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アルス×マグス  作者: KIDAI
第二章 悲劇の追憶
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5 追う者

 ここは『リーヴァリー』の町から南に数キロ離れた荒野。そこに一軒の小屋が建てられていた。


「やーっと、追い詰めた」


 藁と小さな机しかない小屋の中に、黒いローブを羽織ってフードを被った一人の少年の声が響き渡る。


「……た、のむ。もう、やめて、くれっ」


 そして、その少年の前には体重一〇〇キロ以上はあるだろう、太った大男が倒れていた。だが大男は両目を包帯で覆われていて、身体には無数の切り傷があった。その切り傷は以前誰かにつけられたものから、今さっきつけられたものまで様々だった。


「……『標的』の、護衛の特徴は、さっき説明、しただろっ。もう俺に、用は、ないはずだ。だから、これ以上は、やめてくれっ!」


 血反吐を吐きながら必死に命乞いをする大男に対し、少年は、


「そいつはできねーなぁ。お前は重大なルール違反をした。だからここで死ね」


「……そんな。嫌だ、俺はまだ死にたくない!」


 大男はぼろぼろの身体を這い蹲らせて、少年から離れようとする。

 対する少年はローブの中に片手を突っ込んで、


「豚が。どこに行く気だそんな体で? 逃げられると本気で思ってんのか?」


 そして、

 ドスッ、と大男の右肩から鈍い音が聞こえた。それは一本のナイフが突き刺さった音だった。


「がっ! がぁああああ!」


 激痛に大声を挙げて肩を押さえる大男に、少年はただ冷たい視線を向けるだけ。


「痛いか? 苦しいか? その痛みから解放されたかったら、さっさと他の逃げた奴らの居場所を吐け」


「しっ知らねーよ。俺は、目が見えねーから、奴らがどこ行ったかなんて、わかんねーよっ!」


「信じられないな。お前とデリック、それとアルデは兄弟みたいに仲が良かったじゃねーか。とくにデリックはお前らを実の弟のように慕っていた。あいつがお前を見捨てるのは考え難い」


「……そんなの、昔の、話だ」


「それに、お前には『嗅ぐ』力があるだろう? そいつを使えば奴らの居場所なんてすぐ分かるはずだ」


「……っ」


 少年は大男の元上司だった。だから彼らの事はよく知っているのだろう。大男とその周りの人間との関係を。


「まあいい。言う気も『嗅ぐ』気もないならここでくたばるんだな」


「まっ待ってくれっ! 分かった。あいつらの、居場所を教える。だから、殺さないでくれっ!」


 立ち去ろうとする少年に、大男は縋るような声で呼び止める。


「本当か?」


 振り返り、大男の真偽を確かめる少年。


「ああ。あいつらは、ここから北の所にある、山に向かった。別れてから、まだそんなに時間は経って、いないはずだから、多分すぐに、追いつける、はずだ」


 途切れ途切れの言葉で、大男は必死に喋る。


「そうか」


 少年はその場で大男の言ったことに対し頷き、考え込むと、



「嘘だな」



 そう、即座に否定した。


「なっ!?」


「お前は賢い男だ。そして何より仲間思いでもある。デリック同様にな。どうせ時間稼ぎが目的だろう。わざと違う方向を言って俺から奴らを遠ざけようとでも考えたんだろ?」


「……っ、」


 表情の固まった大男の顔を見て、少年はニヤリと歪んだ笑みを浮かべる。


「俺の勘だと、奴らは……そうだな、南東に向かったか。行けば黒海に突き当たる。船を使えば『組織』から逃げ切れる確率は格段に上がるからな」


 ちくしょう、と大男の口から悔しさの篭った言葉が漏れる。


「どうやら、全て図星のようだな」


 少年は大男に嘲りの視線を向けると、


「豚の分際で俺に嘘をつくたーいい度胸だ。……肩爆ぜて死ね」


 そう言い放った瞬間だった。



 大男の右肩に刺さっていたナイフが、突如爆発した。



 内部から弾け跳んだ肩・肺・胸襟、肩を押さえていた左手などが小屋中に飛び散り、根元から引き千切られた右腕が回転しながら少年の足元に転がってきた。ナイフの破片が大男の身体のいたるところに突き刺さり、傷口からは大量の血液が溢れ出ている。


「太ってる割に、肉の弾け具合がいまいちだったな」


 上半身の半分を吹き飛ばされた大男は、悲鳴もあげずに絶命した。

 そして、彼の顔には悔しさの涙が流れていた。仲間に迫る危険を遠ざける事ができなかったから。仲間を救う事ができなかったから。自分の死が、無駄死になってしまったから。


「さーって、次はどうするか」


 黒いローブを羽織った少年は、静かに小屋から外に出る。その際、小屋に風が吹き込んだ。風は少年の黒いローブを靡かせ、フードを頭から外していった。


 少年の素顔が露になる。


 黒と赤の髪の色をしていた。正確に言うなら元は黒髪だったのだろうが、毛先が血のような赤に染められている。耳には金色のピアス。瞳の色は赤っぽい黒。どこから見ても善人には見えない少年だった。

 実際、彼は善人ではない。


「デリック達を追うか、それとも『標的』を抹殺するか」


 少年は俯いて、しばらくその場で考え込む。そして、


「よし、決めた」


 顔を上げ、次の任務に出かける。

 彼の通った道には、赤色しか残らない。


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