4 思い〔前編〕
時計の針は十二時五五分を指していた。
「それでこれからどうするの?」
成人男性の約五人分の昼食+ユアンの昼食を一人で全て食べ終えた大食い少女キャロルが、不意にそんな事を言ってきた。
「そうだな、金はまだあるし、『中央都市』までの食料とかを買いに行こうかなって考えてるけど」
「貴方って『中央都市』に行きたいの?」
『中央都市』とは、世界の半分を支配している東西クロス教と言う宗教組織の首都。
この世界では宗教組織が国家としての役割を果たしている。
「そういや言ってなかったな。俺、ロンドン宗教団に入ろうと思ってるんだ。あそこなら色々珍しい情報とか入ってきそうだし、何より組織の『縛り』が一番緩いんだよ」
ロンドン宗教団。東西クロス教の一派で、術式の研究・解析・創作に発掘、それと対術師戦などに特化した組織。組織としての統一性は他の組織より緩めで、基本的に任務がない時は、所属の術者は自由行動を取れる。
「へー、貴方がねー、ロンドン宗教団にねー」
「おいキャロル。『お前じゃ入るのなんてムリムリ』って目が語りかけてくるんだけど」
「だってロンドン宗教団って『魔術師』以上じゃないと入れないんでしょ? 貴方自分で『見習い』だって言ってたじゃん。それなのにどうやって入るつもりなの?」
「……」
キャロルの言うとおり、ロンドン宗教団は『魔術師』以上でなければ入れない。過去に『魔法師』ランクで入団した例もあるらしいが、『魔法師』以下の『見習い術師』では常識的に入る事はできないだろう。
そう、『常識的』には。
「まあ一般論だとそうなんだろうが、俺の場合は特別なんだよ」
「特別って、自分で言うと恥ずかしくない?」
痛いものでも見ているかのよう視線を向けてくるキャロルに、『うるせぇ黙って聞いてろ』と制するユアン。
「俺はロンドン宗教団のトップに、ある手紙を届けなきゃならねーんだよ」
「?」
キャロルが首を傾げていると、ユアンはコートの懐から一枚の白い封筒を取り出した。
「これ、俺の師匠からの手紙。なんかしんないけど俺の師匠とロンドン宗教団のトップは知り合いみたいで、時々手紙とか出し合ってんだとよ。でも今回の手紙は今までのとは格が違うかなり重要なものらしくて、『お前が届けてこい』って師匠に言われてるんだよ。まったく人使いの荒い人だぜ」
まあ、とユアンは続けて、
「ロンドン宗教団に入るってのは手紙を届けに行くついでなんだけど、師匠がせっかく紹介状書いてくれたんだから、ついでに入っちゃおうかなーってだけ。『見習い』だから入れないってんなら別に無理して入るつもりはねーんだ」
二枚重ねにしてあったのか、ユアンは白い手紙の後ろからもう一枚同じような手紙をキャロルに見せた。おそらくそれが師匠からの紹介状だろう。
「じゃあロンドン宗教団に入れなかったらどうするの?」
「そん時は師匠を探してまた旅に出る予定」
「ふーん」
キャロルはそれ以上何も言ってこなかったから、ユアンは手紙を懐にしまう。
「さて、飯も食ったことだし(俺は全然食ってねーけどな)買い物にでも行くか。お前はどうすんだ?」
「わたしは……、もうちょっとここに居ようかな」
「そっか。じゃあこっからは別行動だ。夕方、ホテルに集合ってことで」
コクリと俯いたままキャロルが頷くと、椅子から立ち上がったユアンは、彼女の隣を通ってそのまま飲食店の出口に向かおうとした。
だが……、
長いと思ったので二つに分けました。
次はこの二倍の長さだと思います。