修行などをしても決して増える事はないものの、人々は皆『元力マグナ』を使い『術』を発動させる。

 ゴーレムもそんな『術』によって作られている。今回の場合はトラップ式ゴーレムと言い、何らかの条件が満たされると自動的に発動し条件にあった標的を叩き潰す、主に建造物の護衛に使われるものだ。ゴーレムを動かすためのエネルギーは、基本的にゴーレム本体──主に胴体の中心部に貯められている。


(だからエネルギーである元力マグナが切れるまで、逃げ回っていれば良い訳なんだが……)


「いったい、いつになったら止まるんだよぉおおおおおおおおおお!」


 絶叫するユアンの後を、ゴーレムは乾いた大地を容赦なく踏み潰しながら追いかけて来る。


(ちくしょう、俺の力だけじゃあいつは止められないっ)


 ゴーレムが地面を踏み締める度に起こる地震に似た振動に、毎回足を掬われそうになる。


(そう言えば攻撃すれば元力マグナを減らす事ができるって聞いた事があるな)


 そんな事を思い出しユアンは走りながら後ろを振り向く。

 すると、ゴーレムが己の巨大な右腕を、拳を握って振り上げていた。


「やば、い──ッ!」


 だが、気付いた時には遅かった。

 ゴーレムは釘を打ち付けるように、標的を叩き潰すためその岩塊を振り下ろす。

 轟ッ!! と言う振動に大地が、音に大気が震えた。

 ところが、それは右腕が振り下ろされたものではない。

 ゴーレムの右腕が、左からの不意な攻撃により破壊されたものだった。上腕部分が砕け散り、残った前腕部分が回転しながら飛んでいく。

 再び揺れが両足に伝わった。視界の隅に濛々と込み上げている粉塵が映り込む。吹っ飛んでいった前腕部が遺跡内のどこかに落下したのだろう。


「は……?」


 思わず立ち止まっていたユアンには、何が起こったのか分からなかった。彼にはゴーレムの腕が突然吹き飛んだように見えたのだ。

 しかし、ゴーレムはその程度では止まらない。右が消えたのなら次は左で、と言うように腕を振り上げ再び標的を圧殺するべく動き出す。

 呆然としていたユアンだったが、そこへ声が聞こえてきた。


「そこの面白い人、ぼーっとしてたら死んじゃうよ♪」


 そんな声を聞いたと思ったら、

 一体いつ現れたのか、その女の子は目の前に立っていた。

 ユアンに背を向け、ゴーレムの真正面に。

 女の子は濃い紫色のローブを羽織り、つばの広い三角帽子を被っていた。

 そして右手には身の丈ほどの杖を握っていた。杖の先端には鉤爪のような形状をした、三つの鋭い爪が付いている。そのため杖と言うより槍に近い。


「さて、ゴーレムきみには止まってもらうよ」


 そう言って杖の先端に付いている三つの爪をゴーレムに向けた女の子は、


術式の発動ようせいさんきてください♪」


 そのまま陽気に唄い出す。


精霊の書のわたしはあなた契約に基づくのけいやくしゃ♪」


 とても綺麗な音色に、ユアンは思わず聞きいっていた。

 対しゴーレムは左肘を引き、今度こそ標的を潰すために狙いを定める。


元力の形成わたしのちからと座標の固定ひきかえに♪」


 と、そこである変化に気付いた。

 杖の先端に付いている三つの爪の中心。その中で、何かが煌いたのだ。

 最初のうちは断続的で不安定なものだったが、


光と音を超越した現象おおきなおととひかりをちょうだい♪」


 次第に大きくなっていき、それを見ていたユアンが何らかの『術』だと判断した時には、


トルトニスつらぬけ♪」


 女の子は既に詠唱を終えており、ゴーレムは左拳を前に突き出し、それは起こった。

 ドゴンッ!! と、耳をつんざくような轟音と、視界を覆うような閃光を纏った白い稲妻が、三つの爪の中から発射された。

 ほぼ同時に発射されたゴーレムの拳を消し飛ばし、そのまま肢体の中心に突き刺さる。

 それは天から降る落雷そのものだった。

 あまりの光量にユアンは目を瞑っていたが、またすぐに瞼を開く。


「……嘘だろ」


 そして、第一声は再びの絶句だった。

 簡潔に言おう。

 ゴーレムの胴体に直径二メートル以上ある風穴が空いていた。

 一瞬動きを止めていたゴーレムだが、全身に亀裂が走りガラガラと崩れ去る。

 崩れる音が悲鳴のように聞こえたのは気のせいか。

 大量の遺跡の残骸に地面が震える。灰色の粉塵が視界を覆う。


(……止まった?)


 灰色のカーテンが視界を仕切っているせいで確信はできないが、十中八九ゴーレムは壊れているだろう。


(何だかよくわかんねーけど、助かった)


 ようやく安堵の息を出したユアンだが、そこで再び女の子の声が聞こえた。


「あーもうこれうっとーしいっ!」


 投げやりの声が届くと同時に、前方から不自然な風が吹いた。それは粉塵を攫って行きユアンの視界を解き放つ。

 目の前に現れたのは魔女のような女の子。

 彼女はユアンに視線を向けると、のん気な声で言葉を発する。


「やっほー♪ 大丈夫だったぁ?」


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